官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第81回】ナツ之えだまめ『囚愛契約』

BL

2015/4/14

ナツ之えだまめ『囚愛契約』

「一週間、あんたの身体を俺にください。大丈夫、ちゃんと快楽を仕込んであげます――」それが、宮本高良の勤める広告会社・鳳翔堂の一大プロジェクトに、コピーライターの長嶺祐也が協力する条件だった。かつての後輩である長嶺のみだらな調教に導かれて知る絶頂に、戸惑いながらも溺れていく高良。だが、「好きなんです」高良に触れながら苦しそうに言う長嶺の真意が読めなくて――。恋情に囚われた7日間の契約のゆくえは?

「このたびは……――ご指名、ありがとうございました」

 宮本高良が会議室で名刺を渡すときに思わずそう言ったら、相手方、ホクヨープリズムの課長、主任、担当が吹き出した。こちら側、広告代理店・鳳翔堂(ほうしょうどう)のリーダーである上司の大江(おおえ)の動作が止まり、高良同様立ち上がって名刺を手にしていた部下の柴田(しばた)は目を丸くしている。

「宮本さんって楽しい方ですねえ。お噂に伺っていたとおりです」

 ホクヨープリズムの広報担当は自分と同じ三十五歳前後に見えた。名刺には「鈴木」とある。

 おかしな挨拶だったろうか。

 しかし、ほかになんと言っていいのかわからなかったのだ。

 高良の勤務する鳳翔堂は国内売上高で業界第二位の広告代理店だ。高良は統括第二事業部に所属しており、いわゆる営業職である。

 今回の商談相手であるホクヨープリズムはカメラ業界では国内で三指に入る老舗(しにせ)であるのみならず、プリンターやスキャナーなどのパソコン周辺機器、プロから個人ユースまでのミシン、さらには工場用オートメーション機械まで幅広い分野を手がけており、海外への進出も活発だ。本社は大阪(おおさか)だが、東京営業所が有楽町(ゆうらくちょう)にあり、高良たちは今そこの会議室にいる。

 ホクヨープリズムは来年、百周年を迎える。記念すべき節目の年に、会社のタグラインを変更することになった。

 タグラインとは、一商品ではなく会社自体のキャッチフレーズ・スローガンのことだ。たとえば食品会社の商品であれば、テレビCMの最後に「今日のごはん、明日の元気。○○食品会社」と流れたとすると、そのキャッチフレーズがタグラインに当たる。企業イメージを刷新するためのタグラインの変更は、ブランド力に直結する。そのため、予算額も、テレビCMや新聞雑誌広告などへの出稿規模も、一広告商品とは桁が違う。

 ここまで大規模なプロジェクトであれば、通常はコンペを行う。広告主、この場合はホクヨープリズムが複数の広告代理店に声がけして競合プレゼンテーションを開催し、そのうち一社を選ぶ。

 しかし、今回、ホクヨープリズムは鳳翔堂を、そして宮本高良を名指しで依頼してきてくれた。思わず「ご指名、ありがとうございます」の一言が出てきてしまうというものだ。

 今後、高良は一年にわたって、代理店側の責任者「アカウント・エグゼクティブ」としてこの大規模プロジェクトのスケジュールと予算を管理し、内外すべてのマーケティングおよび制作チームと連携をとって、プロモーションを行い、広告を出稿し、新しいタグラインの認知とブランド力の強化を目指すことになる。

「や、まあ、どうぞ」

 鈴木に言われて、腰を下ろす。

「宮本さんがお若いのでびっくりしました」

 高良は自分の顔を撫でた。

「そうですか?」

 三十五歳という年相応だと思っているのは自分だけらしく、よく言われることだ。

 薄茶色の髪にくりっとした目。唇が小さくてややぼってりしているところも童顔に輪をかけていることだろう。身長百七十二センチ、体重六十三キロ。さして大柄ではないのは確かだが、休日には暇さえあればジムに通っているので、ちゃんと筋肉がついているんだぞと誰にともなく心の中で訴えてみる。

「すみません。貫禄がなくて」

「あ、いえいえ。そういう意味では……――」

「髭を生やしたこともあったんですけど、似合わないんですよね。分離するというか。クリスマスパーティの余興みたいになっちゃって」

 全員が肩を震わせたところを見ると、それは想像しただけでも笑える光景であるらしい。

「す、すみません。あの」

 まだ笑いの余韻をまとったまま、鈴木が手元の資料をめくった。

「僕、宮本さんの担当されるCM、好きなんですよ。昨年の新車の広告もそうなんですが、なんていうのか明るい泥臭さみたいなのがあるんですよね。特撮俳優を起用したスマホのCMシリーズもよかったなあ。とぼけた味わいがあって」

「ありがとうございます」

 

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エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊

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