官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第54回】三津留ゆう『【お試し読み】純潔ポルノグラフィティ~甘くて淫ら~』

公開日:2014/8/19

――お前が撮るの?

 でも彼は確かに、そう言った。環は自分を、カメラマンとして見ているのだ。

 大きくなる胸の鼓動が、私を急かす。怯む気持ちを奮い立たせて、彼としっかり目を合わせた。

「……はい。私が」

 わずかにしかめた顔さえも、野生の獣のように美しい。

 私はいつのまにか、まじまじと彼のひとみを見つめていた。

「……何だよ」

「い、いえ、別に……」

 そう言ってはみたものの、十年間、撮りたいと思い続けてきた人が目の前に現れたのだ。頭の中でシャッターを切るように、無数のフレーミングが浮かぶ。でも、どうしても、この美しさを伝えられそうな構図が見つからない。

 どうしたら、この美しさを捉えられるのだろう。どうやったら、彼を写し取れるのだろう。迷ってしまう。わからない。見つめることを、止められない――。

「何なんだよ、変なやつ」

 環が眉に、力を込めた。かと思うと、ぶっきらぼうに突き放される。

「わ……っ……!」

 私は、あまりのギャップに茫然とした。

 だって、テレビの中の吉沢環と、ぜんぜん違う……!

 思わず立ち尽くしていると、環がどさりとソファに腰を下ろした。渋い表情で私を見ると、だるそうに口を開く。

「あのさぁ、撮るんならさっさと撮ってくんない? 知ってると思うけど、お前みたいに暇じゃないの」

「す……すみません」

 ずいぶんな言い草だ。カチンときながらも、私はカメラを構え直した。

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。彼にとっては、取るに足らない仕事のひとつだ。でも、私にとっては、ここ一番の大切な仕事。被写体は売れっ子アイドル、新しい機材で、初めてのタレント撮りだ。

 ファインダーを覗きながら、私は言った。

「じゃあ、始めちゃいますね。今日は吉沢さんらしく、エロティックな表情を撮れたらと思ってます」

 すると、レンズ越しの環が、「はぁ?」とますます顔をしかめる。

 現場のうわさでは、機嫌を損ねてしまうと、撮影途中で帰ってしまうこともあるという。早速へそを曲げられてしまったかと、私はむりやり、引きつった愛想笑いを口元に浮かべた。

「いや、あの……」

「エロい気分でもねーのに、そんな顔できるかよ」

 こちらの事情なんて関係ないとでも言いたげに、環がふいと横を向く。

「で……も、ですね? 撮影時間も短くなってきましたし……」

「あのなぁ」

 環は逸らしていた視線を戻すと、じろりと私を睨み上げた。

「入りが遅れたのは、スタイリストがひでぇ服しか持ってこなかったからなの。俺はこれっぽーっちも、悪くないの。わかる?」

 バカにしたような言い方に、私はぐっと言葉を呑んだ。

 環はいよいよ不機嫌そうに、背もたれに腕を預けてそっくり返る。

「あんたもどうせ、あのスタイリストなんかと一緒だろ? 俺の中身なんて知りもしねーくせに、イメージばっかで笑えとかエロくとか……」

 うんざりした調子で言う環が、ふと目つきを緩めるそぶりを見せた。

 撮影に応じる気になったのだろうか。ほっと息をつきかけたそのとき、ソファの横に立っていた私の腰を、環の腕が抱き込んだ。

「わ……っ……!?」

 とっさにカメラをかばおうとして、ソファに背中で着地する。あっというまに組み敷かれ、カメラを持っている両手をあわてて頭の上に避難させた。

「ちょ……な……」

「ふうん? 野暮ったいカッコしてるけど、やっぱりそうだ。締まってて、意外といい体してんじゃん」

 のしかかられ、脚のあいだに割り込まれる。環の大きな手のひらが、カメラを持つ私の両手を押さえ込む。もう一方の手のひらで、ウエストのラインを撫で下ろされた。

「や……っ、何して……!」

「何してるか、わかんない? 中のほうまで、わかり合おうぜって言ってんの」

 くつくつと笑いながら耳の近くでささやかれると、環の甘く掠れた声が、体の深いところに響く。体の奥が、じわりと潤むように熱を持つ。今までの人生で、味わったことのない感覚だ。

 こんなの、知らない――初めての感覚に、私は体をふるわせた。

 身をよじって逃れようとしても、体を固定されてしまって動けない。あまり激しく抗うと、カメラを落としてしまいそうだ。

「や……めて……」

 いつのまにか環の顔が、信じられないくらいに迫っていた。まばたきの音がしそうに長いまつげ、強く光るひとみに射止められ、抵抗さえまともにできない。

「……や……っ……」

「どうして? エロいとこ、撮りたいんだろ?」

 熱い手のひらの感触が、ふとももを這い上る。鼻先が触れる襟足からは、男の人の体温と、香水のかおりがする。

「だったら……その気に、させてみろよ」

 意地悪く笑う環が、薄くくちびるを開いた。

 

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