官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第48回】川琴ゆい華『宵越しの恋』

BL

2014/7/1

川琴ゆい華『宵越しの恋』

転落事故で一時的に記憶が飛んだ深尋は、中学高校時代の同級生で、かつて嫌がらせをしていた相手・准平と再会する。苦い過去を思い出しいたたまれない深尋に、なんと准平は「深尋は俺の恋人だ」と告げた。これは准平の復讐? 神様からの懺悔のお告げ? 記憶喪失のふりをして准平の真意を探ろうとする深尋だが、優しく自分に触れる彼の手に悪意は感じられず――。塗り重ねた嘘の間で続くふたりの奇妙な関係の行く末は――。

 

 色とりどりの紙屑が、手のひらから離れて宙を舞う。

 赤、青、黄、緑、紫……そして金と銀。教室の四角い窓から外に放たれた紙吹雪は、五月の晴天のグランドに、その隅にある大きな楡の木に、はらはらと散ってゆく。

 紙屑を放った三度目で、「こらぁ!」という声が深尋(みひろ)の耳に届いた。校舎の四階の窓から下を覗くと、高校二年の学年主任がバインダーを翳して見上げている。

「紙屑を窓から投げ捨てているのは誰だ」

 下からだと逆光で、誰だかよく分からないらしい。

「とにかく、降りてきて掃除しろー」

「すみませーん」

 何やってんだよ、と背後からクラスメイトに笑われて、深尋は苦笑いを浮かべながら教室を出た。

 昼休みで賑わう廊下を通り、階段を駆け下りる。途中で男女数人に声をかけられ、それを躱して一階まで下りたところで、階段下の掃除道具置き場から箒とちりとりを取り出した。

 外に繋がる扉を開ける。春の日差しとはいえ眉間に刺さるような明るさで、深尋は一瞬顔を顰めた。

「……掃除しろって言ったってなぁ……」

 何せ紙屑だ。風にのせて広範囲にばら撒いてしまった。プールに絵の具を垂らしてもその色が薄まってしまうのと一緒で、色紙にして十枚分程度、探すのも大変だ。手にした掃除道具を使うほどのこともない。

 色紙は午前中に行われた美術の授業で残ったものだった。絵筆を使わずに絵を描く課題で、深尋はちぎり絵を制作していた。

 課題で余ったカラフルな紙。手のひらのそれを見ていたら、ふと、風に飛ばしたくなったのだ。

 ほんの出来心で散らしたものを気まぐれに拾って歩くうち、日陰のベンチで寝転ぶ生徒の頭に金色の紙屑がくっついているのに気が付いた。生徒は背もたれがないベンチに横向きで、深尋に背中を向け、腕枕で寝ている。

 いつもの深尋なら声をかけて取ってやるところだが、数歩近付いてから歩みをとめた。ぐっと眉間を狭める。

「……っ」

 一瞬湧いた親切心を、もったいないとばかりに引っ込めた。そこに寝転んでいたのが、糀谷准平(こうじやじゅんぺい)だったからだ。

 ただの一歩だって近付きたくない。逢坂深尋がそんなふうに人を毛嫌いするのは、この学校内で彼だけ。

 コンクリートや土の上でちょっと目立っている紙屑を適当に拾って、深尋はさっさとその場から退散することにした。

 気になってしかたない。

 午後の授業が始まって、最後のコマの七時限目になってもまだ、准平の黒髪に金色の紙屑がくっついたままなのだ。深尋は准平の左後方の席で、いやでもあの金色が目に入る。

 ズボンのポケットにある携帯がブルブルッと震えた。教壇に立つ数学教師に気付かれないよう、机の下でメールをチェックする。

『深尋、ホモ平のあれ、マーキングのつもりかよ』

 メールの送り主は三列左隣の児島からだ。読んだ直後に顔を顰めた。マーキングってどういう意味だ、という焦りと苛立ちで体温が上がる。

 准平の頭の紙屑を、『所有者だと誇示している』と揶揄されて、深尋は児島に向かってイーッと歯を剥いて見せたあとで笑顔を付け足した。

 へたな誘導尋問に引っかかるわけにはいかない。危うさのぎりぎり手前で作った茶目っ気すらある深尋のその表情に、児島は肩を揺らして笑っている。児島は 深尋がこういう反応をすると分かっていて、わざと絡んでいるのだ。からかっているだけじゃなく、『深尋も、糀谷のこと意識してるんだもんな』と牽制してい る。児島のそれを笑って躱す以外に、この場をやり過ごす選択肢はない。

 准平の髪でキラキラ光る、金色。

 他のクラスメイトだって、午後の授業の三コマ目になっても誰ひとりとして「髪に紙屑が付いてるよ」と声をかけようともしない。

 

2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊

一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。

9月13日創刊 電子版も同時発売
  • 欲ばりな首すじ
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