まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第3回 ソーシャルリーディングって何?

2012/2/17

    電子書籍にまつわる疑問・質問を、電子書籍・ITに詳しいまつもとあつし先生がわかりやすく回答! 教えて、まつもと先生!



    まつもと :ついに来るべき時が来たけど、しかし・・・(ぶつぶつ)

    ちば :どうしたんですか、いつにも増して暗いじゃないですか、まつもとさん。

    まつもと :そんなことはないです。しかもその言い方はいつも暗いってことですか?

    ちば :い、いえ・・・、で、どうしたんでしょう?

    まつもと いや、週末この原稿を書いているときに急に出てきたニュース(2月11日深夜2時)と、それへの反応を見て、思わず考え込んでしまっていました。

    ちば :(やっぱ暗い・・・)あ、日経新聞の「米アマゾン、日本で電子書籍端末発売 ドコモから回線」っていう記事ですね。アマゾンの電子書籍端末だから・・・キンドルがいよいよ日本でも発売されるってことですよね。でも何か考え込むことがありましたっけ?


    ※米アマゾン、日本で電子書籍端末 ドコモから回線 :日本経済新聞

    Kindle上陸?についてのいくつかの誤解

    まつもと :Twitterを眺めていると、「良かった!」という声をよく見かけるんですが、いくつか誤解とか勘違いがあるかなと。

    ちば :というと?

    まつもと :まず、ドコモから回線という部分ですが、これを「3G通信が無料になる」と報じたBLOGニュースサイトがありました。たしかにKindleの特徴はウィスパーネットと呼ばれる、購入した電子書籍のダウンロードが3G回線経由でも無料で行われる仕組みです。ただ、これはアマゾンがその分のコストを本の販売価格の中に織り込んであるからです。インターネットの閲覧など、別の用途まで通信量が無料になる、というのはちょっと期待しすぎですね。

    ちば :なんだ・・・。

    まつもと :ちょうど今、スマートフォンの急激な普及で通信量の増加に苦しむ通信会社の間で、パケット定額制を見直そうという動きが海外でも拡がっていますので、そういう話から連想されたのかも知れませんが、そこはそんなに甘くない。あと、これは本体価格の話とも絡みますが、ソニーリーダーと互角な部分も実際多いかなと思ってます。主な部分を抜き出して比較してみましょう。


    【PC Watch】 Amazon「Kindle Touch」試用レポート ~タッチ操作に対応したE Ink搭載Kindleの最新モデルを元に作成。

    ちば :価格以外は同じように見えますね。

    まつもと :そうなんですよね。価格はソニーさんの努力にも期待したいところです。通信機能がない、5インチ版のモデルは実売価格が1万円を切っているものもありますし・・・。

    ところで、業界関係者の間では、果たして日本版Kindleがどのくらい作品をラインナップできるのか疑問の声も上がってます。ちばさんも出版社の人なんだから、なにか知ってるんじゃないんですか?(じろり)

    ちば :(口を押さえながら)ノーコメントです・・・。

    まつもと :・・・まあ、みなさんそんな感じですね(笑)。新聞報道では複数の出版社からなる「出版デジタル機構(仮称)」が、アマゾンとの一括交渉の窓口になる、とも報じられましたが、そこは結構違和感あります。公開されている設立趣旨などを見ても、あくまでデジタル流通のためのインフラの整備や、データ管理業務の代行などを目的としていて、交渉などのビジネスの窓口はそれぞれの出版社が行う、と読めます。

    僕は日経新聞のKindleについての一連の報道は、アマゾンからの情報を大きく報じていて、いわば、結果として情報戦の一端を担ってしまっている、つまり交渉している出版社に対する「揺さぶり」になってしまっているように感じます。これは報道として果たしてどうなんだろう、と疑問を感じています。

    ちば :あー・・・それで機嫌悪かったんですね。

    結局電子書籍の魅力って何だろう?

    まつもと :とはいえ、やはりKindleに日本の読者も多くの期待を寄せているのも事実です。Googleトレンドという、キーワード検索のボリュームや推移を見ることをできるサービスにもそれがよく現れています。


    Google トレンド: 電子書籍, kindle

    直近12ヶ月の国内での状況を見てみましょう。青い線が「電子書籍」、赤い線が「Kindle」の検索数ですが、ここに片仮名の「キンドル」を加えて捉えると、そこへの関心が電子書籍に関連した検索の中でも大きなウェイトを占めることが分かります。

    ちば :「D」というところがずば抜けて高いですね。あとお尻の方が上がっているのは日経の報道を受けて、かな・・・?

    まつもと :日本では発売が未定の、タブレット型端末「Kindle Fire」が発表されたタイミングですね。iPadの対抗馬とも呼ばれ、199ドルという価格や7インチという持ち運びやすいサイズなどで人気を集めています。

    ただ、このKindle Fireへの関心も見ても、やはり日本での受け止められ方や期待って、いわゆる「ガジェット」としての電子書籍端末Kindleに向けられていると思うんですよね。

    ちば というと?

    まつもと :この連載の第一回で日本には文庫という魅力的なパッケージがあるので、電子書籍はそれがライバルになるという話をしました。そして、価格では新古書店という別の選択肢もある。

    ちば :そうなんですよね。いつも読みたい本を1冊だけカバンに入れておくなら、充電とか気にしなくていい文庫がやっぱり楽・・・。それもブックオフなんかで100円から買えるし・・・。

    まつもと :となると、日本における電子書籍の魅力ってなんだろうって事を改めて考えざるを得ないんです。価格は前回整理したように、いまの本の作られ方だとなかなか下がることは難しいだろう、と思えますし。

    ちば :電子書籍が紙の本より安いことが売りのKindleでも?

    まつもと :すでにApp Storeで85円などで売られているような既刊の電子版であれば、あり得るでしょうけど、いきなり多数の売れ筋の本が、割安でラインナップされる、というのは考えにくいですね。

    そして、いま自宅の本棚のスペースを圧縮するために、本の「自炊」をする人が増えていますが、ラインナップが豊富でなければ、「自炊の代わりに電子書籍を買う」という動きにはつながらないでしょう。

    ちば :うーん・・・、そうなると「ダ・ヴィンチ電子ナビ」の編集部の一員としては、そもそも電子書籍の魅力ってなんだっけ?って思ってしまいます。

    まつもと :もちろん、時間が解決する問題もあるとは思います。ラインナップも当然増えていくでしょうし、日本版Kindleの開始を受けていろんな変化が加速していくはずです。ただ、ぼくが注目したいのは1回目でも少しだけ触れた「ソーシャルリーディング」という新しい本の読まれ方、と電子書籍の関係ですね。

    ちば :ソーシャルリーディング?