第17回「局員と飲みたがる女」/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2016/7/15

やあみんな!元気かい?

KinKi Kidsみたいな書き出しでごめんよ!
なんでこんな感じかと言うと、オレは先月のコラムでヤリマンへの異常なまでの執着心を世間に晒け出したことで吹っ切れて変なテンションになってるんだぜ!
先月のコラムの影響で、ただでさえ少なかったライブの出待ちがとうとう0になったぜ!
そして贔屓にしてたヤリマンからLINEが来て、

「コラム読んだ。そういえばわたしが家行った時パン焼いてくれたけど、あのヤリマンってわたしの事? 言っとくけどわたしヤリマンではないから!」

と言われ、それっきり連絡が途絶えたぜ!
確かに本当のヤリマンはそんな小せえことで怒らねえもんな! もし今度会うことがあったらおちんちんを形どった石盤を踏ませてしっかりヤリマンかどうか確認してやるぜ! げへへへへ!

すいません……。
さすがにこのコラムの寛容な読者の方々もこのテンションの文章を読み続けるのは苦痛ですよね……。
ここからは普段通りのスタンスで書いて行きますので、何卒今月も宜しくお願い致します。
とはいえ吹っ切れてることに変わりはありませんので今月も己のゴシップをゴリゴリに晒け出す所存でございます。

さて、皆さんは“局員”と聞いて何をイメージしますか?
芸能の世界に身を置いてる人間が“局員”と聞いてまず思い浮かべるのはやはり“テレビ局員”です。

テレビ局員とは、テレビ制作という楽しい事をしながらも、同世代のサラリーマンよりも遥かに稼ぎ、尚且つ公務員並みに安定している職種です。
無敵です。
スーファミの頃のパワプロのイチローです。

打撃(給料)A
走塁(タクシー移動)A
守備(学歴)A
肩(できる感)A
ミートカーソル(会社の安定度)A

まさに無敵です。

東京には、そんなイチロー並みのステータスを持つ局員とやたらと飲みたがる女達がちらほら存在します。
イチローと飲む為に全精力を注ぎ、イチローと飲む事だけを考えながら月~金までお茶汲みをし、そしてイチローと飲めた暁には確実に連絡先を交換し関係を育む。
もはや仰木監督です。

その出会いは突然でした。知り合いの放送作家から
「今日何してます? 割と可愛いOL2人と飲むんですがどうですか?」
という電話がありました。
もしかしたらヤリマンかも?と思った僕はすぐにその作家と合流しました。
そんな浮かれ気分の僕に、作家から思わず顔をしかめてしまいそうな言葉が発せられました。

「僕前にこの二人と僕が入ってる番組のスタッフ数人で飲んだんですけど、その時にこの二人の局員への食いつきが半端なかったんですよ。恐らく局員とどうかなりたい二人だと思うんですけど森田さんもキングオブコント常連やし大丈夫だと思います!」

ほんまか? ほんまに大丈夫なんか? おれイチローちゃうぞ? 1軍と2軍行ったり来たりしてる同窓会でたまに話題出るぐらいの選手やぞ?

と、僕が言い知れぬ不安に駆られていると、そのOLから作家にLINEがきました。

「ここのイタリアンのお店の数量限定のピザが食べたいから予約して!」

という言葉の後に店のURLが貼り付けられている。
見たら代々木上原にある、いかにも洗練されたイタリアンのお店。
僕の中に妙な違和感が流れる。

渋谷ちゃうの? 新宿ちゃうの? わざわざ代々木上原まで行って飯食いたい?

分からない人に説明すると、代々木上原とは、東京のどの駅からも行きにくく、そのくせ特に駅前が栄えてるわけでもない、駅から少し行くと芸能人などの富裕層達が住む閑静な住宅街が建ち並び、お洒落であることこそが正義と言わんばかりの飲食店しかない僕らのような底辺の芸人には縁もゆかりもない土地です。

そんな代々木上原のピザが食いたいから予約せえ?
しかし作家はすぐにその店に予約の電話を入れる。なんせ割と可愛い二人組が食べたいと言ってるから。

作家「7時から4人で予約したいんですが空いてますか?」

店「すいません、その時間だと2階しか空いてないんですが……」

作家「2階? はい、空いてるなら何階でもいいですが?」

店「2階だと窯が見えないですけどそれでも大丈夫ですか?」

え? え? 何? 窯が見えない? 窯? 窯ってあの窯やんな? 窯そんな見たい? そんな言い方してくるってことはこの店に来る人はだいたい窯見に来てんの?

僕と作家は得体の知れない疑問に苛まれながらもとりあえず2階の席の予約を取り店へ向かいました。
店に到着し2階に通される途中、窯を見ました。
窯だった。

一階にはいかにもお洒落な店でしか飯食いませんよ顔をした男女が窯を見ながら食事を楽しんでいる。
そんな男女を白い目で見つつ2階へ上がる。
程なくしてOL2人も到着。たしかに割と可愛い。
一人はどことなく年齢詐称カミングアウト前の夏川純に似ている。
もう一人は鈴木奈々から親しみやすさを抜いた感じの落ち着いた雰囲気。

「予約してくれてありがとう」
の言葉もなく2対2の飲み会はスタートしました。

飲み物を注文した後、僕は恐る恐る売れない芸人だという自己紹介をしました。
すると女二人は「へえー」という言葉と共に虚無感しかない表情を浮かべるのみ。
すぐさま作家から援護射撃が飛ぶ。
「この人見たことない? キングオブコントっていう大会出てんねんけど? 知らん? え?キングオブコント自体知らんの? あーそうなんや……」
まさか後ろからの援護射撃の弾が自分の背中に当たるとは……。
そこからは苦痛でしかない時間。

夏川純と鈴木奈々が数量限定のピザを頼むが売り切れ。

本来ゆがく筈の枝豆をあえて枝ごと窯で焼いたやつをこれ見よがしに出してくる店員。

作家が連れてきたもう一人が局員じゃないと分かると大した会話もしようとせずやたらと携帯を触る二人。

明らかに他に飲む相手が見つかったであろう変なタイミングで「そろそろ出よっか?」と言ってくる二人。

全然腹が満たされてないにも関わらず2万を優に越えるお会計を作家と僕で払う。奴らは財布すら出さない。
まさに地獄の時間。これがいつか死ぬ時に走馬灯に出てくると思うとゾッとします。

店から出ると二人はご馳走様も言わずに、そそくさと帰って行きました。

僕ら二人は、怒りと絶望感と空腹感に襲われ、駅までの帰り道を二足歩行で歩くのがやっとでした。すると鈴木奈々から作家にLINEが入りました。

「局員連れて来てほしかった(-_-)」

膝から崩れ落ちました。
コツコツと浴びていたボディブローによりとうとう内臓が悲鳴をあげました。
そして同時に込み上げてくる強烈な怒り。

「いやまずご馳走様でしたやろがい!!!」

閑静な代々木上原の街に響き渡る推定500デシベルの大阪弁。
こんなにムカついたのは、いよいよ童貞捨てれるって瞬間に「あんたらピラフ食べるかー?」言うておかんが部屋に入ってきた18の夏以来です。

なんでこんな目に遭わなあかんねん!
ほんでちらっと見えた作家の「ごめん! 次は必ず!」の文字。
こいつもこいつやけどな!

てゆうかもう言うてまうけどそもそもよく見たらお前そんな可愛くないやないか!
夏川純はまだええわ! ほんまに割と可愛いから!
けどよう考えたら鈴木奈々から親しみやすさ抜いたらただの微妙な女やないか!
あの人は顔やスタイルよりも親しみやすさと愛嬌でここまで来とんねん!
親しみやすさも愛嬌もないお前が堂々と鈴木奈々面してんちゃうぞ!
ほんで局員達がお前に連絡してくんのもお前目当てちゃうからな! お前が夏川純の窓口になってるからだけやからな!
そこ絶対勘違いすんなよボケ!!!

すいません……あの時の怒りが蘇ってだいぶ熱くなってしまいました。

聞けばこの女の特技は飲み会に来たテレビスタッフが、その人が局員なのか制作会社の人間なのかを巧みな話術で聞き出すことらしいです。

まさに仰木マジック。

一般の人はイマイチ分からないと思いますが、制作会社のスタッフは総合的に見てさすがにイチローほどではありません。
同じ振り子打法の当時阪神にいた坪井ぐらいの感じ、と言えば分かりやすいのではないでしょうか。
それでも普通のサラリーマンよりも公務員よりも遥かに稼いでるんだから僕らからすれば十分凄い。
にもかかわらずなんとしてでもドラフト1位でイチローを獲得しようとする執念は本当に気持ちが悪いです。
パンチョ伊藤さんも天国でさぞ引いていることでしょう。

このままこいつらをのさばらせてていいのか?

『DEATH NOTE』の夜神月の如く、僕の中のリュークが囁いてきます。
そう、復讐を果たせと。

気がついたら僕は作家に鈴木奈々のLINEを教えてもらい、
「この前はありがとう! 今度日テレのスタッフさんと飲むねんけど来る?」
と、送信していました。
そう、もちろんそんな事実はどこにもないのに。

すぐさま鈴木奈々から
「行く! 今週の土曜とかは?」
の返信。しかも曜日まで指定してくる始末。
そう、もちろんそんな事実はどこにもないのに。
紙ねんどで作った偽物のミミズで簡単に偽物の鈴木奈々が釣れました。

土曜日の夜、僕は仲の良い先輩芸人に頼んで“久保さん”という架空の日テレの局員を演じてもらうことにしました。
飲み代は僕が全部払うと約束し、この復讐劇に協力してもらいました。

主な久保さんの設定

・恵比寿在住の32歳独身

・『ヒルナンデス!』を立ち上げ、その功績が認められ、異例の若さで編成局長に昇進

・『世界の果てまでイッテQ!』の立ち上げにも関わっており、ウッチャンナンチャンが各局のスタッフの中で一番信頼を寄せるスタッフ

・金は腐るほどあり、休日はベンツのゲレンデとボルボを交互に乗り回している

・どこか『美味しんぼ』の山岡士郎を彷彿とさせる、仕事は嫌いだがここぞという時の能力だけはピカイチのタイプ

引くなら引いてください。
復讐心という名のアクセルべた踏みの僕を誰も止めることは出来ません。
日テレさんとウンナンさん、すいません。

そして、一番の問題は飲むお店です。
金持ちの局員が飲みそうなそれなりの店にしないといけない。しかしいくら復讐とはいえこれ以上無駄なお金を鈴木奈々に使うのも嫌だ。
そこで僕らはあえて、金のない若手芸人がお世話になりまくりの居酒屋『鳥貴族』に行くことにしました。

普段は恵比寿や西麻布などのそれなりの値段のするお洒落な店しか行かない久保さんが、ADからめちゃくちゃ美味しくてしかも全品280円の店があると聞いて、本当かどうか確かめたいから一度そこに行ってみたい、という流れになった。
という設定を作ることで店問題を見事にクリアしました。

そしていよいよ鈴木奈々と合流。
こっちは男二人だと当然分かっているにもかかわらず、当たり前のように一人で登場。
つくづくこの女は、と関心させられる。
そりゃそうだ。こんな千載一遇のチャンスの場に夏川純を連れてくる理由はどこにもない。

予定通り鳥貴族へ入店。
少し怪訝そうな顔はしたものの、理由を説明するとすぐに納得。
そこから久保さんの情報を随所に散りばめていくと、目をキラキラと輝かせ、代々木上原では決して見せなかった感情のこもった相槌の数々を披露。
久保さんも役をものにしたのか、
「森田、今週土日空いてない? 韓国でも行かねえ?」
という謎のアドリブ。
それに対して鈴木奈々からの
「えー、私も行きたーい!」
何の生産性もない、もはや滑稽でしかない会話。

そして1時間が過ぎた頃、鈴木奈々がトイレに行ったタイミングで僕は久保さんを帰らせた。
と言うのも久保さん役の先輩は元々この後用事があるということだったので、それならば鈴木奈々がトイレに行ったタイミングで急に帰ってもらい、鈴木奈々にLINE交換をさせないことが一番ダメージを与えられる。
トイレから戻ってきた鈴木奈々に久保さんは急に仕事が入ったからここのお代だけ置いて帰ったことを告げると当然残念そうにしている。

そして5分ほど会話した後、女の口から飛び出した

「私たちもそろそろ帰る?」

の言葉。
直訳すると「局員がいなくなったんだからこれ以上ここにいる意味ないっしょ」
である。
凄い。この女は本当に凄い。

まだ店に入って1時間しか経っていないのに?

まだお前のジョッキの中には大量のハイボールが残っているのに?

まだ土曜の8時過ぎなのに?

僕は、敵ながらあっぱれという感情すら芽生えながら、レジで会計を済ませました。
彼女は代々木上原の時を彷彿とさせるようにそそくさと帰って行きました。

別れを告げた2分後、鈴木奈々からLINEが来ました。

「久保さんにお礼言いたいから久保さんのLINE教えて!」

僕はそのLINEを今4ヶ月既読スルーしています。

「オレはお前にまだ代々木上原のお礼言ってもらってないけどな!!!」
という返信をグッとこらえ、4ヶ月既読スルー。
そのあと数日『??』的なスタンプが何個か来ましたが全て既読スルー。

これにて僕の復讐劇がようやく完了しました。

この本当に不毛な復讐劇を最後まで読んでいただいた方々、本当にありがとうございました。
シンドラーのリストばりの長尺のお話でしたね。

先月はヤリマンへの執着心を晒け出し、今月は局員と飲みたがる女への陰湿な復讐心を晒け出す。
僕は一体どこに向かっているんでしょうか?
担当のK氏からは「とりあえずライブで石を投げられるまではこの感じで行け!」と言われています。
なので誰かライブに石を投げに来てください。