まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第4回 ニコニコ静画とソーシャルリーディング
更新日:2013/8/14
ソーシャル・リーディングとの位置づけは?
ちば :この流れるコメントが、前回、まつもとさんに色々話してもらった「ソーシャル・リーディング」に通じるものなんでしょうか?
伴 :うーん・・・。なんかソーシャル・リーディングっていうと、ちょっと賢そうな感じがしますよね。でも、ちょっとニコニコ静画(電子書籍)のそれとは微妙に違うかもしれない・・・。
まつもと :あらら。
ちば :おや・・・。
伴 :ニコニコ生放送なんかを見てもらうと分かるんですが、そこで流れるコメントって、「ソーシャル・リーディング」からイメージされる、賢いコメントとはまた違うんですよね。まさに先ほど言ったような「感情の共有」――頭、脳みそで考えて出てくる言葉じゃなくて、もっと体に近い、いわば脊髄で反応してものがそのまま現れてきている、という風にイメージしてもらうと良いかもしれません。
そういった「感情」の共有だからこそ、文字が画面を横に「流れる」というというスタイルが受け入れられているんだろうなと思ってます。揮発性で、長期的に残っていくものじゃないんですね。
で、もう一個、本の中身を範囲指定してコメントをそこに書き込むというものは、強いて言えば、まつもとさんが仰る「ソーシャル・リーディング」を体現したかったもの、と言えるかも知れません。
まつもと :キンドルのアンダーラインとかコメントの共有とそちらは近いですもんね。
伴 :そうですね。ただ、そちらの方は、まだ正直模索中でして・・・(笑)。ユーザーさんの使い方を見ていても、まだどう使って良いのか決まっていないのかなと感じています。僕としては感情の表現の延長にあるような使われ方もあっても良いと思いますし、議論を交えるようなちょっとアカデミックな場として活用してもらっても良いと思っているんですが。
いまは、まだ僕たちも使い方を特定せずに、こちらはまあちょっと使ってみてください、という感じですね。
まつもと :実際のところどうですか?
伴 :マンガだと、やっぱりロジカルな、賢い感じのコメントはなかなか付かないんですが、文字ベースの書籍だとときどき「お!」と思うものが付いたりし始めていますね。実際、作ってみての反省なのですが、いまは読書の妨げにならないように、画面をタップしている間だけコメントが表示されるので、ユーザーさんがなかなかその存在に気がつかない、という面はあると思います。ここは今後改良していきたいポイントです。
ちば :そこは難しいところですね。邪魔になったら嫌だけど、でもニコニコ動画みたいに楽しむには最初から表示されていて欲しいかなあ・・・。うーん。
伴 :正直かなり議論はありました(笑)。詳しくはまだ言えませんが。コメントが常に流れていても、読書の邪魔にならない方法はなんだろう、という方向をいま模索してます。
まつもと :なるほど、なるほど。とはいえ、多くのユーザー数や、映像コンテンツを背景に、Kindleにもない「感情の共有」というところからソーシャル・リーディング「的な」取り組みをされているというのは、やっぱり興味深いです。
作品はどうやって集めてるの?
まつもと :ついでにお伺いしたいのが、作品の集め方ですね。電子書籍の普及が進まない理由に、読みたい作品がなんでも有るわけでは無い、という点が挙げられたりするのですが、ニコニコ静画(電子書籍)ではどんな取り組みをしていますか?
伴 :ダ・ヴィンチさんとの「次にくるマンガ」もそうですが、いろんな出版社さんとの取り組みを通じて作品を集めている段階ですね。取り敢えずプロモーションとして作品を出しませんか、というお声がけをしています。
いま注目して頂いているのが、芳文社の「まんがタイムきらら」さんとご一緒している展開芳文社 まんがタイムきらら100号記念配信ですね。一〇〇号記念セレクションとして『けいおん!』をはじめとした人気作品をニコニコ静画で楽しむことができます。
ちば :おー、『けいおん!』の1話とかアンソロジーも読めるんですね。出版社さん、あるいは著者さんによっては、コメントが付くことに拒絶反応があったりはしないんですか?
伴 :最近は、「ニコニコ」とはそういうものというご理解が拡がってきているので、だいぶ自然に受け止めて頂けているかなという感じですね。
(C)かきふらい/芳文社
まだ何かキャンペーンの中でユーザーコメントを使った取り組みというのはないのですが、ダ・ヴィンチさんとはニコニコ大百科というWikipedia的なサービスとの連携を図っています。俺的「次にくるマンガ」=「もっと評価されるべきマンガ」をそちらに投稿してもらえる場所として使ってもらうという感じですね。
先ほどお話ししたように、現状コメントは揮発性の高い感情を表現したものが中心ですので、情報を蓄積していく場として成立しているニコニコ大百科をその場所に選んだというわけです。
まつもと ・ちば :なるほどー。
伴 :とはいえ、やはりコメントがニコニコ動画/静画を形づけるものですから、今後もそちらの方向は強化していきたいと思います。
また、ニコニコ静画から雑誌(角川書店「4コマなのエース」)や単行本化へ展開するという作品も生まれてきていますし、雑誌連載中の作品をニコニコ静画へという展開も出てきています。ニコニコ動画では、大塚英志さんによる「未来まんが研究所」という番組未来まんが研究所 – ニコニコチャンネルも好評配信中で、マンガの作り方を学ぶこともできます。
今日お話ししたような電子書籍の取り組みを通じて、出版社さんとの連携も強まってきていますので、ご期待ください!
まつもと :ラストやマンガの投稿、動画の原作としての小説・マンガの紹介、オリジナルマンガの商業展開、などいろんな取り組みをやっておられて、そこでコメント――現状はソーシャル・リーディングとはまた異なった性格を持つものですが――が、ニコニコ動画ユーザーとそれらをつなぐ重要な役割を果たしているということがよくわかりました。
ちば :ありがとうございました!!
まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍では、電子書籍にまつわる質問を募集しています。ふだん感じている疑問、どうしても知りたい質問がある方は、ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部までメールください。
■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp
イラスト=みずたまりこ
「まつもとあつしの電子書籍最前線」 バックナンバー
■第1回「ダイヤモンド社の電子書籍作り」(前編)(後編)
■第2回「赤松健が考える電子コミックの未来」(前編)(後編)
■第3回「村上龍が描く電子書籍の未来とは?」(前編)(後編)
■第4回「電子本棚『ブクログ』と電子出版『パブー』からみる新しい読書の形」(前編)(後編)
■第5回「電子出版をゲリラ戦で勝ち抜くアドベンチャー社」(前編)(後編)
■第6回「電子書籍は読書の未来を変える?」(前編)(後編)
■第7回「ソニー”Reader”が本好きに支持される理由」(前編)(後編)
■第8回「ミリオンセラー『スティーブ・ジョブズ』 はこうして生まれた」
■第9回「2011年、電子書籍は進化したのか」