第35回『合コンを捨てた男の過酷すぎる個人戦』/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2018/3/15

先日、今更ながら過去の自分のコラムを読み返して気づいたことがあります。

 

オレ合コンしかしてへんやん?

 

何を今更言ってんの?
こっちはずっとそう思ってたよ?
てゆうかこれそういうコラムだろ?
もはやコラムとは名ばかりのただのてめえらの日々の合コン日記だろ?

 

と仰る方もおられると思います。
確かに間違ってはいません。

 

問題は合コンをすることではなく、
合コン“しか”していないという事実です。

 

メンタル童貞ゆえに、常に誰かの手を借り、先輩後輩の手助けのもと、何とかセックスへこぎつけようとする性的弱者。
自分で読んでて恥ずかしくなるぐらいの他力本願っぷり。

この数年間僕のことを、群れの中でしかイキがれない、か弱き仔羊と思っていた方も多いと思います。

その方々の信頼を取り戻すべく、たった一人で女性に立ち向かい、下衆を全うした夜の話を書こうと思います。

 

遡ること1年半ほど前、僕はM-1グランプリ2016の決勝進出者が発表された夜に、自身のInstagramにとある投稿をしました。

 

『M-1グランプリ2016の決勝に進出させていただきましたー!バッチバチにいてこましたるさかいに皆さん観てください!ほんで誰かご褒美に風俗奢ってください!!』

 

M-1の決勝進出の報告を、大阪人でも使わないゴリゴリの河内弁をあえて織り交ぜ、最後に「風俗奢って」という言葉をボケっぽく付け加えながらも、どこかで
「この投稿を見た先輩とかスタッフさんがほんまに風俗奢ってくれへんかな?」
のメッセージを込めた巧みなゲス投稿。

 

先輩やスタッフさんからの、

 

「お祝いに風俗奢ったろか?」

 

の連絡を待つと同時に、過去に連絡先は交換できたものの、うんともすんともヤらせてくれなかった女子達からの、

 

「森田さんってこんなに凄い人だったんですね! 是非抱いてください!」

 

という逆輸入セックスの連絡も待つ事にしました。

するとその翌日、予想だにしない連絡がInstagramのダイレクトメッセージに飛び込んできました。

 

「M-1決勝進出おめでとうございます! 私は都内でOLをしてる菜々って言います。森田さんのコラムが大好きで毎月読ませてもらってます。私でよければ是非風俗奢らせてください(>_<)」

 

まさかの僕の思惑のちょうど間をとったようなメッセージに、なんとなくテレビデオを思い出しました。

 

普通のOLが風俗奢ってくれるってどういうことや??

 

と、一瞬思いましたが、すぐにそのカラクリに気付きました。

そうか! 「コラムが大好き」と言ってる時点で、ほぼほぼヤらせてくれる女の子ってことか!
でも「ヤらせてあげますよ」というのもあまりにも直接的で無粋やし、簡単にヤリマンだと思われたくないという心理が働いた結果、「風俗を奢らせてください」という何とも粋な名目でオレにコンタクトを取ってきたんやな!
言うなればこれはプロレスや!
菜々ちゃんがオレに仕掛けてきたプロレスなんや!
入り口は風俗やけど最終ゴールはセックスってあらかじめちゃんと決まってる、しっかりとしたエンターテイメントや!

 

全世界のプロレスファンを敵に回す思想に加えて、果てしなく自分よりの解釈を見せるポジティブ下衆。

 

まさにプロのゲス。

 

そして、すぐさま彼女の投稿ページに飛ぶプロゲスラー。
こういう時の下衆は、コンピューターウィルスよりもネット上を縦横無尽に動き回ります。

そして彼女の投稿している写真を確認するプロゲスラー。

 

か、かわいい…
こんなかわいい子とほんまに一戦交えれんのか…?

 

どこかに危ない要素がないか? ひょっとしたら何か落とし穴があるのではないか? と投稿してる写真を1枚1枚丁寧に見ていくプロゲスラー。

消費者金融の借り入れ審査よりも遥かに時間をかけ、じっくりと審査しました。

しかし、特に危なそうな要素もなく、普通のOLっぽい当たり障りのない投稿の数々と、ただただ可愛いルックスに、満額融資することを決めました。

可愛い女子とのセックスに思いを馳せているうちに、僕のナニワチン融道は萬田ギン次郎でした。

 

一見の読者なら間違いなくここで読むのをやめそうな中、僕は彼女のメッセージに返信することを決めました。

とうとう性紀の一戦のゴングが鳴り響きます。
ここからは全てのやり取りがプロレスです。

 

「メッセージありがとうございます! 女性に風俗奢ってもらうのは流石に下衆過ぎるので、良かったら今度飲みませんか?」

 

まずは手始めにチョップを打ち込む僕。

 

「え!? いいんですか!? 是非飲みたいです!」

 

それを胸で受け止める菜々。

 

「いつが空いてますか?」

 

菜々をロープに投げる僕。

 

「私はいつでも大丈夫ですよ!」

 

ロープの反動でこちらに前進してくる菜々。

 

「じゃあ◯月◯日とかどうですか?」

 

ラリアットをかます僕。

 

「いいですよー!」

 

ラリアットを浴びながらもしっかりと受け身を取る菜々。

 

「ちなみに場所は五反田でもいいですか?」

 

自分のコーナー付近へ追い詰め、トップロープからムーンサルトプレスを決めに行く僕。

 

「全然大丈夫ですよー!」

 

相手の技をしっかりと受け止め、マットに倒れ込む菜々。
まるで台本があるかのようにテンポ良く進む試合。

そして数日後、僕たちの試合はいよいよ場外戦に突入しました。

 

一つ不安要素があるとすれば、この試合が団体戦になることでした。
なぜなら、第24回で書いた小説『マグロ』のように、「コラムが好き」と言って近づいてきたくせに、見事に後輩に抱かれていたあの千春のことが頭を過ぎったからです。

 

合コンになることだけは避けなければならない。

 

その僕の不安も、たった一人で五反田に現れた菜々が見事に解消してくれました。
これで負ける要素は何もなくなりました。

 

僕たちは五反田の居酒屋に入りました。
初対面ではあるものの、凄く気さくに喋る僕たち。
20代後半とはいえ、綺麗な白い肌と程よい色気を醸し出す菜々。
彼女を楽しませるべく、沢山の芸能界の汚れたゴシップを一般人にベラベラと喋る下衆。

その一つ一つのゴシップに
「それほんとですかー?笑」
と言いながら笑ってくれる菜々。

徐々に下ネタを織り交ぜつつ、彼女のエロスペックを確認する僕。
お酒も進み、頬を薄っすら赤く染めた菜々の口もとが緩みます。
「私が上司のセフレをやってた時なんですけどね…」
しっかりとエロいエピソードを菜々の口から引き出す下衆。

 

めちゃくちゃええ感じで進んでるよ!
普段敗北しか見せてない屋敷とバイクさんにこの試合を見せつけてやりたいわ!
てゆうかあいつらとおるから毎回負けてるんちゃう?
もしかしたらオレは個人戦の方が向いてんのかもな?

 

戦友である彼らからの独立も視野に入れ始める下衆。
そして、あっという間に2時間が過ぎ、ラストオーダーの時間が来ました。
性紀の一戦と銘打たれたこの試合も佳境に入り、僕は3カウントを取りに行くべく、トップロープに登り、最後の大技を仕掛けました。

 

「僕の家この近くなんですが、来ます?」

 

菜々の上に覆い被さり、レフェリーがカウントを刻みます。

 

1、2、

 

「いえ、今日は帰ります」

 

一瞬、え…?
と思いましたが、流石に一回の大技では決めさせてくれない菜々。
これぞプロレスの醍醐味と言っても過言ではないでしょう。
僕は再びトップロープに登ります。

 

「よかったら僕の家で飲み直しません?」

 

再びレフェリーがカウントを刻みます。

 

1、2、

 

「うーん、今日はやっぱり帰ります」

 

今回もカウント2で返してくる菜々。
そしてまたトップロープに登る僕。

 

「僕の家ファミコンあるんでファミコンやりましょうよ?」

 

1、2、

 

「今日は本当に帰ります」

 

ん?

 

「家にパンもあるんでどうですか?」

 

1、2、

 

「帰ります」

 

え?

 

「ちゃんとゴムはつけますよ?」

 

1、

 

「いやいやそういことじゃなく、はい」

 

は?

 

「なんやったら帰りのタクシー代も出しますし…」

 

1、

 

「帰ります」

 

あれ? これプロレスやんな?
ちょっと長ない?
え? これガチなん?

 

さっきまで四角形だったリングが、金網で囲まれた八角形のオクタゴンのように見えてきました。
世界最高峰の総合格闘技『UFC』のそれです。

 

え?ちょっと待って?
プロレスちゃうかったん?
最初からオレが勝つって決まってる試合やったんちゃうの?
それを踏まえた上でのエンターテイメントやったんちゃうの?
急にガチってどういうこと?
それはなんぼなんでも横暴じゃない?

 

僕は薄いオープンフィンガーグローブで顎を殴られた感覚に陥りました。
その後もいくら説得しても、全く3カウントを取らせてくれない菜々に辟易とする僕。

 

またこれやん?
結局いつもこうやん?
SNSで近づいてくる女子にろくな奴おらんやん?
ムラムラさせるだけさせといて結局またこのパターンかい?
このおさまりきらんムラムラどうしてくれんねん…?

 

その瞬間、僕の頭の中に今までの菜々とのやり取りがフラッシュバックしてきました。
ガリレオの湯川教授の如く、次々と頭の中に数式が並べられていきます。
そして導き出された悪魔のような答えを菜々にぶつけました。

 

「じゃあ風俗奢ってくださいよ?」

 

驚愕の一言に、彼女も、周りのお客さんも、店員さんも、一瞬何が起こったのか理解できていませんでした。

そう、当初の予定が大幅に狂った僕は、今日のこの飲みに至るきっかけとなった菜々のメッセージを思い出したのです。

 

セックスという道が断たれた瞬間に、すぐに僕のゲスナビゲーションシステムが作動し、別ルートを選択してくれたのです。
ただただ普通に生きてきたOLに対し、傍若無人とも言える要求をする下衆ルート。

 

「え?」

 

急にパイプ椅子で殴られたような顔でこちらを見つめる菜々。

 

いや、『風俗奢りたい』は流石にプロレスでしょ?

 

の顔をしている彼女に対して、ガチの顔で見つめ返す僕。

 

「風俗奢りたいって言ってましたよね? 奢ってください」

 

しっかりとパイプ椅子を振り下ろす悪役ゲスラー。

 

「どんな手を使ってでも抜きたい!」

 

という意思が剥き出しです。
すると、呆れ返った彼女からまさかの答えが返ってきました。

 

「分かりました。奢ります」

 

なんと、こちらの下衆要求を受け入れたのです。
覚悟の目をし、こちらを睨みつけるような表情の菜々。
本当にこれでいいのか?
と思いながらも、お互いどこか引くに引けないといった感じの空気がほとんど客がいなくなった居酒屋を包み込みます。

 

いやいや、冗談ですやん?

 

とは、もはや到底言える空気ではありません。
見るに耐えないほどの泥試合。

 

菜々「ATMでお金おろすのでコンビニまでついて来て下さい」
森田「分かりました」

 

コンビニに行くまでの間、一切会話はありませんでした。
ついさっきまで、あんなに楽しげだった二人の姿はもうここにはありません。

菜々がお金をおろしてる間、コンビニの前で待っていると、酔っ払ったサラリーマン2人組に声をかけられました。

 

サ「あっ、さらば青春の光だ」
森「どうも」

 

と挨拶をしたタイミングで、菜々がお金をおろし、コンビニから出てきました。

 

サ「うわっ、可愛い彼女連れてますね~」
森「いや、今からこの子に風俗奢ってもらうんですよ~」
サ「またまた~」

 

あまりにリアリティがなかったのか、若干スベったみたいな空気になりました。

 

こいつ彼女の前でよくそんなボケ言えるな?

 

の目をしながらサラリーマン達は駅の方へと消えて行きました。

 

菜々「はい、お金おろしてきました。2万円あったら足りますか?」
森田「いや、1万5千円で足りますよ」
菜々「じゃあいつもより良いとこ行ってください。お釣りも返してもらわなくていいんで」

 

そう告げて菜々は帰っていきました。
どんなに偉いスタッフさんや先輩に奢ってもらった時よりも深々と礼をする僕。

 

僕はこの世で最も汚いファイトマネーを貰ったような罪悪感に苛まれましたが、色んな風俗サイトを物色しているうちに、罪悪感など一瞬で消え失せ、しっかりと勃起していました。

 

“これは自分で勝ち取った金だ”

 

と、むしろ今回の件を正当化さえできるほどのタフボーイに成長していました。
そうして家に帰った僕は、せめてもの感謝の気持ちというよく分からない思考が働き、『なな』という名前の女の子が出勤しているお店を選び、電話をかけました。

 

僕の家に来た『なな』は本来持ち帰れる筈だった『菜々』よりは少しルックスは劣りましたが、『なな』に『菜々』を照らし合わせ、プレイを楽しむことができ、尚且つ『菜々』から貰ったお金を『なな』に還元することができました。

 

プレイが終わり、ななに、
「この風俗代は菜々っていう女の子に奢ってもらってん」
と言うと、
だから何やねん?
という顔をしていました。

 

ななが帰った後、無性に屋敷とバイクさんの顔が見たくなりました。

 

エロは一切なく、下衆のみでお送りした今回のコラム。
女の子に風俗を奢ってもらうという、下衆さだけで見れば過去一番の内容だったかもしれません。
流石に今回ばかりはお叱りの言葉を受けても仕方ないかもしれません。

 

最後に、このコラムの執筆中に連日放送されていた平昌オリンピックで、スキージャンプ界のレジェンド、葛西選手の姿がテレビの中にありました。
個人、団体共にメダルを逃してしまいましたが、日本国民の期待を一身に背負い、力一杯大空を羽ばたいたレジェンド。

 

その姿を観て、個人、団体共にセックスを逃し続けている自分を勝手に重ね合わせていたことだけは許していただきたく思います。