拝み屋にして怪談作家、郷内心瞳って何者だ!? | 夏のホラー部第5回

公開日:2015/9/6

●読者の身に降りかかる恐怖!

――2013年からは怪談作家としても活躍されていますね。拝み屋兼怪談作家って、プロフィール的に強力です。

郷内:いや、実は対極にある仕事なんです。恐ろしい出来事を消し去るのが拝み屋で、それをより怖いものにするのが怪談作家。拾った原石をゴミ箱に捨てるか、ピカピカに磨きあげて展示するか、というくらいの大きな違いがあります。

――旧家でのおぞましい事件を描いた『拝み屋郷内 花嫁の家』(KADOKAWA)は、怪談ファンの間で大評判となりましたね。ネットのレビューを見ると、怖さはもちろん、読みやすさ、ミステリアスな構成を評価している声が多いようです。

郷内:ストレートに書いても陰惨な話ですので、最後まで読者の気持ちを惹きつけられるような構成を心がけました。カメラを切り替えるように、異なる幾つかのエピソードを配置したり。どうせお金を払うなら、面白い本を読みたいじゃないですか。

――執筆中に怪しい出来事があったとか?

郷内:真夏の暑い盛りに書いていたんですが、机に向かっていると体が冷えてきて、がたがた震えがくるんです。一日に4回も5回も風呂に入って、体を温めないとダメでした。締め切り直前、完成まであと80枚というところで、原稿のデータの半分以上が消えたんですよ。怪談を書いていてデータが飛ぶことはよくあるので、パソコンと複数の記録媒体に保存していたんです。それが同時に消えた。綺麗に全部消えるんなら分かるんですが、半端に残ったり、文字化けしたりしていたのが妙でしたね。結局、泣きそうになりながら書き直すハメになりました。

――『花嫁の家』を読むと、そのくらい起こって当然、という気になりますけどね。読者に何か起こったという報告はありませんか?

郷内:不思議と『花嫁の家』では聞いたことがありませんね。デビュー作の『拝み屋郷内 怪談始末』を出した直後はよく「変なことがあって最後まで読めなかった」と言われました。ある方はガラガラの終電列車で『怪談始末』を読んでいたら、向かいに座っていたOL風の女性が「幽霊好きなの?」と突然訊ねてくるんですって。はあ、と曖昧に返事をしてまた読んでいたら、今度はサラリーマン風の中年男性が「幽霊好きなの?」と訊いてくる。それで怖くなって、途中で読むのをやめたと言ってました。

――うーむ、イヤな話ですねえ。

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