官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第67回】ゆりの菜櫻【お試し読み】『摩天楼に眠る獅子』

2014/12/16

ゆりの菜櫻【お試し読み】『摩天楼に眠る獅子』

 「お前は私に抱かれるために存在している」――NYで宝石商を営むクリスは誰もが羨む美貌の持ち主。求められるがままに様々な女を、男を、“抱いて”きた。そう、褐色の肌を持つこの男・ハリーファと出逢い、強引な求愛を受けるまでは……。NY、モナコ、マルタ共和国、プラハ、イギリス――アラブの王子×名家の御曹司が、ベッドの主導権を巡り、世界を股にかけて繰り広げるゴージャスすぎるラブ・バトル!

 マンハッタンのほぼ中央にある人工的に残された楽園、セントラルパークが、眼下には広がっていた。

 青々とした木々の向こう側を見れば、薄雲がかった空に、ビルが幾重にも聳え立っている。

 最近、クリスはここニューヨーク、セントラルパークと五番街に面している老舗ホテルを定宿としていた。白を基調としたスイートルームは清楚であるが豪奢でもあり、古き良き時代のアメリカを感じさせ飽きがこない。

 クリスはバスローブ姿のまま、シャンパンを片手にソファーに座って、景色に目を向けていた。

 金の髪が、壁一面の窓から降り注ぐ太陽の光に照らされて、きらきらと輝いている。長い睫の下に静かに息づくのは美しいエメラルドグリーンの瞳だ。

 男女関係なく、誰もがアメリカ屈指の名門、ロイズ家の次男、クリス・ランドレー・ロイズはすこぶるつきの美貌の持ち主だと賞賛する。そして一度はベッドを共にしてみたい青年だとも囁かれていた。

 しかしクリスにおいてはその評価は退屈なもので、さして興味を惹くようなものではなかった。

 元々抱かれる趣味もないので、向こうが秋波を送ってこようが、こちらが抱きたいと思わない限り相手にはしない。よって、実際ベッドを共にする人間は、星の数ほどはいない。確かに人よりは少し多いかもしれないが。

「ねぇ、クリス、早くこっちにおいでよ」

 趣味が高じて宝石商を営んでいるクリスは、昨夜、馴染みのオートクチュールの新作発表会に出掛けた。

 顧客の趣味や、どのようなデザインに人気が集まるのかリサーチして、宝石のデザインに生かすためだ。

 宝石商と言っても、クリスの場合、デザインにも才覚を現し、多くの顧客を持つ宝飾デザイナーとしても活躍している。

 そしてリサーチも兼ねて出掛けたパーティーで知り合ったのが、この男性モデルだ。甘いマスクに華奢な腰の持ち主で、昨晩はクリスを随分と愉しませてくれた。

「君の体力にはついていけないな、少しは休ませてくれないか」

 笑顔で奥の寝室にあるキングサイズのベッドに寝転ぶ青年に視線を送る。

「嘘ばっかり。どうせ僕の躰に飽きたんでしょ」

「そんな失礼なこと、思わないよ」

「どうだか……」

 青年が子供っぽく頬を膨らませた時だった。いきなり部屋のエントランスのベルが勢いよく鳴らされた。

 クリス専属のコンシェルジュが同じフロアで控えているはずなのに、このベルが鳴らせるのは、クリスの家族か、またはコンシェルジュが逆らえないほどの権力を持った人間だ。

 現在クリスの家族はチューリッヒで休暇を過ごしているはずなので、残る人間は自ずと限られてくる。

 つい、クリスの眉間に皺が寄る。なぜなら、来客の大体の見当はついているからだ。

「また、あいつか……」

 脳裏には黒い艶やかな髪をした野性的な男の顔が浮ぶ。

 鷹のように鋭い黒の瞳が印象的で、ミルクコーヒー色の肌が異国情緒を感じさせる。どこか人を食ったような失礼な態度さえ、その男ぶりを更に上げる要素になってしまっていた。そんな彼は、アルハラーン王国の第六王子だ。

 元々働く必要のないほどの財力があるにもかかわらず、マネーゲームよろしく投資などをして、更に財を増やしているいけ好かない男でもある。

「開けるぞ、クリス」

 それに、こんな風にクリスに対して横柄な言い方をするのも彼しかいない。

 クリスが小さくため息を吐いていると、返事もしていないのにドアが勢いよく開けられる。やはりそこには想像した通りの男、ハリーファ・ビン・サルマーン・アル・バクルが立っていた。

 しっかりした体躯に、どこかの俳優かモデルのように長い四肢。白いアラブの民族衣装が彼を引き立たせる。

「ハリーファ、来る前にアポイントを取ってくれと、以前私は言わなかったか?」

「私とお前の仲に、そんな無粋なルールはいらないと、それこそ以前に言ったと思うが?」

 彼の鋭い瞳が奥の寝室に向けられる。ベッドに真っ裸の男がいれば、何がどうなっているか、説明しなくとも明らかだ。案の定、彼の双眸が細められる。そして鷹揚にクリスに告げてきた。

「……また、お前はつまらない男を拾ってきたのか」

 お前が引っ掛ける男よりはマシだ、と言ってやりたくなるが、言ったところでこの男が耳を貸すとは思えない。クリスは黙ってシャンパンに口を付けた。

 するとハリーファはもう一度、青年に視線を向け、ぞんざいな様子で口を開いた。

「そこの男、もう用は済んだのだろう? さっさと帰るがいい。車が必要なら、部屋の外で私の部下が待っている。彼に言って手配してもらえ」

「帰れって……あんた急に来て、何だよ」

「レイズ、イノーベン!」

 ハリーファが名前を呼んだ途端、黒いスーツを身に纏った男が二人、さっと現れる。ハリーファの専属SPだ。屈強な男二人を前に、さすがに青年も怖くなったのか、慌ててベッドから降り、衣服を着始める。

 まったく……。この青年ともまた切れるな。

 クリスはそんな呑気なことを考えながら、青年が部屋から出て行く姿を目で追った。

 

2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊

一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。

9月13日創刊 電子版も同時発売
  • 欲ばりな首すじ
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