「県内で人気も、“千葉都民”は東京志向 船橋」【連載】第7話「住みたい街」の正体をあばく! 『首都圏「街」格差』

東京

2017/5/4

 毎年注目される、不動産情報サイトや雑誌の特集で発表される「住みたい街ランキング」。そこに登場する「街」は本当に住み良いところなのか? 人気はずっと続くのか? これからランクアップする「穴場」はどこか? そんな「住みたい街」の正体をあばく文庫本『首都圏「街」格差』が好評発売中! いま首都圏で話題となっている様々な「街」をテーマ別に選定し、現地での観測調査と統計資料を使いながら実態をあぶり出していきます。

 

千葉県民の支持ナンバー1

 首都圏の「住みたい街ランキング」で1位にランクインするのは、吉祥寺や恵比寿といった、いわばおなじみの街。しかし、千葉県民が選ぶ「住みたい街ランキング」で堂々1位にあがるのは船橋である。千葉県民は県外の街よりも県内の街を「住みたい街」にあげる。船橋以外にも、県庁所在地の千葉や津田沼といった街が上位に入っている。

 千葉県は広い。房総半島の中部や南部、外房のあたりになると、東京への通勤者はそれほど多くはない。買い物もほぼ地元で済ませてしまう。そんな彼らが憧れる都会は、県内の都市である船橋や千葉。そういった地元意識の強い県民票が集まり、都内の人気の街を押さえて船橋が1位になるのだろう。

 しかし、当の船橋など東京に隣接したエリアで暮らす人々の目線は、千葉県に背を向け東京を見つめている。都心への通勤に便利だからという理由で住む「千葉都民」の比率が圧倒的に高い場所だ。
 

船橋の実像は買い物タウン

 それにしても船橋が「住宅街」というのは、共通の認識となっているのだろうか?

 船橋駅から南東の方向に進み、京葉道路の高架を過ぎると広大な埋立地。そこには船橋競馬場がある。またかつては、12万坪の敷地に温泉や各種スポーツ施設、遊園地などを併設した「船橋ヘルスセンター」もあった。競馬を中心とするギャンブル施設にヘルスセンターで連日開催される歌謡ショーなどのアトラクション。とても昭和っぽい。

 開業当時の船橋ヘルスセンターは日本最大級の規模を誇る総合レジャーランドだった。テレビCMもさかんに放送され、船橋の象徴的存在として一世を風靡した時期もある。だが、温泉の枯渇と入場者数の激減により、昭和52年(1977)に廃業。その跡地には現在「ららぽーとTOKYO BAY」が建っている。

 また、ららぽーとの近隣には外資系の不動産会社が運営するショッピングセンターの「ビビット南船橋」、スウェーデン発祥の家具量販店「IKEA」などもある。量販店の巨大店舗が林立するさまは、なかなか圧巻。週末ともなれば京葉道路や東関東自動車道を使って、首都圏各地から買い物客の車が押し寄せてくる。それが、現在の船橋の実像だ。

 

「千葉都民」の理想型

 ららぽーとの周辺は船橋港親水公園として整備されている。公園の対岸に見える船橋港は南極観測船「しらせ」が寄港したこともあり、充実した港湾施設をもつ大型港だ。波止場に停泊する船も多い。その先には東京湾の眺めも広がっている。埋立地に近い河口には幾隻もの漁船や小舟が係留され、漁師町の風情がまだ色濃く残っている。

 船橋では現在も底引き網や巻き網漁で年間2,000トン以上の魚介類が水揚げされ、海苔養殖もさかんに行われている。依然として東京湾内で有数の漁港なのだ。早朝に港へ行けば、出港する漁船を見られるはずだ。だが、大半の「千葉都民」は深い眠りの中で気がつかないだろう。

 駅前まで戻ると湿気をはらんだ海風も、ここまでは吹いてこない。徒歩でも十分に行き来できる場所なのだが、その距離以上に海は遠くに感じられる。総武線の線路を越えて船橋駅北口の側へ出ると、海はまたさらに遠のく。また、整然と区画整理された広い道沿いには、規模の大きなマンションが建っている。そこに“昭和の残り香”は感じられない。

 しかし、「千葉都民」にとって、それはどうでもいいことなのかもしれない。駅から徒歩数分圏内で便利、買い物環境も抜群、都心へのアクセスもいい。彼らのライフスタイルの理想型が船橋にはある。