キャプテンコラム第16回 「本屋さんへ行くとトイレに行きたくなりませんか?」

キャプテンコラム

2011/10/19

ダ・ヴィンチ電子ナビ キャプテン:横里 隆

ぼくたち電子ナビ編集部は、
どこか学生時代の部活動のようなところがあります。
だから編集長じゃなくてキャプテンなのです。
そしてネットの海を渡る船長という意味も込めて。
みんなの航海の小さな羅針盤になれたらいいなと。
電子書籍のこと、紙の本のこと、
ふらふらと風まかせにお話ししていきます。

 子どもの頃からずっと、本屋さんや図書館へ行くと必ずと言っていいほど便意をもよおし、自分でもどうしてなのか不思議に思ったものでした。(こんな冒頭でごめんなさい!)

 だから、ダ・ヴィンチが創刊したばかりの頃(18年くらい前)、読者Q&Aコーナーでそのテーマを取り上げ、調べたのです。書店から出てくるお客さんをつかまえてたずねてみました。
 「あの……、その……、今、本屋さんと人間の生理現象についての関連を調査をしているのですが、本屋さんにくるとトイレに行きたくなりませんか? いや、ちっさいほうじゃなくて、おっきいほう……なんですが……」と。
 ヒアリング調査の結果、すべての人が該当するというわけではありませんでしたが、ある一定数の人はしっかり便意をもよおすということがわかりました。ぼくだけではなかったのです。
 では、なぜそうなるのでしょう。医者や学者にも聞いてみても、どうもはっきりしたことはわかりませんでした。そこで、個人的見解になってしまうのですが、やはりある種の興奮状態におちいるからそうなるのだと思うことにしました。数多くの本を目の前にして、どきどきわくわくすることで、アドレナリンか何かが分泌されるのではないか、ぼくは勝手にそう思っています。

 このとき大事なのは、実際に読んでおもしろかった本のかずかずを目の前にして興奮しているのではないということです。ぼくは、まだ未読の本たち(おそらく一生未読のままに終わってしまうであろう本たち)に囲まれて興奮しているのです。読んだらきっとおもしろい本がたくさんあると想像して、その期待感に胸を躍らせているのです。
 そう、ぼくは期待感に興奮し、生理現象まで発動させていたのです。

 この期待感というものは、あらゆる表現物の魅力の本質に大きく関わっていると思います。

 ちょっと乱暴に言いきってしまうと、「実際におもしろい」ということよりも、「おもしろそう」ということの方が、コンテンツを商材として見たときには重要だったりします。このときの「おもしろそう」の「そう」は、まさに期待感です。
 ぼくたちは期待感にこそ反応し、それを消費しているのです。
 考えてみてください。観る映画を監督で選ぶのも、その監督に期待しているからでしょうし、本をオビの推薦コメントやあらすじで選ぶのも、そのコピーに期待感を煽られているからでしょう。
 本の装丁も、雑誌の表紙やデザインも、このサイトのデザインだって同じです。期待感を演出するための工夫が凝らされています。
 例えば本の装丁で言えば、機能だけに特化していいのなら本のタイトルと著者名だけを大きく印刷すれば足りるはずなのです。でも、それではなんて味気ない装丁になってしまうことでしょう。本の内容をイメージできるようなイラストや写真を用いて、「おもしろそう」を演出する装丁にしようと、デザイナーも編集者も必死です。それがうまくいった装丁は、見る者をわくわくさせるはずなのです。
 ページをめくれば、めくるめく世界が広がっているかもしれない。そんな期待感が、ぼくたちが本へと向かうときの足取りを軽くしてくれるのです。

 繰り返しになりますが、期待感を演出するためには、必要な機能や情報だけに特化していては足りないのです。たとえば、この「ダ・ヴィンチ電子ナビ」サイトですが、多くのユーザーが魅力的な本と出会うことを目的としたサイトです。そのために、「検索」「レビュー」「ニュース」「インタビュー」「特集」「連載」など、本と出会うための入口をさまざまに設けています。
 とはいえ、直接、本との出会いに繋がる記事ばかりではありません。単に読み物としておもしろいであろうインタビューや連載もあります。それらも含めた全体で、魅力的に見えるサイトにしようと考えているのです。
 ネットでは、検索によって目的の情報にまっすぐアクセスすることが常套(じょうとう)となっています。それはとても便利なことですが、そこに期待感はあるのでしょうか。少なくともぼくは、検索しながら便意をもよおしたりはしないのです。
 こういうことだと思います。練馬区の住宅地の真ん中にポツンと美味しいパン屋さんができました。とびきり美味しい手づくりパンを出してくれるので、遠方からも多くの人が訪れます。そのとき人々は、パン屋さんに行こうとして行動しているのであり、決して練馬区の住宅地に行こうという認識はないはずです。一方、下北沢の駅の近くに美味しいケーキ屋さんができました。この場合は、ケーキ屋さんに行こうという人と、下北沢に行こうという人の両方がいると思うのです。下北沢には、わざわざそこに行こうという場としての魅力があるからです。行けば何かおもしろいお店や出来事があるだろうという期待感に満ちた場所だからです。
 練馬区の住宅地の真ん中のパン屋さんへ行くのは、検索を用いて情報に辿り着くのに似ています。下北沢という街に行ってぶらぶらするのは、電子ナビというサイトに来ていただくのに似ています。
 にぎやかな下北沢には、あなた好みのお店以外にもたくさんのお店がありますが、それも含めて下北沢であり、その街の魅力なのです。

 単体の電子書籍でも同じことが言えます。前回の当コラムでも書きましたが、電子書籍はとても便利ですし、すぐれた機能も付加できます。
 でも、ぼくたちの期待感を煽ってくれるような“何か”はあるのでしょうか。「電子書籍って便利」というだけではなく、「電子書籍っておもしろそう!」という“何か”が必要なのではないでしょうか。

 目の前に並んだ電子書籍を前に、どきどきして便意をもよおすような日が訪れてほしいと、切に願っているのです。

(第16回・了)

※キャプテンコラムは、隔週の水曜日に更新します。次回は11月2日(水)の12:00に更新する予定です。 よろしければぜひまたお越しください。今回もまた、つたない文章を最後まで読んでくださってありがとうございました。どうかあなたが、日々あたたかな気持ちで過ごされますよう。

第1回 「やさしい時代に生まれて〈その①〉」
第2回 「やさしい時代に生まれて〈その②〉/やさしい時代における電子書籍とは?」
第3回 「泡とネットとアミノメの世界の中で」
第4回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その①〉/メリットとデメリット」
第5回 「電子書籍の自費出版が100万部突破!〈その②〉/出版界の反撃」
第6回 「海、隔てながらつなぐもの」
第7回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その①〉」
第8回 「ITユーザー(あなた)は電子書籍の行間を読むか?〈その②〉」
第9回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その①〉」
第10回 「もしもエジソンが電子書籍を作ったら?〈その②〉」
第11回 「大きい100万部と小さい100万部」
第12回 「ぼくがクラシックバレエを習いつづけているわけ」
第13回「生まれ変わったダ・ヴィンチ電子ナビをよろしくお願いします」
第14回「見上げてごらん、夜の星を」
第15回「ひとり占めしたい!という欲望は、電子書籍でどう昇華されるのか?」