第33回『チェケラに翻弄された男たち』/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2018/1/15

2018年、戌年。

 

皆様、新年明けましておめでとうございます。

 

2018年のお正月、楽しく過ごせましたでしょうか?
僕はといえば、3年先輩の親友、BKBことバイク川崎バイクさんとの、毎年恒例の初詣を済ませ、今年もメンタル童貞としての絆だけを深めるお正月を過ごさせていただきました。

 

この恒例行事のきっかけとなったのが、忘れもしない2年前、2016年の元旦です。
その日僕らは新宿にある花園神社に行き、神様の前で手を合わせ、

 

「今年こそ多くのエッチな女性達と出会えますように」

 

と、少ないお賽銭で厚かましいお願いをしました。

 

B「お願いした後にちゃんと名前とか住所も神様に言ったか?」

 

僕「いやそんなん言わんでいいでしょ?」

 

B「神様もどこの誰かも分からん奴の願い叶えられへんから言わなあかんねんで? てゆうかこれ結構有名な話やで?」

 

僕「それは神様のことなめすぎっすわ。神様やねんからそれぐらい余裕で分かりますよ?」

 

B「は? なめてないし? あっ、そうやって決めつける感じの奴神様めっちゃ嫌いやけどな?」

 

僕「けど僕名前も住所も言ってないんでセーフっすわ。バイクさん神様なめてることバレましたよ?」

 

B「いやなめてないから! てゆうか神様お前みたいな奴ほんま嫌いやと思うで!」

 

僕「そうやって決めつけてくる奴のこともね!」

 

30オーバーのチビの出っ歯二人による、とてつもなく不毛な戯れ。
その後おみくじを引きに行くと、全く同じ番号を引くという気色悪さを見せる30オーバーのチビの出っ歯二人。
しかも大吉。
書いてある内容も全て一緒の大吉。
側から見れば気色悪い事この上ない状況ですが、なぜか終始笑顔の二人。

 

B「てつ!(※バイクさんは僕のことを『てつ』と呼びます)『待ち人』のとこ“早めに来る”って書いてるぞ!」

 

てつ「マジすか!? てことはもうすでにこの神社の中にヤリマン二人組がいる可能性もありますね!」

 

B「新宿の神社やしな? これ絶対いるよな!」

 

神様への冒涜を神社内で繰り広げるチビ出っ歯共。

 

すると、バイクさんの携帯に、芸能界に突如として現れ、ずば抜けた身体能力と、『動物の倒し方』という誰も見たことのない芸で、芸能界の階段を5段飛ばしぐらいで登っていった男、武井壮さんから連絡がありました。

 

「オレの家でみんなで集まるから来ないか?」

 

待ち人ってもしかして武井壮のことか?
筋肉隆々の雄やぞ?

 

という不安に駆られながらも、激売れ芸能人の家で新年を過ごせるなんてチャンスは滅多にありません。
しかも昔このコラムでも書いたように、『いききった芸能人には特殊な性癖がある』という説も確かめてみたい。
もしかしたら、ナイスバディの金髪女性達が、当たり前のように素っ裸で過ごしてたりするかもしれません。

僕達は最高のおせち料理を堪能すべく、武井さんの家に向かいました。

 

着いたのは、成功者のみが住むことを許されるであろう都内の高層マンション。
同時にここで何が行われようが、世間には一切届かないミッドナイトアブノーマルマンション。

 

あまりの高級感に、バイクさんが全く別の部屋のインターホンを押すというプチハプニングを経て、とうとうチビ出っ歯二人組が武井さんの家の敷居を跨ぎました。
中に入ると、とてつもなく広いリビングが姿を現しましたが、そこには誰もいませんでした。

 

あれ? あれれ? 素っ裸の金髪女性達は?

 

僕達はくまなく部屋をチェックしましたが、そんな女性達はどこにもいませんでした。
時折インターホンが鳴っても、テレビ局の偉い男の人が来たり、ダンス界の凄い男の人が来るだけで、素っ裸金髪女性軍団は一向に現れません。
男5人でピザを取り、ただただ談笑しながら夜が深まっていきます。

 

こんなはずじゃなかったと思いつつも、偉いのに全く気取った感じを出さないテレビ局の人と、凄いのに驚くほど低姿勢なダンサーの人、そしてただただ人の良い売れっ子芸能人の武井さんという、それぞれの分野で成功している人達の話を聞いてるうちに、素っ裸金髪女性軍団のことなんて最早どうでもよくなってきました。

 

そして、武井さんがまだ初詣を済ましていないということで、近くの神社に5人でお参りに行きました。

 

すると、帰り際に武井さんが僕とバイクさんにお年玉の入ったポチ袋をくれました。
すぐさま中を見るゲス出っ歯二人組。
中には1万円札が入っていました。

 

「マジすか!? いいんすか!?」

 

はしゃぐゲス出っ歯達。

 

「後輩になんか美味いもんでも奢ったって」

 

粋な台詞で照れ隠しをする武井さん。

 

高級マンション、気さくな人柄、お年玉で1万円もくれる粋な姿。
武井さんの特殊な性癖が“そっち”だったら間違いなく抱かれていたと思います。
そして、芸能界の大成功者から貰ったお年玉には、一万円の何倍もの価値があると思った僕は言いました。

 

「この一万円札は御守りとして、一年間財布の中に入れておきます!」

 

なんとなく聞こえはいいが、“これで後輩になんか奢ったって”と言われたそばから、自分のご利益の為に利用するという旨を、高らかに宣言する小物芸人。

 

「あっ、てつお前! オレもそのつもりやったし!」

 

“なんかそれええやん”と思い、すぐに乗っかる小型バイク。
それもそのはず、武井壮という偉大な成功者の家を見て、観測史上最大級の

 

「売れたい!!!」

 

が僕たち二人を襲っていたのです。

 

「一年後には高層マンションの最上階に住み、素っ裸金髪女性達と抱き合いながらバンジージャンプするんや!!!」

 

そう誓った僕たち二人は、武井さんの家を後にしました。

 

帰り際にダンサーの人が、

「車で来てるんでどこかまで送りましょうか?」

と言ってくれたので、お言葉に甘え、渋谷まで送ってもらうことにしました。

感謝しながら乗り込んだのは、これまた成功者の証、ベンツのゲレンデ。

 

「一年後にはこのベンツをマジックミラー号に改造して、ハイウェイをぶっ飛ばしながら金髪女性達とやりたい放題や!!!」

 

また売れたい欲に火を点けられる僕たち。

ベンツの後部座席で、シートのふかふかさを堪能している僕たち二人に、ダンサーが思いもよらぬ言葉を投げかけて来ました。

 

「お二人渋谷だったら、もしまだ時間大丈夫なら、今から“チェケラ”します?」

 

はい?

 

チェケラ??

 

チェケラする??

 

渋谷で今からチェケラすんの??

 

は?

 

急に異国の地に連れて来られたような感覚に陥る出っ歯二人。
しかし、全く事態を飲み込めないながらも、
『渋谷』『ダンサー』『ベンツ』
という少ないヒントを頼りに僕たちは答えました。

 

「チェケラします!」

 

チェケラが何を意味するのかは全く分からない。
もしかしたらとてつもなくヤバイ提案をされているのかもしれない。
しかし、昔誰かが言っていたような気がする。

 

『チェケラせずに後悔するならチェケラして後悔しろ』

 

僕たちはチェケラすることを選びました。

 

到着したのは、渋谷のど真ん中にあるクラブでした。

 

チェケラの聖地、クラブ。

 

クラブなんて人生で2回ぐらいしか行ったことがなく、しかももちろん良い思い出など一切ありません。

そんな自分が果たしてチェケラなんてできるのか?

そんな僕たちの不安をかき消すように、受付を顔パスでくぐるダンサー。
しかも、

 

「ここ僕が一番お世話になってるクラブなんで、飲み物とか何でも好きなもの頼んでくださいね!」

 

むちゃくちゃ頼りになるコーディネーター。

チェケラ出来るような気がしてきた二人。

 

中に入ると、元旦にも関わらず大勢のエロそうな男女でごった返していました。
2016年現在の日本の正月。
除夜の鐘など全く聞こえてこず、大音量の『セックス・オン・ザ・ビーチ』が鳴り響くダンスフロア。

 

「けしからん光景っすねえ」

 

「ほんまやで」

 

と言いながらもレッドブルを片手に、2016年初チェケラに向けて心躍らす童貞二人。

 

「ちょっとフロア回りますか?」

 

チェケラ兄さんが童貞二人を先導してくれます。
堂々とクラブのフロアを歩き出すチェケラ兄さん。
その後ろをソワソワしながらひっついて歩くチェケラ予備軍。

 

「あっ! ◯◯さんだ! 握手してください!」

 

流石ダンス界の大物、チェケ兄。
歩を進める度に色んな人に声をかけられます。
少し体を揺らしながら、フロア内を縦横無尽に歩くチェケ兄。
ぎこちなく体を揺らしながら、絶対にはぐれないように必死に付いていくチェケ坊。
チェケ兄の頼もしい背中を眺めながら歩いてるうちに、チェケ坊二人にとある疑問が浮かんできました。

 

あれ? ずっと歩いてはいるけど、こっからの展開ってどんな感じ?
女の子にめっちゃ声掛けられるけど、ちょろっとだけ喋っては歩いて、喋ってはまた歩いての繰り返しなんすけど?
なんとなくのイメージやけど、声掛けられた女の子達とVIPルームとか行ってチェケチェケする感じじゃないの?

 

更にチェケ兄の行動に疑問を抱く僕たち。

 

あれ? チェケ兄? なんか踊り多めになってきてない?
あれ? 完全にもう踊ってるだけじゃない?
チェケ兄? ねえ? チェケ兄て?
あっ、ステップ踏みまくってる! ほんでやっぱ踊りうまっ!

 

ダンサーの血が騒いだのか、僕らのことを忘れ踊り狂うチェケ兄。

 

とり残された僕たちは覚悟を決め、親元を離れ二人でフロアを歩くことにしました。
他力本願のチェケラなんてしてもしょうがない、チェケラは自分で引き寄せるものなんだ、と自分たちに言い聞かせ歩く二人。

 

しかし、普段一緒にいる時は、割と顔を指されるバイクさんも、クラブという場所においては一切声を掛けられません。

 

次第に募っていくバイクさんのイライラ。
全然顔を指されないバイクさんに対して募る僕のイライラ。

 

フロアの至るところで行われているどエロ男女達のベロチュー。
他人のベロチューを目の当たりにし、イラつきながらも完全に勃起している二人組童貞ダンスユニット。

 

最初は一応体を揺らしながら歩いていましたが、気がつくと完全に立ち止まり、他人のベロチューをガン見してる二人組童貞ダンスユニット。

 

イライラとムラムラのビートだけがどんどんと加速し、ミラーボールに照らされるギンギンのイチモツ。
満員の筈のダンスフロアで奇跡的に余るポール2本。

 

イライラとムラムラがピークに達した僕たちは叫びました。

 

「全然チェケラでけへんやんけ!!!」

 

ダサすぎる叫び。
そんなダサすぎる叫びも、大音量のクラブミュージックが一瞬で掻き消していきます。

 

「てつ! もう出よ! ここおってもチェケラでけへんわ! 出よ!」

 

とうとう痺れを切らしたバイクさんが僕にそう言ってきました。

 

「そうしましょ! こんなとこおってもダンスうまなるだけですわ!」

 

僕もイライラからか、検討違いの言葉を吐き、二人でクラブを出ることにしました。

 

敗北感にまみれながら元旦の渋谷で佇む二人。

喫煙所で缶コーヒーを飲みながらの反省会。

 

「オレやっぱああいうとこ嫌いやわ」

 

「僕もです。そもそもあんなでかい音で音楽かける必要あるんすかね?」

 

「絶対ないよ。ほんでなんでみんなあんなに人が多いとこ行きたがるん?」

 

「全く分かんないっす。アホなんじゃないすか?」

 

羞恥心のかけらもなく負け惜しみを言い合う二人の脳裏には、ベロチューの映像しか映っていませんでした。
いくら負け惜しみを言おうが、あちこちで行われていたベロチューの映像が頭にこびりついて離れません。

 

「風俗でも行きますか?」

 

元旦の夜に言う台詞ではけしてありませんが、この際恥ずかしさついでにバイクさんに提案してみました。

 

「めっちゃ行きたい……」

 

まさかの便乗。

 

「けど風俗奢ってやれる金なんてないで? むしろオレ自分の分も危ういんちゃうかな?」

 

そう言われた僕は、絶対に思い出してはいけない事実を思い出しました。

 

「武井さんに貰ったお年玉ありますけどね?」

 

数時間前に“御守りとして一年間財布の中に入れておく”と宣言した一万円札。
決して開けてはいけないパンドラの箱を開けようとする僕。
しかし言ったものの、今回ばかりは流石に軽蔑されるかもしれないという不安が襲ってきました。それどころか今日でこの童貞ダンスユニットも解散なのではないかと危惧していた僕にたいしての親友の答えは至ってシンプルでした。

 

「チェケラ!!」

 

カウントダウンTVを彷彿とさせるかのような、渾身のチェケラ。
童貞ダンスユニット、存続。

 

B「待ち人ほんまに早めに来たな!」

 

僕「いや、1万円払って来る待ち人てなんやねん!」

 

B「オレら絶対今年も売れへんな!」

 

僕「僕は売れますけどね!大吉なんで!」

 

B「いやオレもや!」

 

渋谷に転がるうんこ以下の戯れ。

僕たち二人はクラブの誰よりも体を揺らしながら、元旦の風俗街に消えて行きましたとさ。

 

そして今年の元旦も武井さんは僕らをご飯に連れて行ってくれ、帰り際にしっかりとお年玉をくれました。
以上、武井壮という男がいかに偉大かというお話でした。