官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第80回】マキ『鑑賞倶楽部』

公開日:2015/4/9

 キャストが手を使う道具を使う服を脱ぐ、客が匂いをかぐ写真を撮ってもらう果てはキャストの唾液を持ち帰る。大抵の店はそういうオプションがあるものらしいが、スティルではあまり重視していないようだ。まさに言葉通り鑑賞クラブ、見ることが一番だ。

 オナクラに硬派も軟派もないが強いて言うのであれば硬派である。初回に身分証を二種類提示させるほどには客の身元を見るし、極端なオプションもないのに料金設定が高いので金がなければ通えない。強気だ。それでも足を運んでしまうくらいには雰囲気もよいし接客も丁重で文句はない。この手の店にしてはプライバシーもきっちり守られているのだと思う。もちろんそんな場所に高級も低俗もないにせよ、これも強いて言うのであれば高級だ。

 降り立った駅から十五分歩き辿り着いた店へと続く細い路には、場所柄ひとが殆どいない。

 まるで自分の家に帰るように門をくぐり木製のドアを開け、かつてはリビングだったのだろう待合室に足を踏み入れた。家具も当時のものをそのまま使っているらしくやたらと値が張りそうなソファに座ると、すぐにスーツ姿の真崎(まさき)が部屋に現れた。

 客の応対をするのは大抵の場合は彼である。もう数年は通っているものだから、責任の所在を明らかにするためなのかスーツの胸に付けられた小さなネームカードに記されている名前をいつの間にか覚えてしまった。

 ネームカードには、真崎、としか書いていない。この男のファーストネームはなんというのだろう。

 まだ若い。二十代前半くらいか。

「いらっしゃいませ、一之瀬様」

「やあ真崎くん。こういうときには普通にっこり笑うものだぜ、あいかわらず冷めた顔して」

「私が笑っても仕方がないでしょう。それはキャストの仕事です。先週のご予約通りでよろしいですか?」

 一之瀬の前で片膝をつき、洒落たレストランのメニューみたいな写真一覧を広げ、真崎は実に淡々とした口調でそう言った。まったく仰る通りだし、こういう種類の店ならばそのように機械のごとく振る舞うのが相応しいのかもしれないが、一度くらいは笑顔も見てみたいとは思う。

 ぞっとするほど綺麗な顔をしている男だ。

 緻密に計算されて少しの狂いもなく作られた彫刻のように整った造作である。単純に格好いいというよりは、無表情も相まってあまりに隙がなさ過ぎ、硬質で冷たそうな印象を受ける。人間味がないというか。

 細い銀縁の眼鏡をかけているが見る限り伊達眼鏡である。単に洒落気なのか、それとも他に意味があるのか。知りたいとは思っても言及する筋にないので口には出さない。

 スーツ姿でも分かるいい身体つきをしていて背は高い。朝方の静かな湖みたいな少しやわらかい髪の色、瞳の色をしている。ブルーグレイとでも言えばいいか。綺麗だ。こんなところでスタッフをするよりホストでもやったほうが稼げそうである。このクールなイメージが素なのだとしたらそういうタイプの男を好む女には圧倒的に受けそうだ。

 真崎の視線が真っ直ぐにこちらに向いて、ようやく自分が彼に見蕩れていたことに気がついた。

 

 

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