まつもとあつしのそれゆけ!電子書籍 第1回

2012/1/18

電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答! 教えて、まつもと先生!



ちば :みなさん、はじめまして!ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部員のちばです。昨年、まつもとあつしさんに「電子書籍最前線」という連載を担当頂いていたのですが、今年から心機一転「それゆけ!電子書籍」とタイトルを改めて、電子書籍ビギナーの私にも読者の方にもより分かりやすい内容で、電子書籍のあれこれを紹介していきます。

まつもと :昨年末に「まつもとさーん・・・」って微妙な声で電話をもらったときには、連載終了なのかと思いましたよ(笑)。去年は電子書籍を実際手がけている方々にお話しを聞くことが中心だったのですが、今月からは、ちばさんや読者のみなさんから質問をもらって、それに答えるという形で進めていきましょう。もちろん、これは現場の方に話を聞いた方がいい、と言うときはまたインタビューも交える形で。

ちば :わかりやすくお願いしますよ、先生! ではさっそく今回のお題です。
「アメリカと比べて日本の電子書籍普及率(電子書籍を読んでる人口のこと)が低いのはなぜですか?」
米国だと、kindleが普及して米国amazonでは、電子書籍が紙の本の売り上げを上回ったというニュースも出ました。また、米国の電子書籍デバイスの普及率をみると多いな~という印象です。
 


アメリカの調査機関【Pew Reserch Center】が2011年6月27日、定期調査データの一部を再編集したものを発表した電子書籍リーダーの普及率

まつもと :なるほど。これまでもなんどか指摘したように、2010年に「電子書籍元年」って言われたのに、実際周りで電子書籍を読んでいる人が少ないぞ、ってやつですね。
 

紙の本との比較からみえてくるもの

まつもと :同じ「本」でも日本と北米ではずいぶん事情が違う、というのがそのもっとも大きな原因ですね。電子書籍は紙の本と対でとらえられるものですが、わかりやすい話からはじめると、そもそもの本の大きさが違います。

ちば :あ、たしかに。アメリカに旅行に行ったとき、本屋さんに大きな本が並んでいるなあ、と思いました。

まつもと :移動に使うのが、車か否かで、好まれるパソコンのサイズなんかも違いますしね。

日本には新書とか文庫というとても持ち歩きに適した本のフォーマットがあります。北米ではそうではなくて、本は大きくて重いものという捉え方が一般的のようです。もちろん一応ペーパーバックという種類の本はありますが、かなり質の悪い紙を使っていて、しかも分厚いので、お世辞にも読みやすいとは言えません。そんな環境なので、Kindleの薄さと軽さは「紙の本では得られない」メリットとして強いインパクトがあったはずです。

ちば :逆に日本だと文庫本一冊カバンに入れておけば、あんまり電子書籍端末の出番は少ないのかも・・・。

まつもと :電子ナビの編集員として、それはどうかと思いますよ(笑)

日本でも「本をいつでもたくさん持ち歩きたい!」という人たちにとっては、電子書籍端末は魅力ですけれど、そういう人は限られます。

ちば :たしかに。去年お話を伺ったソニー・リーダーも「読書好き」に支持されている、というコメントが印象的でした。

まつもと :僕が昨年まとめた本『スマート読書入門』の中でも繰り返し述べている「ソーシャル・リーディング」のような「電子書籍ならではの新しい本の楽しみ方」ももちろん重要なのですが、それが一般に理解されるにはまだまだ段階を踏む必要があり、時間もかかると思います。

あと、Kindleで本を買えば、内蔵された通信機能で本が配信されてくるというのも大きいですね。本屋さんに行く必要がないのはもちろん、パソコンとつないで同期をとる必要もありません。

そもそも日本は世界的にみても書店の数がとても多いんです。手間がかかるくらいなら、最寄りの駅の本屋さんで手軽に本を買った方が早くて楽だ、というのは現状、合理的な考え方だと思います。
 

価格を巡る環境が違う

まつもと :とはいえ、まだ北米でも電子書籍は始まったばかりですから、日本と消費者の捉え方はそう大きくは変わりません。そんな中、価格の違いが大きいですね。Amazonで紙の本を書うよりも、Kindleで電子版を買った方がお買い得というのはやはり、消費者には魅力です。
 


amazon.comでの伝記「Steve Jobs」。ハードカバーは17.49ドルだが、Kindle版は9.99ドルだ。
 

ちば :日本では、アプリ型の電子書籍では思い切ったセール価格にするケースもあったけど、ミリオンセラーになった伝記「スティーブ・ジョブス」も、紙・電子とも同じ値段でしたね。

まつもと :もともと、日本には「再販制度」という法律で定められた仕組みがあって本は定価で売らなければならない、というルールがありました。去年、国(公正取引委員会)が「電子書籍はこの価格拘束の範囲に含まれない」という見解を示したことで、電子書籍の価格設定を柔軟に行うケースが増えてはきています。

ただ、Kindleの場合、Amazonがその価格決定に大きな影響力を持っていたり、AppleのApp Storeでも段階的に決められた価格でしか値付けができないなど、国内の電子書店に比べると融通が利かない。それを嫌がる出版社の人も多いですね。

ちば :App Storeといえば昨年予告なしに円高が反映されて、電子書籍を含めたアプリの値段が一気に値下がりした出来事もありましたね。

まつもと :そうそう。あれにはびっくりした関係者は多かったです。ただ、Amazonにせよ、Appleにせよ販売力が強いからこそ、厳しい条件が主張できるわけです。自前の販売力には限りがある中小・中堅出版社の中には、その条件を飲んでもやっぱり参加したいという会社もあるはずです。

ちば :今年には日本でも始まるかも、といわれているKindleに参加する出版社がでてくる?

まつもと :昨年、日経新聞が報じた出版社PHP研究所の参加はすぐ否定しましたが、ビジネス書、実用書の分野などKindleと相性のよい出版社がKindle日本版のスタート同時に参加、ということはありそうです。アドベンチャーさんへの取材でも、セール価格によって電子書籍の売り上げが上がることはもちろん、紙の本にも好影響が期待できる訳ですから、Kindleに限らず電子書籍という「仕掛け」をうまく活用する動きが広がるといいですよね。

ちば :わたしもセール大好きです!