第21回「墓場まで持って行こうと思っていたどエロばなし」/森田哲矢(さらば青春の光)連載

お笑い

2016/11/15

日本ハムの逆転優勝で幕を閉じた日本シリーズ。
その日僕は家に帰りテレビをつけると、試合は8回の表まで進んでいました。
そこには日ハムの優勝を確信させるほどに、投打に大活躍を見せる助っ人外国人の姿がありました。

その男の名は、バース(※前回コラム参照)

「広島頑張れ! オレの仇を取ってくれ!」

無意識に僕はテレビに向かってそう叫んでいました。
しかし僕の願いも虚しく、試合はその後も日ハムの更なる猛攻によりあっけなく終了。

僕の数分間だけの熱狂的カープファン時代も終わりを告げました。

さて、自らのゴシップを晒すようになってからというもの、出待ちの女性ファンからは白い目を向けられ、僕のTwitterをフォローしてくるのはエッチなお店のアカウントばかり。
担当の編集者からは「確かに私が打ち合わせしてこういう方向で行きましょうってなったけど、こいつのプライベートほんと何やってんの?」の目を向けられる始末。

しかし、底辺の芸人達だけは違う。
彼らだけはいついかなる時もこのコラムを賞賛してくれる。

「オレにはこいつらがいる」

そう胸を撫で下ろすと同時に、感じたことのない種類の違和感が僕の中を蝕んでいる事に気付きました。

彼らと呑む度に感じる

“もっとくれ感”

“もっともっとゲスいお話を俺らによだれを垂らしながら読ませてくれ感”

“嘘か本当かもわかんねえ芸能ゴシップなんてもうどうでもいいからお前の身に起こったヘドロのような下衆話じゃねえとわしらもう酔えねえんだわ感”

そう、いつしか僕は彼らのプレッシャーに押し潰されそうになっていたのです。

「もっとゲスい話はないか?もっとヤバイ風俗はないのか?」

見えない重圧に押し潰されそうになりながら僕の頭の中は毎日そのことでいっぱいでした。
僕の思考はどんどんと良からぬ方向に進んでいきます。

「そもそも俺はこんな自らのゴシップを書くためにこの世界に入ったんじゃない。もっとドロドロした、ほぼほぼ嘘に近いような芸能ゴシップを書くためにこの世界に入ったんだ! 俺が本当に書きたいのは女子アスリートのただならぬ性欲とか、ほとんどの仕事を枕営業で取ってるアイドルの事とかなんだよ!!」

頭を掻きむしりながら出口の見えない葛藤を繰り返しながら苦悩する僕。

夏目漱石、太宰治、森鴎外

過去の文豪達も産みの苦しみで何度も頭がおかしくなりそうになったと聞きます。

「これが俺の宿命か……だったらお前ら読者もろとも地獄の底まで引きずりこんでやるよ」

僕は覚悟を決めました。

墓場まで持って行こうと思っていたあの夜の事を書くしかない。

まだ僕が大阪で活動していた、ゴシップなんて言葉も知らない汚れなき純真無垢な6年ほど前のこと。
僕はネタ番組の収録の為に石川県は金沢市に行きました。
沢山の芸人がオンエアをかけて戦う番組の、2本撮りの1本目の収録に臨んだ僕らは石川のお客さんに見事に受け入れられ、なんと1位でオンエアを獲得しました。

収録が終わり上機嫌で大阪に帰ろうとしたところに、2本目の収録に臨む芸人さん達が会場に入って来ました。

するとその中に、プリンセス金魚というコンビで活動する大前さんという、軽快な話術と洗練されたルックスで多くの女性ファンを持つ、当時僕が一番仲の良かった先輩がいました。

そしてR-1グランプリというピン芸人の頂点を決める大会に、オリジナリティ溢れるフリップ芸で何度も決勝進出を果たしている、ヒューマン中村さんという僕が大尊敬している先輩も2本目の収録とのことで会場入りしていました。聞けばヒューマンさんは石川県出身とのこと。

僕は軽く二人と談笑しながら、

「帰りは何時の新幹線ですか? 僕乗車変更するんで一緒に帰りましょうよ!」

と僕が言うと、

「ごめん、2本目の収録の出演者は終電間に合わんから泊まりやねん」

とのこと。そして大前さんが言う。

「森田明日仕事休みやろ? オレの部屋ツインらしいからお前もオレの部屋泊まって朝の新幹線で一緒に帰ろうや。晩飯こっちの海の幸とか食って楽しくやろや。もしかしたら何かエロいこともあるかもしれんで」

エロいこと?


エロいこと??



エロいこと???




「分かりました!! そうします!!」

気がつくと僕は急に訪れた大前さんの根拠のない誘惑の前に平伏していました。
モテない人生を過ごして来た童貞のような精神の芸人に対して、

「エロいこともあるかもしれんで」

の言葉はスラムダンクの安西先生の言葉よりもガツンと胸に響きます。

この言葉に加え、さっきの収録で石川県民に受け入れられたという自信が僕を石川に留まらせたのです。

「昼の石川県民を笑わせれたんやったら、夜の石川県民もバンバン笑わせれる筈や! そのバンバン笑わせた先に待ってるのが兄さんがおっしゃるエロいことっすよね?ね?兄さん?」

の眼差しを大前さんに向ける僕。
そこにもう一人のガチ童貞芸人、メガネ君ことヒューマン中村さんが冷静に言ってくる。

「お前ら相変わらずアホな会話してるな。地方の仕事やからって、そんな都合良くエロいことなんてあるわけないやろ。変な幻想抱いてんと森田は正規の電車でさっさと帰れって」

さすがは湘北高校一の冷静沈着男、メガネ君。超現実的に物事を見れる男。
なぜ彼はそんなにも冷静でいられるのか?

それは彼が童貞だからです。

そう、ヒューマン中村さんはガチ童貞なのです。
僕がメンタル童貞ならこの人は物理的童貞。
生まれてから二十数年間全く女性に触れてこなかった正真正銘のガチ童貞。

そのガチ童貞の達観したかのような説法。

瀬戸内寂聴のような笑顔は一切なく、ただただメガネを光らせながら淡々となぜ無理かを説いてくる。なんならフリップ使って説いてくるんちゃうかぐらいの勢い。

この人はヒューマンではない、釈迦だ。
悟りきったヒューマンさんに圧倒された僕は、

「とりあえず喫茶店でネタ書きながら帰るか帰らんか悩みますわ。終わったら一応連絡ください。帰ってるかもしれませんが」

としか言えず、喫茶店に向かいました。
喫茶店でヒューマンさんの、童貞に裏打ちされた数々の理に適った意見を反芻しながらも、僕はやはり石川の夜を諦めきれずにいました。

そしてそうなった僕の頭には当然のように安西先生のあの言葉が。

「諦めたらそこで試合終了ですよ」

人生において諦めそうになった時、誰もが一度は頭にこの言葉が浮かんだことがあるのではないでしょうか?
そして健全な男子なら誰もが頭の中で一回は言ったことがあるであろう、

「安西先生、セックスがしたいです」

僕は釈迦の教えに背き、2次元の言葉を選ぶ事に決めました。
そして数時間ほど喫茶店で過ごした僕のところに大前さんから電話がありました。

大前「今終わった! どうする?」

僕「行きます!! 行くに決まってます!!」

大前「了解! ヒューマンさんも行くって!」

僕「え!? え!? え!? なんで!?」

大前「ヒューマンさんさっきの収録1位やってん! 収録終わったら急にオレも行くって言い出してん! じゃあ駅前集合で!」

釈迦ちゃうやん。

しっかりヒューマンやん。

生まれ育った故郷でめちゃめちゃ童貞捨てようとしてるやん。

そして数時間ぶりに会ったヒューマンさんのメガネには一点の曇りもなく、

「ごめんな、森田」

の目で僕を見つめ、ネタで使ったフリップには『安西先生、僕もセックスがしたいです!』とデカデカと書かれていたように見えた。
僕はそんな童貞先輩を許さないわけにもいかず、3人で夜の石川の街に繰り出しました。

石川県まで来たにもかかわらず、どの都道府県にもだいたい店舗を出している居酒屋チェーンに入る3人。
北陸の海の幸とかよりもとにかく女の子が飲んでそうな店を選ぶ3人。

こんな奴らに女神が微笑むわけがないと思われた矢先、僕らの後ろの席に年頃の女性3人組が座った。
マジか!? ちょうど3人やんけ! しかも3人とも結構可愛いやんけ!
色めき立つハンサム野郎と童貞二人。
こんな千載一遇のチャンス滅多にないぞ!

「おい森田! お前一番後輩やねんから声かけてこい!」

ハンサム上官からの容赦なき命令。

「いや、待ってくださいよ! 僕そんな勇気ないっすよ! 大前さん男前やねんから男前が声かける方が絶対いいでしょ!」

許しを乞う森田二等兵。

「いいから行けって! こんなチャンスもうないかもしれんぞ! あわよくばエロいことできるかもしれんねんぞ!」

血も涙もないハンサム上官の命令から逃れるべく、童貞仲間に助けを求めようとチラッと見ると、まさかの「行けよ」の目をしている中村七等兵。

くそがっ!!

僕は勇気を振り絞り、女子3人に声をかけました。

「あのー、もしよかったらでいいんですけど、僕らと飲みませんか?」

こんな面白みも何もないあからさまなナンパに女子3人が怪訝な表情を浮かべたその刹那、奇跡が起きた。
女の子の一人が、

「あっ! ヒューマン中村じゃん! この前R-1グランプリ出てたよね! めっちゃ面白かったよ!」

奇跡!!! こんな奇跡あんのか!?
ふと僕らの席に目をやると、ヒューマンさんと大前さんが、山王工業戦の最後の桜木と流川ばりのハイタッチをかましている。

ナイス! ナイス! ナイス! ほんまナイスや!
ありがとう! 中村七等兵! いや、中村四等兵!

僕と大前さんは心の中でそう叫んだ。
そしてほぼ涙目で喜ぶヒューマンさん。
恐らくR-1の決勝に行った時よりも喜んでいたように見えました。
そんなヒューマンさんの奇跡の大活躍により、女子達はすんなり僕らの席に移動し、6人で飲むことになったのでした。

移動してくるなり他の女の子二人にヒューマンさんがR-1でいかに面白かったかを説明するヒューマン番記者女子。
終始ほくほくのヒューマン。
このまま行けば、湘北童貞高校卒業も夢じゃない。
良い感じに飲み会も盛り上がり、しかもなんとなくカップルもできつつあった。

ハンサム男大前さんになんとなく抱かれたそうにしてる一番エロそうな女子A。
僕の言うことで一番笑ってくれる女子B。
そしてなんと言ってもヒューマンさんの才能を終始褒めちぎる女子C。

男性陣達の間に、“もう一押しすればなんとかなるんちゃう?”という空気が流れた。
そして試合は、第2クォーターのカラオケへ突入する。
そう、ノリの良い石川美人3人はカラオケも一緒に行ってくれることになったのです。

胸踊らずにはいられない男3人。
そしてカラオケに到着し、僕らは大勝負に出た。

“男女それぞれペアを組んで点数対決をして、一番点数が低かったペアはキス”

という提案を女子達に持ちかけました。
するとノリの良い女子達は、一応ブーブー言いながらも結果了承してくれるという最高のプロレスを披露。

よっしゃ来た!この流れほんまにひょっとしたらひょっとするぞ!

第1戦目、大前ペアの負け。
すると女子Aが、したかったんちゃうんかってぐらいすんなり大前さんとキスをした。

すごーー!! 石川の女エローー!!

続く第2戦、森田ペアの負け。
来たー!! 絶対にバレてるやろうけどあからさまに音程はずした甲斐あったー!!
僕がドキドキしながら女子Bにキスを迫ると、女子Bは照れながらもこれまた割とすんなりキスをしてくれた。

おっしゃーー!! 恐らくキスの本場石川ーー!!

そしてついに迎えた第3戦、ヒューマンペアの負け。
しっかり順々に負けていくというヤラセかのようなシナリオ。
とうとうヒューマンさんがキスできる時が来たのだ。恐らく初キスだろう。
二十数年間童貞の男のキスはもうギリセックスとみなしてもいいと思う。

そしてヒューマンさんが、童貞のお手本のような唇を尖らせたキスをしようとした時、事件は起きました。



「ムリムリムリムリムリ」



え?

は?

え?

僕らは一瞬何が起きたか分かりませんでした。
一つ分かっているのはヒューマンさんの隣で女子Cが顔をしかめて座っているということだけ。

何かの間違いだろうと思い、もう一度キスをしようとするヒューマン。


「ムリムリムリムリ、ムリだって」


なんでや!?なんでなんや!?
この会は全てお前から始まったんちゃうんか!?
お前あんなに嬉しそうにヒューマンさんの面白さを語ってたやんけ!
そのお前がなんでヒューマンさんとのキスは無理やねん!
そらなんとなくヒューマンさんの童貞卒業はこっちサイドも無理やと思ってたけど、それでも他の女の子二人はちゃんとノリ良くキスしてるんやからお前もキスぐらいしたらええんちゃうんか!?おおんっ!!

という怒りに満ちた目を女子Cに向ける僕。

それ以上に嫌悪感を露わにしてくる女子C。

『明日のジョー』のラストシーンかのように真っ白になりソファにへたり込むヒューマン。
何も成し遂げてない版のジョー、ヒューマン。

「燃えてないぜ」という彼の最後の言葉が今にも聞こえてきそうです。
部屋のボルテージは一気に下がり、朝までのフリータイムにしてるものの、なんとなくこの会もお開きにするかという空気が流れました。
すると、女子Cが帰ると言い出し、それに付き添う感じで一緒に帰ると言い出す僕が狙っていた筈の女子B。
そして友達二人が帰ると言ってるにもかかわらず、なぜか大前さんの隣から一歩も動こうとしないどエロ女子A。

とりあえず変な空気のまま全員で店を出ることに。
店を出るなり女子Bと女子Cは「じゃあまたね!」と言いそそくさと帰っていきました。

「絶対に“また”はないやろ!」

という無粋な言葉を投げつけ二人を見送った後、ふとヒューマンさんを見ると前半とは全く違う種類の涙目になっていました。

そして、遠ざかっていく女子Cの背中にヒューマンさんが大声で叫ぶ。

「夢見させるようなことを言うな!!」

まさにメガネ君が三井寿に言い放ったあの台詞。
ヒューマンさんが本当に言ったかどうかは定かではないですが、演出上言ったことにしといて下さい。

そしてそんなしょうもない演出よりも、俄然気になるのは全く帰ろうとしない女子A。
完全に大前さんをロックオンしている超どエロ女。

え? これってこの後どうなんの?
勝手にドキドキしてる童貞二人。
そんな童貞をよそに完全に二人の世界に入っている大前どエロ女ペア。
すると大前ペアが急に何も言わずに歩き出しました。

え?? え?? どこ行くん?? なあ?? どこに歩き出したん??

あたふたする童貞ペア。

ずんずんと歩いて行く大前ペア。

その後ろを30mぐらいの距離を保ちながら歩く童貞ペア。

「お前らついてくんなよ」の空気を背中からビンビン出してくる大前ペア。

「いや、なんでついてってんのか自分らでもよく分かってないんすよ。今まさにお持ち帰りを成功させようとしてる男を目の当たりにしてパニクってるんすよ」の空気しか出てない童貞ペア。

確実にホテルに向かって進んでいる大前ペアの背中を見ながら、僕に一抹の不安がよぎる。

あれ? オレのこと泊めてくれるって言ってなかったっけ?
大前さん? あんたその女とツインの部屋帰ったらオレどこ泊まるんすか? ねえ? ねえって?

吸い込まれるようにホテルに入っていく大前ペア。

仕方なく僕は大前さんの部屋に泊まることを諦め、ヒューマンさんの部屋に朝まで居させてもらうことにしました。

ブタ箱にぶち込まれたかのような負け組二人。

「やっぱ僕らって全然ダメっすね」

床に寝転びながら今日の出来事を反省する童貞。

「そやなぁ……」

なんとなく話を合わせるが、そんなことよりオナニーしたい感がダダ漏れの童貞。

「やっぱり顔が良いってだけでモテるんは違うと思うんすよねぇ」
愚痴る童貞。

「ほんまそうやなぁ……」

そんなんどうでもいいからとにかくオナニーしたいからどっか行ってほしい童貞。

「今日どんなネタしたんすか?」

もう女の話でどんよりするの嫌やからお笑いの話にシフトチェンジしようとする童貞。

「なあ、森田。大前ってやっぱ今セックスしてんのかな?」

質問に答えるどころか、それ聞いて何になんねん?の質問を逆に投げかけてくる童貞。

「そらやってるでしょー」

なぜか知ってるかのようにちょっとだけイキりながら返す童貞。

「そっかあ……やってんのかあ……」

何やねんこいつ!の童貞。

二人の間に沈黙が流れる。

「セックスの声聞きに行かへん?」

いよいよヤバイこと言い出す童貞。

「行きましょ!」

食い気味で返す童貞。

二人は立ち上がり、大前さんの部屋まで全速力で走りました。

キッズリターン。

ロッカールームを飛び出して、第3クォーターのコートである大前さんの部屋の前に到着するなり、何のためらいもなくドアに耳をあてる童貞二人。

向かいあって耳を澄ましていると、中から女性の喘ぎ声が聞こえてきた。

自然と目を合わせる童貞二人。

「これ、やってるんやんなぁ?」

聞くまでもない質問をぶつけてくる童貞。

「当たり前でしょ!」

興奮を抑えきれず、だいぶデカイ声でつっこんでしまう童貞。

「すげえ! すげえ!」

後輩のセックスにもかかわらず、街頭テレビで力道山の試合を観てる子供ぐらい興奮してる童貞。

誰もいない廊下でただただ聴覚のみを研ぎ澄ます童貞二人。

お互い向かい合ってしゃがみながらドアに耳をあて、チ◯コをギンギンにしているその姿は、まるで剣道の始まる前の感じを彷彿とさせる。

「森田、これってもうはいってんのかな?」

なんちゅう質問してくんねん!!な童貞。

「たぶんまだやと思います。パンパン言ってないんで」

よく分からない理由を言いながらも、あくまでオレはあんたよりワンランク上の童貞なんだぞというスタンスを貫こうとする童貞。

すると急に隣の部屋のドアがガチャっと開いた。
童貞二人は瞬時にドアから体を離し、隣の部屋の方を見た。
すると、大前さんの相方の部屋で飲んでいた共演者の芸人たちがぞろぞろと出てきた。

ヤバイ!!

大前さんのセックスを二人して聞いてたなんてことがバレたらこの先どんだけイジられるか分かったもんじゃない!

「ん? お前らこんなとこで何してんの?」

芸人たちが聞いてくる。

「いや、あのー、ちょっと自販機探してまして……」

苦しすぎる言い訳。しかし、

「自販機? この階にあったっけなぁ? あるとしたら一階のロビーのとこちゃう?」

「あっ、そうっすよね! じゃあ一階行ってみますわ!」

「うん、おやすみー」

「おやすみなさいー……」

この酔っ払いどもが!

明らかに不自然な状況にもかかわらず、芸人たちが酔っ払ってたおかげで何とかバレずに済んだ僕らは再びドアに耳をあてる。
ヒューマンさんはドアに耳をあてる度にメガネの縁がドアにコツンッて鳴り、僕はその度にイラつきながらも、とうとう二人で最後まで大前さんとどエロ女のセックスを聞き終えました。

全てを聞き終えた直後のヒューマンさんは、なぜか自分が童貞を捨てたかのような顔をしていました。
それを見た僕もなぜか嬉しくなり、二人でガッチリ握手を交わしました。

完全なる敗北者同士の意味不明の握手。

自転車を二人乗りし、部屋に戻ろうとする童貞。

「俺たちもう終わっちゃったのかな?」

「バカヤロー、まだ始まっちゃいねえよ」

エンドロール。



の筈だった。
しかし、僕の頭の中に再びあの言葉がよぎる。

「諦めたらそこで試合終了ですよ」
北野映画vs井上雄彦

僕は自転車をおりる覚悟を決めました。
そして、部屋に戻ろうとするヒューマンさんをエレベーターの前まで見送る僕。

「じゃあ僕はここで。お世話になりました」

急に別れの挨拶をする童貞。

「え?お前戻らんの?」

さっきまで苦楽を共にしてきた戦友がなんか変なこと言い出したよ?の童貞。

「僕には第4クォーターが残ってるんで」

凛々しい表情でまっすぐ戦友を見つめる童貞。
こいつ何言うてんの? まあでも森田帰ってけえへんねやったら思う存分オナニーできるしどうでもええか! ラッキー! と言わんばかりに颯爽と部屋に戻っていく童貞ヒューマン。

だからあんたは童貞なんだよ。

僕はくるっと踵を返し、意を決してさっきまで耳をあてていた大前さんの部屋のドアをノックしました。
部屋のドアが開き、修羅の如き顔で立っている僕に大前さんはびっくりしながらも部屋の中に入れてくれました。

初めて入る他人のセックスの直後の部屋。
独特の湿度と香りに立ってるのがやっとの状態でした。
そして数時間ぶりに対面する、すっかり艶っぽくなった、どエロ女第二形態。
その女に対して一世一代の大勝負に出る童貞。


童貞「僕もヤらせてください!!!!」

第二形態女「絶対イヤ!!!!」

童貞「諦めたらそこで試合終了なんです! お願いします! ヤらせてください!」

第二形態女「はぁ!? 何わけわかんない事言ってんの!? だからイヤだって!!」

大前さんとのピロートークを邪魔され、尚且つぽっと出の童貞にセックスを懇願されイラつく第二形態女。

そんな第二形態女に最後のカードを切る童貞。

童貞「分かりました! じゃあせめて僕のオナニー見てください!」

僕はこの手の女はギンギンのおちんちんを見せれば何とかなるんじゃないかという勝手な思い込みを抱いていました。

最後の望みを託した3ポイントシュート。

「いや、本当に何言ってんの? まあでも見るだけだったら別にいいけど? 勝手にやれば?」

掛かったな!!!

「ありがとうございます!!!」

僕とどエロ女の目まぐるしい攻防の隣で、ひたすら爆笑してるハンサム男大前。
ヘラヘラしてるのも今のうちやで大前はん。わしがこの大勝負に勝った時、あんたはわしの前に屈服するんや。
よう見ときなはれ、あんたが艶っぽくした女に、わしが渾身のスラムダンクをぶち込んだりますさかいに!!

僕はそう確信しながら作業に入りました。
しかし、ここで予期せぬアクシデントが起きる。

あれ?


あれ??



あれ???




勃たへん!!!




なんでや!!??


ほら!

早く!!

ほら!!!



全然勃ちまへん!!!!!!



ひよった……セックス直後の男女を目の前にして、完全にひよった……。
そこから15分ほど頑張ったが、僕のイチモツはうんともすんとも言いませんでした。

「え? この人本当何なの? 結局何がしたかったの? 私もう帰るね」

「セックスがしたかっただけなんです!!」

「だからヤらねえって!!」

その言葉を最後にどエロ第二形態女は、元の状態に戻り帰っていきました。
残ったのはおちんちんを放り出した童貞と終始爆笑してるクソハンサム野郎大前。

翌朝、帰りの新幹線のホームで、すっきりした顔のヒューマンさんに会い、

「お前昨日あれからどうしてたん?」

と聞かれ、

「はっはっは。愚問を」

と言った後にくるっと振り返り、

「童貞ですから」

エンドロールばーん!!

T-BOLANのええ感じの曲どーん!!



これが僕の墓場まで持って行く筈だった話です。
果たしてこれで彼らはよだれを垂らして喜んでくれるのでしょうか?

てゆうか彼らの為だけに書いてるなら、こんなもんLINEグループで送ればええやんってことに今更気づいた次第でございます。