アウトロー作家・福澤徹三が一番怖いものとは!? | 夏のホラー部第7回

ホラー

2015/9/26

 幽霊、狂気、殺人、暴力、事故に病気――。この世にあふれる“忌まわしい”実話をひたすら蒐集し、ホラー好きを震えあがらせてきた本がある。その名も『忌談』(KADOKAWA)。ホラーやアウトローものの名手として知られる作家・福澤徹三さんが、2013年から書き継いできた実話シリーズだ。この夏、シリーズ最終巻『忌談・終』が刊行されたのを記念し、リアルな恐怖を生み出すバックグラウンドに迫った。

福澤徹三さん

――“忌まわしい”実話を集めた本というコンセプトはどこから?

福澤:最初は担当編集者から「風俗や裏社会といった、アンダーグラウンドな業界の怪談を集められませんか」という提案があったんです。企画は面白いんですが、取材範囲が限られるだけに、怪談実話よりも事件や暴力といった“人間が怖い”系の話が多くなる。苦肉の策として、怪談実話だけでなく、生理的に厭な話も収録することにした。全体に“忌まわしい”というくくりで、それが「忌談」の由来です。

――1巻目は「裏ビデオ」とか「禁区」とか、一度読んだら忘れられないトラウマ級のエピソード満載です。

福澤:ああいうグロい話は、純粋な怪談実話を求める読者には不評で、ネットのレビューは散々でした。どういうコンセプトなのかはカバーや「まえがき」に書いてあるんですけど、読者はいつもの怪談実話だと思ったみたいで。

――ネタ集めに苦労されている様子が、毎回「まえがき」に書かれていますね。

福澤:怪談実話は15年も書いてきたので、とっくにネタ切れなんです。地元(北九州)の知人には、取材する前から「もう怖い話はないよ」と釘を刺されてしまう。シリーズ後半になると、大阪や金沢で怪談会までやって話を集めましたが、それでも大変でしたね。

忌談・終』(KADOKAWA)

――それにしても幅広い職業の方に取材されていますよね。

福澤:職業の幅が広いのは、取材する場所がおもに飲食店だからです。怪談社の紙舞くんみたいに、見知らぬ人に路上で声をかけるという方法もありますが、ぼくが近づいても逃げられますから(笑)。ただ飲食店で取材していると、うっかり飲みすぎて話が聞けなくなることもあります。取材の相手が「そういえば、いま思いだしたんですけど――」と切りだしても、こっちは酔っぱらってるもんで「もういいです。いま聞いてもわからないんで」と断ってしまったり(笑)。

――前にちょっとお聞きしましたが、アンダーグラウンド業界の方々は、幽霊を信じている場合が多いのだとか。

福澤:その筋がらみの人は、かなりの割合で超自然的な存在を信じています。ああいう稼業は、我が身の危険を感じる機会が多いぶん、常人が気づかないものに目が向くのかもしれません。古い知人で刑務所を出たり入ったりしてる男がいますが、彼は「捕まる前は、なぜか大事なものがなくなる」と言ってます。財布とかアクセサリーとか貴重品を紛失すると、決まって直後に刑事が来るそうです。

――第六感なのでしょうか。面白いですね。

福澤:ぼくが知ってる限り、水商売をやってる人も、たいてい超自然的な存在を信じています。ぼくも若い頃、夜の世界にいましたが、いわゆる「ゲン」を担ぐ人が多い。というのも水商売は、運不運の差がはっきり見える業界なんです。辺鄙な場所でも繁盛する店、立地はいいのに潰れる店、たいして努力もしてないのにトントン拍子で出世する人、いくら努力をしても落ちぶれる人、そういう運不運を目の当たりにしていると、見えないものの存在を信じたくなる。ぼくが勤めていた店の経営者は、その筋からも一目置かれる人でしたが、ある風俗店を「幽霊」が原因で閉めました。その店の店長や従業員も目撃してますし、ずっと繁盛していた店だから、幻覚や嘘とは思えない。


――デリヘルはじめ、風俗嬢の体験したエピソードも載っていますね。やっぱり怖い目に遭ってるんだな、と印象的でした。

福澤:風俗やってる子は、超自然的な怖さも、人間の怖さも体験してる場合が多い。どこそこのホテルは幽霊が出るとか、どこそこの子が自殺したとか、そんな話はしょっちゅう聞きますね。そもそもデリヘルなんて、赤の他人の部屋にいくって時点で怪談的じゃないですか(笑)。

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