まつもとあつしの電子書籍最前線 ソニー”Reader”が本好きに支持される理由(後編)

更新日:2013/8/14

ソニーならではの推薦技術とは?

(右)ソニーマーケティング株式会社モバイルエンタテインメントプロダクツマーケティング部デジタルリーディングMK課統括課長北村勝司氏。(左)同ネットワークサービス部新規事業推進2課加藤樹忠氏。

――進化のポイントについてはよく分かりました。ただ、先日の発表会ではKindleを意識しながら、特に海外系のメディアからは厳しい質問も飛んでいたことが印象に残っています。

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Kindleが非常に意欲的な価格となったということも、どうしても比較の対象になってしまいますし、またタイトル数の差は、先ほどお話しされた推薦技術の精度にも影響するように思えるのですが。

加藤:まず、リコメンデーションのトレンドと種類という観点からは、「購入履歴」から「行動履歴」に移っています。それは他社でも一緒だと思うんですね。

購入履歴に関してのアセット(資産)は、例えばAmazonも楽天も莫大に持っていますけど、“Reader Store”のお客様はとても積極的に本を探す・買うということをしていただけているので、“Reader Store”として購入履歴と行動履歴の分析をきちんと積み重ねいけば、私たちの推薦技術「Voyagent」も勝負していけるものだと思っています。

さきほどのストアの話も同じですが、いま私たちの“Reader”のユーザー層、つまり、セグメンテーションの近い人達が本を探して買っているということは、お客様にとって違和感のないデータが、深く蓄積されているはずです。今いらっしゃる方達に対しては、打率の高いリコメンデーションができるデータ量はあるだろうと捉えています。

――なるほど。「本好き」に特化することで、まずはリコメンデーションの打率も上げることができる……。

加藤:例えば、既存サービスのリコメンデーションで一番何が問題だったかというと、奥さんが旦那さんのIDで入った時に、ダイエット本を買っちゃったと。そしたら、旦那さんにもダイエット本ばっかり、推薦されるみたいな(笑)

――あります、あります(笑)

加藤:ただあれは、基本的にはチューニングが可能なので――突拍子もない行動は、普段の行動をちゃんとデータマイニングしていれば、これがおかしいと思ったときにはじくというロジックを入れるとか。また、趣味嗜好が変わった場合は、データのチューニングをきちっとすることによって質の高いリコメンデーションをできると思うんです。

私たちもまだ始めたばかりなので、どこまでチューニングが上手くいくかは、やってみないと分からないところも正直あります。きちっとテストを重ねていくこと、そして、これまでも続けていた、人の手による特集等のリコメンデーションを続けることできちんとした訴求ができると思っています。リコメンデーションって、最終的には打率なんだと思います。

人の手を介したリコメンデーションと、機械が出すリコメンデーションというものを合算した打率というものが、きちっと納得いただけるものであれば、そこに対しての違和感は少なくなるはずです。

完全にデータのリコメンデーションエリアだけに絞るわけではなく、いままでのような特集を含めたところの、人の顔が見えるリコメンデーションというのもやることによって、その掛け算で、きちっとなっていくと。

正直に言えば、「Voyagent」をソニー独自の技術として捉えた時に、eBOOKストアサイトとして使うだけでなくエンターテイメントの軸で広く「Voyagent」を使うということを考えると、そのデータベースは我々にも多く活用できるし、逆にお客様に貢献できるはずだと期待しています。

まだまだこれからですけど、さまざまなサービスやエンターテイメント領域での、購入履歴、行動履歴を蓄積することがソニーの強みになると思ってます。

――これもAmazonの目指しているところではありますが、何か映画が公開されました、そうすると本が売れる、映像も売れる、音楽・劇伴も売れるというのが、御社のロードマップにあると期待していい、ということですよね。

加藤:VAIOにもプリインストールされている、コンテンツ系の推薦技術でして、タイトル数とかそういう話だけではなくて、行動履歴を取っていくことでエンターテイメント集合体としてのリコメンデーション、シナジーが強くなっていくはずです。

――というタイミングでなんですが、“Reader Store”のタイトル数と今後の展望を聞かせてください。

加藤:今、“Reader”向けの書籍やコミックは約3万冊です。またこれに、雑誌約200 冊ならびに絵本4 冊が加わった“Sony Tablet”向けの“Reader Store”も10月28日にオープンしました。今後も順次、それぞれのコンテンツをさらに拡大していきます。

文芸、ビジネス、自己啓発、といったジャンルが売れているのも大きな特徴です。

データ面では、1人あたりの購入した冊数が多いことにも注目頂きたいと思います。先ほども話しましたが、“Reader Store”に来ていただいている方に関しては、すごくアグレッシブに本を探して買ってもらっているので。