第19回 伝説のホスト/瀧上伸一郎(流れ星)連載

2016/8/15

六本木のサパークラブというホストクラブみたいな所でバイトしてた頃、僕以外にも色んな芸人が同じサパークラブでバイトしてました。
先ずは以前コラムにも書きましたが、僕にチンコ出すタイミングを教えてくれた“脱ぎ芸”の師匠、元ブラジル代表の大渡さん。

お店で飲み過ぎて救急車に運ばれる時救急隊員に「どこか苦しい所無いですか?」
と聞かれ、酩酊状態で
「借金です!!」
と元気良く答えた、山ちゃん。

ツッコミが下手くそな癖にくりぃむしちゅーの上田さんみたいな例えツッコミをやってボケを殺していたので僕が
「最初はシンプルに何でだよ!って突っ込めばいいんだよ!」
とアドバイスしたら
「“何でだよ”ってツッコミ、あれ流れ星の瀧上さんが生み出したんだぞ!」
と、色んな後輩芸人にとんでもない誤報を広めまくった、ドラマチック貞。

そして、
他のサパークラブでバイトしてたが、そこのサパークラブで、酔っ払ったチンピラのお客さんと即興漫才をする事になり、チンピラがスタンガンでツッコミを入れてきた為、逃げるようにこっちのサパークラブに来た、ちーやん。

(ちなみにちーやんは“ジャガーズ”というコンビで、今ジャニーズJr.のモノマネで活躍中です。こないだテレビで一緒の仕事した時は嬉しかったなぁ!)

というマトモな人間は皆無のラインナップでした。
でもその中で1番マトモじゃ無かったのは、サパークラブの社長だった“T”。

T社長は酒乱でした。
酔っ払うとすぐお客さんと喧嘩になり我々従業員はその喧嘩の尻拭いで大変でした。
酒飲んでナンボの水商売で社長が“酒乱”って今考えればありえないです。
“魚アレルギーの寿司屋”位ありえないです。

T社長は元ホストで、銀座のホステスとジャンケン対決して車を買って貰っただの、T社長をモチーフにしたホスト漫画があるだの、数々の逸話を持つ伝説のホストだったと自分で豪語していました。

そんなT社長の誕生日パーティーの時の話。
水商売の人達にとって誕生日は一大イベントです。お客さんからお花を貰ったり、ボトルを何本も空けて貰ったり、盛大に祝ってもらうのがお水をやっている人間にとってステイタスになります。TVのホストのドキュメントとかでよく見るシーンのヤツです。

誕生日を控えて気合いの入ってるT社長が
「今年の誕生日イベントはコスプレパーティーをしようぜ!」
と言い出しました。
社長曰く、従業員全員で
“ダメダメボーイズ”
のコスプレをしたら盛り上がるから!との事。

ダメダメボーイズって知ってます?
当時のTVで明石家さんまさん達がダメダメボーイズというコントをやってたんです。
黒の全身タイツに胸に大きな×(バツ)マーク、頭から触覚みたいに×二つがビヨンビヨンとぶら下がってる。
そんな格好で、
「そんな事言っちゃあ、ダメ!ダメ!」
と言いながら両人差し指で×を作る。
これがダメダメボーイズのお決まりのギャグで、当時流行っていました。

そんなダメダメボーイズのコスプレ、従業員一同反対したんですが、社長の鶴の一声でやる事になりました。
そして誕生日当日。
社長含め従業員全員手作りのダメダメボーイズのコスプレを身に纏いお客さんを待ち構えますが、

お客さんが誰も来ません。

T社長は酒乱で暴れまくった結果、お客さんから総スカンを食らっていました。
元伝説のホストが、誕生日カウンターで一人寂しくビールを飲んでいます。
全身黒タイツのダメダメボーイズの姿で。

その背中がめちゃめちゃ面白かったんですが、笑うとキレられるので従業員一同笑いを堪えるのに必死でした。
その後、夜も更けてくると社長の数少ないお客さんが駆けつけて来て店内も多少賑わってきました。
T社長もご機嫌になって一安心です。
帰るお客さんをT社長が見送りに行ってから社長が全然店に戻って来ません。
僕が外にT社長を探しに行きました。

お店は雑居ビルの五階にあり、エレベータの“下”を押して一階に行こうとしたんですが、エレベーターが一階から全然上に来ないんです。
しょうがないので螺旋階段で下まで降りていったら、一階のエレベーターの中で、

T社長が鼻血を出してぶっ倒れていました。

エレベーターでお客さんを見送る最中に得意の酒乱を発揮してお客さんと喧嘩をして、ぶっ倒されたみたいです。
足がエレベーターのドアに引っかかってドアがガコンガコン開いたり閉まったり繰り返してます。
そして格好はダメダメボーイズ。
頭の×の触覚がビヨンビヨンなびいています。

「この人本当にダメだ!」

そう思った僕は“お笑い芸人”として尊敬とも取れる感情が沸き起こりました。

そしてT社長に向かって

「社長! お客さんと喧嘩なんてしちゃあ、ダメ!ダメ!」

とダメダメボーイズのお決まりのセリフを言いました。
そしたらT社長はニヤリと笑いながら立ち上がり、僕に向かってお返しに

「ダメダ…」

そこでエレベーターのドアが閉まってしまいました。
「ダメダメ!」
すら言えないなんて、色々残念な社長だと思いました。

あれから暫くして働いてたサパークラブは潰れましたが、憎めないT社長、お元気でいて欲しいです。