第8回「スピリチュアル」/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2015/9/15

それは先月末の話である。いつものようにコラムの内容をメールで送り「よし! 今月も皆さんに楽しんでいただけるコラムが書けたぞ!」とホッと胸を撫で下ろしている僕に、このコラムの担当であるK氏から返信が来た。

「そろそろエログロ以外でお願いします。将来書籍化した際に内容が偏ってしまうので」

その文面を見て、後ろからズボンを垂直に下ろされたような衝撃を受け、僕は思わず固まってしまった。エログロ以外? そんな馬鹿な! このコラムをやるにあたってエログロのみが正義だと思ってやってきた。その僕に「エログロ以外でお願いします」の発注。その文章は僕の体を瞬く間に駆け巡り、やがて強烈な寒気が全身を覆い、僕は部屋の隅っこで全盛期の河村隆一の如く自らの体を抱き、ぷるぷると震えていました。

二段モーションの禁止が決定した時の岩隈や三浦もこんな気持ちだったんだろうか?

ホコ天が廃止になった時の竹の子族もこんな気持ちだったんだろうか?

エログロという名の翼をもがれた僕はもはや鳥人間コンテストで毎年ただただ落ちる為だけにエントリーしている大学生よりも飛距離の出ないクソに成り下がってしまうのではなかろうかという不安。

そして何よりも驚いているのは「将来書籍化した際に……」という文章。

え? 書籍化? 底辺の芸人達しか褒めてくれないこのコラムが書籍化? ほんまに言うてる? 仮に書籍化したとして、そしてそれが万が一売れに売れたとして僕大丈夫? ほんまに消されへん? という自意識過剰とも言える不安が募る。確かにこのコラムの最初の打ち合わせの段階からK氏は“書籍化”という単語を口にしていた。回を重ねるに連れ「こんなもん書籍化できるかい!」と思う僕とは裏腹に、連載開始から半年以上経った今でも書籍化を口にするK氏。恐らく本気と捉えて間違いなさそうだ。そういえばピースの又吉さんが芥川賞を受賞した陰には文藝春秋の敏腕編集者との二人三脚のたゆまぬ努力があったというのを聞いたことがある。

K氏は今まさに僕とそういう関係になろうとしてるのではないか? ならば僕もそのK氏の想いに全力で応えなければならないのではないか?

K氏! 僕、エログロ捨てます! そして芥川賞獲ります!

 

 

 

決意を新たにした僕がやるべきことはただただ上品なゴシップにペンを走らせるのみ。嫌でも目に飛び込んでくるエログロを無理矢理振り切り僕が行き着いた今回のテーマは『スピリチュアル』。

いつからか芸能界に平然と蔓延るようになったこの言葉。今までも数々の占い師、霊媒師と呼ばれる人間がこの芸能界に現れては消えていった。過去に人気を博した某番組の影響で“オーラ”という言葉が当たり前になり、気がつけばオーラが見える人達が急激に増えた。しかも彼らは各々で見えるオーラの色が違うらしく、よってどの色のオーラが良い、どの色のオーラが悪いなども全て各々で決められるという超万能なルールを確立している。つまり僕のオーラを10人の“オーラが見えると言い張る人”が見た場合、僕のオーラは10色になっても別におかしくはないという無敵のルールを作りあげているのです。

僕が身をもって体験したゴシップを言うと、数年前に人気上昇中のスピリチュアルタレントと番組で共演した際、当時まだ大阪に住んでいた僕に「東京でよく遊ぶ女性がいますよね?」とそのスピタレが言ってきた。当たっていた。そのシーンはオンエアされ当時大阪で同棲していた彼女に謝り倒したのを覚えている。しかしその僕が東京でよく遊んでいた女性は元々そのスピタレが仲の良い芸人さんに紹介された女性だった。

そのスピタレはその番組で違う芸人に「今引っ越しをしようとしてますよね? 次の家が見つかるまで今誰かの家に荷物を預けていませんか?」と告げた。当たっていた。しかし収録の前の日のとある芸人のTwitterに「○○さんが次の家が見つかるまで僕の家に荷物を預けてきた!」という内容のツイートがあったことが後日分かった。

そしてそのスピタレはまた違う芸人の部屋の間取りやカーテンの色、どういった小物を置いているかをズバズバ当てた。いわゆる透視能力と呼ばれる能力だ。スタジオはそのスピタレを褒め称える空気のまま番組は終了。しかし収録後当てられた芸人に聞くと「オレのブログ見たら全部書いてるけどな」と言っていた。

もうお分かりだと思いますが、彼女は透視能力ではなく、情報収集能力に人一倍長けた人間なのです。

「なんだよ! あいつの透視能力は全部嘘っぱちかよ!」そう怒る方もおられることでしょう。しかし一旦その怒りを鎮めていただきよく考えてほしいんです。彼女は人並み外れた情報収集能力の持ち主なのです。共演する人間の情報を収録の前の晩に徹底的に調べ上げ、尚且つその人間が「なんでそんなことまで知ってるの?」と言いそうな情報まで盛り込んでくる。友達からの飲みの誘いも断り、彼氏との夜の営み中もパソコンを開きSNSを隅から隅まで調べ尽くす。子どもの頃にこういう体験をして以来このような能力が身についたみたいな設定を自分で考え、本番中に言ってて自分で笑けてこないように何度も何度も台詞を練習し、もう既にバレているであろう人の「こいつマジか!?」の視線を遮断する特殊な訓練を受け収録に臨んでいるんです。そういった我々の想像を絶する血の滲むような努力をしていることをけして忘れてはいけないのです。

放送後には彼女の運営する占いアプリの登録者数は格段に増え、彼女に見てもらいたいという予約は3年待ち、などの状態が出来上がる。それも全てたゆまぬ努力の結果なのです。

彼女のような努力があなたに出来るでしょうか? 僕には絶対できないです。

大衆の前でけして笑うことなく、さも透視できているかのような顔をする度胸があなたにありますか? 僕にはないです。

通常の人間には出来ないことを実現する特殊な能力。それを人は超能力と呼ぶのです。

そう、彼女こそ真の超能力者なのです。

「お前はずっと何を言っているんだ! 超能力? そんな奴人間以下じゃねーか! 詐欺師と何が違うんだ! ある意味不倫よりもヤバイことしてるじゃねえか! そんな奴が金儲けしてて、日夜寝る間も惜しんで一生懸命ネタを作ってる若手芸人達がバイトしてるっておかしいだろ!」

などと言っている方もおられるかもしれません。しかし、今後も超能力者は次から次へと芸能界に出現していきます。テレビで新たな超能力者を目にした時、チャンネルを変えるのではなく、その人間がどのお笑い芸人よりも笑える逸材かもしれない、どんな小型犬よりも可愛く見えるかもしれないということを忘れないでください。