「欲望に流される方が人生は楽しい」恐怖と官能の作家・花房観音インタビュー | 夏のホラー部第6回
公開日:2015/9/12
官能小説家としてデビュー
――そんな暗黒時代を経て、2010年に官能小説「花祀り」で第1回団鬼六大賞を受賞し、作家デビューされます。
花房:あらゆる新人賞に応募しまくって、たまたま官能小説でデビューさせてもらったという感じなんです。官能はそれまで書いたことがなかったし、団鬼六先生の名前がなければ応募していなかった。それなのに女流官能作家というだけで、容姿のことをあれこれ言われて、ネットで叩かれて、嫌な思いもいっぱいしました。その辺のことは『黄泉醜女』に書いているとおりです。
――うーむ。あれは実話だったんですか!?
花房:ほぼあの通りです。うちの父親はあれを読んで「こんなに辛い目に遭ったのか!」と泣いたらしい。官能小説って男性の欲望を満たすためのファンタジーですよね。わたしもAVをよく見ますから、そういうあり方は否定しないし分かるんですが、書き手としてそこにいることは居心地が悪かった。それでわたしの官能ものは、ラストで男の幻想を裏切るようなものが多いんです。
空き家と思っていた隣家には…
――その後、女性同士のコワ~い関係を描いた『女の庭』(幻冬舎)でブレイクされます。怪談を本格的に書かれるようになったのは、いつからですか?
花房:アンソロジー『怪談実話 FKB 饗宴3』(竹書房)が最初ですね。私はもともと、小説家になる前はAV情報誌に書いてたし、その業界に知り合いもいてAV男優の飲み会に顔を出したら、なぜかこの本の監修者の平山夢明さんも参加されていて、書いてみないか誘われたんですよ。わたしは長年バスガイドをしているので、その世界で聞いた実話を書きました。
――平山さんはなぜ花房さんに声をかけたんでしょうね。
花房:分からないですが、今にして思うと隣人のお陰だったんじゃないかと。
――隣人ですか?
花房:当時、わたしは京都の一軒家に引っ越したばかりだったんですが、すぐ隣に建っている家が空き家だったんですよ。荒れ果てていて、明らかに誰も住んでいる様子がない。それからしばらく経って、大阪での怪談イベントに出かけた翌日、警察の方が訪ねてきて「お隣について話を聞かせてほしい」というんです。「空き家ですよね?」と聞き返すと、いや、実はいらっしゃったんですと。
――亡くなってたんですか!
花房:ずいぶん前らしいんですけど。それでよく考えてみると、怪談の仕事がどんどん来だしたのは、この家に越してきてからだと。きっと彼のお陰に違いない、ということで、わが家では親しみと感謝を込めて「はっこつん」と呼んでるんですけど(笑)。
――ゆるキャラですね。白骨のはっこつん。