三島由紀夫『金閣寺』あらすじ紹介。いじめを受けた者が感じる世界との壁、そして“美”の魔力

文芸・カルチャー

更新日:2023/6/16

『金閣寺 (新潮文庫)』(三島由紀夫/新潮社)

 1950年に実際に起きた金閣寺放火事件に対し、三島由紀夫が容疑者の人物像や犯行動機に対する自身の見解を基に書き下ろした作品。この事件の犯人の若い学僧は重度の吃音(きつおん)を抱えており、幼い頃からいじめられていた。その生まれ育った環境から生まれた打ち消し難い悩みと、外の世界に対する拒絶感は、人生に対する呪いと美に対する独特な感性を育んだ。

 貧しい寺の子として育った少年は、学僧として鹿苑寺(金閣寺を所有する臨済宗相国寺の寺)に預けられる。「金閣寺ほど美しいものはない」と父から言い聞かされていた少年は想像の中でその美しさを膨らませていたが、実際に初めて見た金閣寺にはそれほど美しさを感じられず落胆する。

 しかし戦争が激化し、自分も金閣寺もともに空襲で焼けるかもしれないという運命の共通性を感じ、その命の儚さから金閣寺に秘められた悲劇的な美を見出す。戦争が終わり大学に進学した少年は、内反足の障害のあるクラスメイトの柏木と親密になり、障害がもたらす内面の屈折と人生観、そして女性に対して抱く特殊な心情を共にする。そうした大学生活を送るうち次第に欠席が増え、寺の中での彼の評価も下がっていく。孤独の中に墜ちていく少年が導き出した答えは「金閣寺を燃やす」というものだった。

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文=K(稲)