第26回『中村静香さん、すいません……』/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2017/4/15

待望の小説家デビューから、はや2ヶ月が経ちました。

 

「うちの雑誌でも是非連載をお願いします!」
「小説最高でした!『マグロ』の実写化ドラマを是非うちの局でやらせてください!」
「漁業組合のPRイベントで5分程度ネタやってくれませんか?」

 

などの声は一切なく、文学界にさざ波すらも立てられず終わった小説家デビュー。

 

己の無力さを痛感し、理想と現実のあまりの違いに絶望し、太宰治の如く無理心中を図ろうと、贔屓にしてもらっているヤリマン達に連絡しましたが、全員から既読スルーをかまされ、文豪っぽいエピソードすら残せず1ヶ月が過ぎました。

 

小説家への道が完全に断たれ、死ぬことすらもできず、それでもこの連載の締切日は刻一刻と近づいてくる。
そんな状況で辿り着いた答え。

 

「まあええか! 小説家って何か陰気やしな!」

 

文学界全体を敵に回す、インテリのかけらもない発想。
こんな奴が小説家を目指すこと自体、文学界への冒涜だと、自責の念にかられました。

 

ということで、今月からまた初心に帰り、真田ではなく森田として、自らのヘドロのようなゴシップを吐き出していこうと思います。

 

しかも今回はヘドロの中のヘドロと言っても過言ではないかもしれません。
余りのヘドロっぷりに、各方面から非難轟々の大バッシングを受ける可能性大です。
コラムニストとしての覚悟を持ち、自らのヘドロと真摯に向き合おうと思います。

 

さて、僕も芸能界という華やかな世界に片足を突っ込んで、今年で十年が経ちました。
十年頑張っていると、超大物司会者の番組などに呼んでもらえることもチラホラあります。

 

今年のお正月のことでした。
今や日本一多忙と言っても過言ではない超大物司会者、坂上忍さんの韓国ロケの番組に呼んでいただいた時に、芸能界に入って一番の奇跡が、僕の身に降ってきました。

 

その番組は、超多忙な司会者、坂上忍が、日頃の鬱憤を晴らすべく、旅行をしながら本気で遊び倒すというコンセプトで、昼間から浴びるほど酒を呑み、大好きなギャンブルに興じ、夜は女性のいる店でひっちゃかめっちゃかするなど、古き良き時代のバラエティ番組を思い出させるような、今の地上波では決して観ることのできないネット配信の番組。

 

そこになぜか、一滴もお酒が飲めない僕が抜擢されました。
共演者は、売れっ子の先輩芸人さんと、呑み姿が可愛いと評判の、Fカップグラビアアイドル、中村静香さん。
先日某番組の『抱きたい芸能人ランキング』で、並み居る芸能人達を押しのけ、見事3位を獲得したほどの、今や押しも押されぬトップグラビアアイドルです。

 

収録が始まるやいなや、まだカメラが回って1分もしないうちに、僕のグラスにマッコリを注いでくる坂上忍。

 

「実は僕一滴もお酒飲めないんです!」

 

という僕の言葉は、何の意味も持たず、飲むことでしか市民権を得られない状況。

 

渋々飲む僕。

 

下戸の人間が無理して飲むその姿に喜ぶ共演者とスタッフ達。

 

意外と楽しい。

 

自分がどんなに辛い状況であろうと、笑ってくれる人間がいることに幸せを感じるのが芸人の性。
僕は次から次へとマッコリを煽りました。

 

しかし、楽しかった時間は、突如として終わりを告げます。

 

「ヤバイ!! 頭が割れるぐらい痛い!! この後キャバクラ行くって言ってたのに、もう一歩も動きたくないぐらいむちゃくちゃしんどい!!」

 

結局、何の機能も果たさない僕は、ロケバスに残され、みんなはこの旅最大の目玉である、韓国屈指のキャバクラでのロケに出掛けていきました。

 

誰もいないロケバスの一番後ろの席で寝そべりながら、完全にダウンする僕。
キャバクラに行けなかった悔しさの40倍ぐらいのつらさが僕の体を支配します。

 

そして誰もいないロケバスで、一人虚しく3回ほどリバース。

 

「死ぬかも。オレ韓国で死ぬかも」
自らの死期が近づいてきていることを認識する僕。

 

スタッフに渡された毛布を抱きかかえながら倒れこむその様は、まるで『フランダースの犬』のラストシーンを彷彿とさせていたに違いありません。

 

「パトラッシュ、疲れたろう。僕も疲れたんだ……なんだかとっても眠いんだ……」

 

ただの毛布に語りかけるネロ。
床に転がるゲロ。

 

本編ではこの後、天使がお迎えにやってきて、ネロとパトラッシュを天に連れていきます。
しかしその時、急にロケバスのドアが開く音がしました。
僕はふと我に返り、

 

「やっとキャバクラでのロケが終わったんかな?」

 

と思い、ドアの方向を見ました。
すると、とんでもない光景が僕の目に飛び込んできたのです。

 

「何してるんれすか~? まだしんどいんれすか~?」

 

なんと、ベロッベロに酔っ払った中村静香が、たった一人でロケバスに乗り込んできたのです。

 

「え? 嘘やん? どういうこと? なんで一人なん? みんなは?」

 

軽いパニックになっている僕をよそに、ベロッベロの中村さんは、あろうことか、僕の寝ている座席の少しだけ余っているスペースに座り、いきなり僕の顔面を両手でベタベタ触り、

 

「うわ~、気持ち悪い顔~!」

 

と、罵ってきたのです。

 

これは夢なのか? オレは今夢の中におるんか?
そう思わざるを得ないぐらい異様な状況。
しかし、パニックになりながらも目の前で起こっていることを必死に整理した僕は、

 

「天使がお迎えにきた! パトラッシュ! Fカップの天使がお迎えに来たで!!」

 

と、心の中で全力で叫んでいました。

 

「なんれずっと寝てるんれすか~? 気持ち悪い顔~!」

 

相変わらず顔をベタベタ触りながら罵ってくるFカップの天使。

 

そしてとうとう、恐れていたことが起きました。
眠っていたネロのMの性癖が目を覚ましたのです。

 

「やばっ!! 気ついたらギンギンなってるやんけ!!」

 

ついさっきまで死を意識してたくせに、Fカップグラビアアイドルに顔を触られながら罵られた途端、ギンギンに勃起する最悪の男、ネロ。
Fカップのパイオツも手を伸ばせば余裕で届く距離にあります。
一向に止める気配のない天使が、ネロのイチモツをどんどんと天に引っ張り上げようとしてきます。
パトラッシュ(毛布)で股間を抑え、勃起してることを絶対に天使に悟られまいとするネロ。

 

最悪の最終回。

 

「もうどうなってもええわ! 思い切ってオッパイ触ったろかな!?」

 

と、ネロのストッパーが外れかけた次の瞬間、再びロケバスのドアが開き、中村さんのマネージャーさんが入ってきました。

 

「こんな所で何してんの? まだロケ終わってないんだから。早く行くよ!」

 

ベロンベロンのFカップの天使は、マネージャーさんに連れ出され、そのままロケへ戻って行きました。

 

ネロは思いました。

 

「ありがとうマネージャーさん。あそこであんたが来なかったら、パイオツ触って叫ばれて大問題になって、芸能界から追放されるとこだったよ。あのタイミングで来てくれて本当にありがとう」

 

依然ギンギンではあるものの、マネージャーさんへ心の底から感謝するネロ。

 

翌朝、マネージャーさんからなんとなく昨日のことを聞かされた中村さんは、僕に会うなり猛烈に謝罪してきました。

 

「昨日本当にすいませんでした! 私あんなに飲んだの初めてで昨日の記憶がほとんどないんです! 本当にすいませんでした! 本当に全然覚えてないんです!」

 

僕は全部覚えてるよ。
と、心の中で思いながらも、

 

「僕もあんまり覚えてないんで、全然大丈夫ですよ。でもお酒の飲み過ぎには気をつけてくださいね」

 

昨日のことを思い出し、再び股間をふつふつとさせながらも優しく対応する僕。

 

そして数日後、日本に帰ってきた僕は、後輩と飲んでいる時に、韓国版『フランダースの犬』最終回の話を意気揚々と語りました。すると後輩は、

 

「すげー!! マジすげーっすね!! それマネージャーさん入ってこんかったらヤレたんちゃいます!?」

 

興奮する後輩に対して、

 

「まあな」

 

完全なる大嘘をこく先輩。

 

すると、僕の携帯にLINEの通知が来ました。

 

「森田さん、今日って何してますかー? 飲みませんかー?」

 

何回か飲んでるが、全く何もさせてくれない、いわゆる一番タチの悪い“カナ”という女子から連絡がありました。
僕は全く乗り気じゃなかったが、一応後輩にどうするか聞きました。すると後輩は、

 

「飲みましょうよ! 中村静香とそんなことがあった今の森田さんやったら絶対いけますよ!」

 

何の根拠もない理論をぶつけてくる後輩。
僕も、男同士で飲んでてもむさ苦しいだけだと思い、カナと飲むことにしました。
容姿こそ淡麗ではあるが、毎回全く何もさせてくれない女、カナ。
何度か僕の家で飲んだこともあるが、何度ヤらせてくれと頼もうが、うんともすんとも言わない女、カナ。
そんなカナが、僕の家に到着しました。

 

「久しぶりー。森田さん、M-1のネタ面白かったよー」
どんなにM-1のネタが面白かろうが、何もさせてはくれない。
そんなカナに、急に後輩が全く意味の分からないクイズを出しました。

 

「カナちゃん、森田さんの今の彼女誰か知ってる?」

 

は? こいつ何言うてんの? なんやそのしょうもないクイズ?

 

「え?知らない。誰?」

 

そらそうや。誰もクソも、そもそも彼女なんておらんし。

 

「中村静香」

 

は? え? 何やそのボケ? 何の脈絡もなくそんなボケしてもウケるわけないやん?

 

「えーーー!? ホントに!? 私あの子めっちゃ好きだよ! え? ホントに?」

 

あれ? 何か予想してた反応と違うぞ?

 

「あの子めちゃくちゃ可愛いじゃん! 本当だとしたら森田さんめちゃくちゃ凄いじゃん? ねえ本当に付き合ってんの?」

 

え? むっちゃ食いついてくるやん? どうしよ……

 

「うん、まあ」

 

あっ、嘘ついてもた。

 

「えーーー!? めっちゃ凄いじゃん!! 森田さん、おめでとー!!」

 

え? 普通に信じてるやん? 普通こんな嘘信じる?

 

「あのー、向こうも事務所にバレたりしたらほんまにヤバイから、絶対誰にも言わんといてな?」

 

あっ、何か変なリアリティ足してもた。

 

「絶対言わない! でも本当に凄いね! 中村静香だよ? 普通に芸能人だよ? しかもめっちゃ可愛いし! その中村静香と付き合うって相当凄いことだよ! やっぱりM-1の決勝とか行ったら、芸能人と付き合えたりするんだねー」

 

むっちゃ信じてるやん? どうすんねんこれ? もうこのタイミングで嘘やとは絶対言われへんやん?

 

「えー? なんでなんで? なんで付き合えたの?」

 

ほら、真っ直ぐな目でめっちゃ聞いてくるやん?

 

「森田さん、中村静香と韓国ロケ行って、酔い潰れた森田さんを中村静香がずっと介抱してるうちに、そういう関係になってんて」

 

こいつも凄いな? ようそんな真顔でスラスラと嘘ばっか言えるな?

 

「えー! 何そのシチュエーション? めっちゃドキドキするじゃん! そんなドラマみたいなこと本当にあるんだね?」

 

ないよ? だって嘘やもん。

 

「けど森田さんのどこが良かったのかな? なんか芸能人にしか分からない魅力があるのかな?」

 

うん、まあ、それはだいぶ失礼なこと言ってるけどな?
てゆうかどうすねんこれ?
彼女おるって言うてもうたら、いよいよヤらせてくれる可能性ゼロやん?
もう変な空気なってもええから、嘘やって言おかな?

 

「えー、なんか森田さんのことカッコ良く見えてきた」

 

え?

 

「だって中村静香を落とせるぐらいの男ってことでしょ? めちゃくちゃ凄い男じゃん? カッコ良いよ」

 

ん? ん?

 

「え? カナちゃん、それは中村静香を落としたほどの男にやったら抱かれてもいいってこと?」

 

お前も何聞いてんねん?

 

「えー、いいかも……」

 

えええぇぇぇーーーー!?!?!?!?
マジか!?
マジで言うてんのかこいつ!?
そんなことあんの!?

 

その後、すぐに後輩を帰らせると、カナは本当にヤらせてくれました。

 

今まで全く何もさせてくれなかった女の子が、『中村静香と付き合ってる』と嘘をついたら、ヤらせてくれました。
どういうメカニズムなのか全く理解できませんが、後輩の何気なくついた嘘が、カナのヤリマン神経に、何らかの刺激を与えたのです。
なんの変哲もない一枚の絵が、ゴッホの作品だと嘘をついたら、何億円もの値段が付いたのです。

 

これぞ下衆の錬金術。

 

奇跡的なイレギュラーとは言え、あの日カナがヤらせてくれたことは、紛れもない事実です。
同時に、僕のヤリマン対策の引き出しの中に、

 

『有名芸能人と付き合ってるという嘘をつく』

 

という最強の武器が加わりました。
そんじょそこらの外道でも思いつかない技を、偶然とはいえ、手に入れたことは大きな自信に繋がりました。
これでもう向かうところ敵なしです。

 

そしてこの間、再び中村静香さんと仕事で一緒になったので、この一連の流れを正直に伝えたところ、めちゃくちゃ怒られましたが、最後はこのコラムに書くことも含め、快く了承していただきました。
下衆に理解のある事務所と、下衆に理解のある心優しいトップアイドル。大ファンになりました。
このコラムが書籍化されたら、印税は全て中村さんに入るように手配しようと思います。

 

ただ、カナは未だに僕と中村静香さんが付き合っていると、本気で思っています。
それだけは中村さんにも流石に申し訳ないので、次カナに会った時には、ちゃんと「もう別れたよ」って言おうと思ってます。
「僕の方から振った」と言えば、「中村静香を振るほどの男」ということで、もう一回ぐらいヤらせてくれそうですが、そんな卑怯な嘘はもうつかないでおこうと思ってます。

 

唯一の懸念は、万が一カナがこのコラムを読んで、詐欺罪で訴えてきたりしないか、それだけが心配です。
ただ、仮に裁判になったとしたら、日本一面白いヤリマン裁判になるかもしれませんね。

 

そして今回、小説家というメッキは完全に剥がれ、いつも通りの通常運転に戻りました。
大人気アイドルを使ってまで原稿料を稼ごうとするこの下衆を、皆様今後とも温かく見守ってやってください。

 

最後に、全国の同士達にこれだけは言いたい。

 

童貞でも知恵を絞ればセックスできるんだ!

 

来月は淡い初恋の思い出でも書いて、しっかりとバランスを取ろうと思います。