『おそ松さん』の6つ子は全員ニート。 松野家の家計は大丈夫なのかな?

更新日:2017/3/29

 2015年から16年にかけて、一気にブレイクしたのが『おそ松さん』である。赤塚不二夫先生が『おそ松くん』を描いたのは1960年代だから、それから半世紀経って新しいアニメが作られたわけだ。しかも、旧作のリメイクとかではなく、続編。『くん』では性格までそっくりだった6人が、『さん』ではそれぞれハッキリした個性を発揮するようになったのもスバラシイ。

 でも、あのヒトたち、全員ニートなんだよね。おそ松、カラ松、チョロ松、一松、十四松、トド松の6人は、もう20歳を超えているのに、誰も定職に就かず、6人がかりで親のスネをかじりまくっている。

 恐るべきことである。松野家は、父・松造さん、母・松代さんと六つ子の8人家族。アニメのHPの松造さんのキャラ紹介には「息子たちが自立せず、おそらく松野家唯一の稼ぎ頭でもある」とある。松代さんは専業主婦だから、確かに松野家の収入源は松造さんだけなのだろう。

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 では、その松造さんの職業は? 大きな会社の社長だったりしたら、息子全員がニートでも困らないかもしれないが……。ところがフジオ・プロの公式HPの『おそ松くん』のコーナーでは、父親について、こう書いてある。

 「松野家の大黒柱にして六つ子の父。休日は六つ子への家族サービス、平日は社長の顔色をうかがうサラリーマン、と休む暇がない。どこか頼りないところもご愛嬌」。

 単なるサラリーマン! 右は六つ子が子どもの頃のプロフィールだが、松造さんがその後職業を変えたという話は聞こえてこない。ってことは、松造さんは普通のサラリーマンの収入で、ニート6人を養っているの!? これはなかなか大変そうだが……。

生まれたときにいくらかかった?

 すっかり定着した「ニート」という言葉。日本語では何というのか調べてみると「若年無業者」。ふーむ、なかなか容赦のない言葉である。

 若年無業者とは、厚生労働省の定義によれば「15~34歳の非労働力人口のうち、通学、家事を行っていない者」のことで、2011年の調査では、全国に60万人いる。同じ年の全国の世帯数は5200万だから、平均値を示すならば、一軒の家に0.012人の若年無業者がいる計算になる。87軒に一人だから、意外に多いですなあ。

 ところが、その若年無業者が、松野家には6人もいるのだ。ニート発生率は、全国平均の500倍!

 そんな松野家の家計は、いったいどうなっているのか。誕生から現在に至るまでを考えてみよう。六つ子の誕生日は5月24日らしいが、生まれた年は不詳なので、現在の金額で計算する。

 まず、出産にはいくらかかるのだろうか。

子どもが一人の場合、平均すると40万円ほどかかるという。
だが双子の場合は、出産前に1週間の「管理入院」が必要なため、
母親にかかる費用が54万円。
子ども一人につき7万円かかり、二人で14万円。
合わせて68万円が必要になる。

この計算が適用されるならば、
六つ子の場合は54万円+7万円×6=96万円。

 ただし、赤ちゃんが生まれると、国から「出産育児一時金」が出る。金額は一人につき42万円。
すると松野家がもらえる出産育児一時金は、42万円×6=252万円。

おおっ、出産費用の96万円を払っても、156万円の黒字だ。幸先いいぞ、六つ子!

六つ子が成長すると……

 喜ぶのはまだ早い。その後、成人するまでにはどれくらいかかったのか。
内閣府の統計によれば、第一子の0歳児を育てるには、1年に平均で93万円かかるという。1ヵ月あたり7万7600円だ。でも毎月1万5千円の「児童手当」が出るので、実際に家計から出ていくのは6万2600円。

 ここで「第一子の」と限定されているのは、第二子以降は、ベビーカーや服やランドセルなど、ある時期にしか使わない品物は「お下がり」などを使って、節約できる場合があるからだ。

 ところが、このたび松野家に生まれた6人は、全員が同じ年。服もランドセルも一度に6個買わねばならず、普通の第一子の単純に6倍かかる。すると、いくらになるのだろうか。国税庁「平成26年分 民間給与実態統計調査」によると、民間企業で働くサラリーマンや役員、パート従業員などの平均年収は415万円らしいのだが……。

0歳のとき 年間450万7200円(月額37万5600円)
1歳のとき 年間418万8000円(月額34万9000円)
2歳のとき 年間457万6800円(月額38万1400円)

 ぎょっ。最初の年から平均年収を超えてしまっている! 念のために言っておくと、この金額は、子どもの養育にかかるおカネだけ。子どもに関する費用は、食費も医療費もオムツ代もすべて含んだ額ではあるが、松野ご夫婦の生活費や家の光熱費などは入っていない。
そして、子育てにかかる費用はその後、どんどん膨らんでいく。3歳になると児童手当が減額され、「食費」は増え、幼稚園などの「教育費」がかかり始める。おそ松たちも、幼稚園に行ったとすれば、6歳までにかかる金額はこうなる。

3歳のとき 年間528万3600円(月額44万300円)
4歳のとき 年間622万3200円(月額51万8600円)
5歳のとき 年間599万7600円(月額49万9800円)
6歳のとき 年間633万1200円(月額52万7600円)

これはすごい。まだ小学校にも通っていないのに、すでにサラリーマンの平均年収額の1.5倍になっております……。

義務教育終了までに1億円!

 小学校に上がると、公立なら授業料がゼロなので費用全体も安くなる。これは嬉しい。だが、それも最初のうちだけ。体も大きくなり、食費や服代なども増えていく。

小1のとき 年間571万2000円(月額47万6000円)
小2のとき 年間539万8800円(月額44万9900円)
小3のとき 年間582万6000円(月額48万5500円)
小4のとき 年間595万2000円(月額49万6000円)
小5のとき 年間645万2400円(月額53万7700円)
小6のとき 年間665万4000円(月額55万4500円)

 中学生になると、児童手当はまたも減額され、塾などの「学校外教育費」が増え始め、食費もウナギ昇りに増えていく。

中1のとき 年間844万6800円(月額70万3900円)
中2のとき 年間846万9600円(月額70万5800円)
中3のとき 年間895万800円(月額74万5900円)

 ついにサラリーマンの平均年収の2倍を超えた。この15年間にかかった費用の総額は、出産のときの黒字で埋めても、なんと9741万円。ほぼ1億円である!
年間平均は649万4千円。その後、高校から成人までの5年間も同じ金額がかかり続けたとすると、5年で3247万円。これまでの合計は1億2988万円となる。

今後もますますかかりそう

 さて、現在である。6人全員がニートだと、どのくらいのお金がかかるのだろうか。
人間が生きていくには、どうしても必要な最低限のお金というものがある。今回参考にした内閣府の統計では、「食費」「衣類・服飾雑貨費」「生活用品費」などがそれにあたるだろう。この3項目が中学3年生と同じだとしても、一人1ヵ月あたり4万4500円だ。

 これに加え、おそ松たちはいろいろとお金を使っている。おそ松はギャンブル好きで、カラ松はファッションにうるさく、チョロ松はアイドルを追いかけ、一松はお金をだまし取られたりして、十四松は人間とは思えないほどの大食漢で、アルバイトをしているのはトド松だけ。そして全員、よく居酒屋に行く!

 平均して月に一人5万円は家計から使っているのではないだろうか。これと最低限の費用を合わせると、一人9万4500円。6人で56万7千円! 年間680万4千円で、これがあと20年続いたら1億3680万円。現在までの1億2988万円と合わせると、

ええっ、2億6600万円……!?

 さっきも書いたけど、これ、六つ子にかかる分だけ。他に夫妻の生活費や家の維持費や光熱費やクルマや家電などのおカネが……。

ホントすごいな、松野家。というか、松造さんがすごい。

◆著者プロフィール
柳田理科雄
空想科学研究所主任研究員。代表作に「空想科学読本」シリーズ。また、各地での講演、ラジオ・TV番組への出演なども精力的に行っている。

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公式ツイッター:@KUSOLAB

■作品紹介 マンガやアニメ、特撮映画などで描かれる設定やエピソードは、科学的にどこまで正しいのだろうか? 初刊行から20年、累計500万部突破のベストセラー『空想科学読本』シリーズから、原稿31本を厳選、全面改訂して収録する。本書で検証するのは『ウルトラマン』『ONE PIECE』『名探偵コナン』『シン・ゴジラ』『おそ松さん』など、世代を超えて愛される作品の数々。爆笑の果てに、人間が描いた夢の世界の素晴らしさが見えてくる!

◆プロフィール
柳田理科雄
1961年鹿児島県種子島生まれ。東京大学理科Ⅰ類中退。96年、経営していた学習塾の赤字を埋めるために『空想科学読本』を執筆したところ、60万部のベストセラーに。だが、塾は潰れてしまい、99年空想科学研究所を設立して研究と執筆に専念。2007年、希望する全国の高校図書館に向けて「空想科学 図書館通信」の毎週無料配信を開始する。13年スタートの『ジュニア空想科学読本』(角川つばさ文庫)が小中学校でブームになるなど、読者層はいまなお拡大し、著書の総累計部数は500万部。明治大学理工学部非常勤講師も務める。
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