第36回『手コーキー・イン・ザ・UK』/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2018/5/15

今まで下衆の最前線で体を張って来たつもりの僕ですが、今回の主役は僕ではありません。僕ごときでは到底おこせない奇跡を起こした男のお話です。

 

あれはちょうど1年ほど前の夜のことでした。
僕はこのコラムではすっかりお馴染みの、ニューヨークの屋敷と二人で、ライブ終わりに渋谷で飲んでいました。
終電が迫る1時前を迎えた頃でした。
以前に一度だけ飲んだことのある女子から連絡が入りました。

 

「森田さん何してますか? 2時ぐらいから飲めませんか?こっち4人なんですけど?」

 

夜中の2時開幕の4対4の合コンの発注を、夜中の1時前に連絡してくる狂った女子。
なぜこんな時間にそんな連絡をしてくるのか?
僕ぐらいの下衆になってくるとその理由は簡単に察しがつきます。
恐らく彼女達が今参加してる合コンの相手があまり芳しくなく、2時前に見切りをつけ僕らに乗り換えようという魂胆なのです。
そう、女達は常日頃から男達を品定めし、飛び石のように男を渡り歩いて行くのです。
合コンをしたことのある男性の読者の方なら心当たりがあると思います。
合コン中に特に粗相もしていないのに、急に女性陣が帰ると言い出したことはありませんか?
それは次の飛び石が見つかった時なのです。
男を舐めきっているとしか思えない行為に、怒りを覚えた僕は返信しました。

 

「飲む飲むー! 絶対になんとかして4人揃えるー!」

 

お決まりのパターンが炸裂し、すぐさま人数集めに取り掛かる僕と屋敷。
自分は飛び移って来られる側、言うなれば着陸側の人間。
離陸される側の男達のことなんて知ったこっちゃない。
そう言わんばかりに屋敷と手分けして、しらみつぶしに今から来られる人間を探しました。
しかし、いつも一緒に合コンに行く芸人達に声をかけましたが、やはり夜中の1時ということもあり、中々メンバーが捕まりません。

 

ようやく一人捕まったのが、このコラムの第29回『ダイレクトメッセージの甘い罠』の回で登場した、某プロダクションでアイドルのマネージャーをやっている柴山という男でした。
散々はしゃいだ挙句、酔っ払って潰れてしまったにもかかわらず、

 

「全然記憶ないんだけど、おれセックスしてた?」

 

の名言を残した男、柴山。
そんな柴山も僕とスペックがほぼ同じのメンタル童貞です。

 

「今グラビアの撮影の現場なんだけど、たぶん3時ぐらいに終わるから、終わり次第ダッシュで行くよ! オレ今日ちょうどセックスしたかったんだよ!」

 

とてつもないフットワークの軽さと、イラっとする一文に、この男を誘った事を少し後悔しましたが、とにかく4人揃えないといけない今、背に腹はかえれません。

 

そしてもう一人捕まったのが、ミュージシャンをやっている保科という男でした。
保科さんは、とあるバンドでドラムを担当している人で、知人の音楽のライブの打ち上げで一緒になり、お互いセックスと合コンが大好きという共通点と、同い年という事実が発覚し、LINE交換をした男でした。

 

「今度合コンあったら誘いますね!」
「僕もなんか香ばしいのあったら速攻で誘いますね!」

 

という言葉を交わしたのを思い出し、保科さんにLINEを送ると、

 

「行きます行きます! ちょうど今合コンで女の子に逃げられたとこなんで!(笑)」

 

ここにも離陸された側の男がいました。
兎にも角にもおあつらえ向きの二人を確保し、4人のパーティを作りあげた僕たち。

 

しかし問題は2時開始という点。
うだうだやってる間に始発電車は動き出します。
すると女の子からLINEが。

 

女「4人集まりました?」
森「集まったよ!」
女「どこにいますか? 今から向かいます!」
森「五反田のオレの家!」

 

むちゃくちゃ渋谷の居酒屋にいましたが、短期決戦を余儀なくされている今、渋谷の居酒屋でダラダラ飲む訳にはいきません。
最初から宅飲みに持ち込めば、前回登場した屋敷の謎の王様ゲームのアプリや、スーパーマリオブラザーズを駆使し、どうにかSEXまで辿り着けるかもしれません。
この切羽詰まった状況で、冷静に女子に嘘をつける者こそが、SEXをものにすることができるのです。
しっかりと女子、柴山、保科に家の住所を送り、僕と屋敷はすぐさま五反田の僕の家に向かい、女子達の到着を待ちました。

 

程なくして現れた女子4人組。
間違いなくどこかで飲んでたであろう、赤らんだ顔の4人。
全体的にはみんな可愛く、その中でもエロそうに見える子もいれば、合コンに来るようには到底見えない大人しそうな子も混じった、絶妙なバランスの4人組。
誤解を恐れず言うと、もしもカーリング女子日本代表チームが合コンに来たとしたら抱きそうな印象です。

 

「SEXする?」と聞くと「そだねー。」と言ってくれそうな4人組。

 

そんなカーリング女子4人を、ひとまず2人で相手をする僕と屋敷。

 

森「スーパーマリオブラザーズっていうファミコンのゲームあんねんけど、一回も死なずにクリアできたらヤらせてくへん?」
屋「早いねん! それはもうちょっとほぐれてからや!」
ほろ酔いだからなのか、よく分からないボケをしても笑ってくれるカーリング女子チーム。

 

屋「森田さん、今日奥さん実家帰ってるんでしたっけ?」
森「オレ結婚してへんねん!」
ほろ酔いだからなのか、いつもはそんなに結果を出さないノリでも笑ってくれるカーリング女子チーム。

 

この調子ならもしかしたらもしかするぞ!
ストーン弾きまくってダブルテイクアウトや!
間違いなくカーリング協会からお叱りを受けそうな下衆な妄想を膨らませながらも、気になっていたあの質問をぶつけてみました。

 

森「ここ来る前は4人で何してたん?」
女「……」

 

明らかに気まずそうにする女子チーム。

 

森「もしかして合コンしてた?」
女「……はい」

 

やっぱりかい!!!

 

僕は自分で自分の推理力が恐ろしくなりました。
同時に女という生き物の怖さを再確認しました。

 

女「でも違うんです! 聞いてください! 確かに合コンはしてましたけど、森田さんと前に飲んだ時に楽しかったからまた飲みたいなと思って連絡したんです!」

 

取ってつけたような言い訳でしたが、「人を疑うのは良くない」という親の教育を受けてきた僕は、女子達の言葉を素直に信じることにしました。
それに、合コンを渡り歩くような女子達がエロくないわけがありません。

 

屋「2対4ですけど、とりあえず王様ゲームでもやりますか?」
女「えー? みんな揃ってからにしようよ!」

 

王様ゲームはありなんや?
やっぱりエロいやん?
これはほんまにちょっとあるかもやぞ!?

 

と、思っていた時でした。
屋敷が僕に聞いてきました。
屋「結局保科さんって来れそうなんすか?」
森「うん、たぶんそろそろ来ると思うねんけどな?」
すると女子全員が、

 

「え?」

 

と声をあげました。
僕と屋敷が不思議そうにしていると、一人の女の子が聞いてきました。
「保科ってもしかしてミュージシャンの保科じゃないよね?」
急に漂う不穏な空気。
「え? ミュージシャンの保科さんやで?」
答える僕たち。
すると女子全員が、

 

「えーーー!? ダメダメダメダメ!!!!」

 

急にわめき散らす女子達。
まだ状況がイマイチ分かっていない僕と屋敷。
「え? どういうこと? なんでダメなん?」
「ここに来る前に合コンしてた相手が保科なの! だから絶対呼んじゃダメ!」

 

驚愕の事実でした。

 

合コンをしていた相手に適当な理由をつけて逃げ、すぐに次の合コンに行ったら、その相手の男がさっきの合コンにいた男を呼んでいた。
日本全国で数多と行われてきた合コンの歴史において、こんな前例が存在したでしょうか?
僕が毎週必ず観ている『ザ!世界仰天ニュース』でも、そんなことを放送している回は観たことがありません。

 

「ダメほんと断って! 早くして!」

 

まるで大荒れの株主総会の如く女子達の怒号が飛び交う室内。
女子達全員がパニック状態でした。
「ダメダメほんとダメ! 早く今すぐ断って!」
その鬼気迫る雰囲気に、「どんな逃げかたしてきたん?」と思いながらも僕も少しパニックになりながらあたふたしていると、急に背中の方にただならぬ気配を感じました。

 

僕が恐る恐る振り返ると、そこにはなぜか保科さんが立っていたのです。

 

「ぎゃーーーーー!!!!」

 

人の家にインターホンも鳴らさず、物音一つ立てず勝手に入って来た保科さんのヤバさも相まって、部屋の中に蝉が入って来た時のような悲鳴をあげる女子達。

 

「え? 何でさっきの女の子がいるの?」

 

こちらはこちらでイマイチ状況を理解できず、若干パニック状態の保科さん。
さっきまで別会場で行われていた合コンにいた女子達が、次の会場で行われる合コンにもそっくりそのままいるのだから、そうなるのも無理はありません。

 

離陸と着陸を同時に行った保科国際空港。
保「え? 本当に何でここにいるの? みんな明日朝早いから帰るって言ってたじゃん?」
未だ状況が飲み込めていない保科国際空港の管制塔。

 

めちゃくちゃ気まずそうにする女子達。
その隣で物凄い状況を目の当たりにし、腹を抱えて笑い転げる屋敷。
保科さんがようやく状況を理解した頃に、グラビアの現場の仕事を終えた柴山が到着しました。
到着するなり事の顛末を説明すると、びっくりしながらも、

 

「へー、でもなんかエロいね」

 

という全く意味不明の感想をほざく柴山。
気まずそうにしている女子達と、状況を理解してからはやはり少し不機嫌な保科さん。
完全にどっちらけムードが漂う室内。
SEXはおろか、合コンの継続自体も難しい状況でした。
しかし、少しでもこの合コンを前に進めないといけないという気持ちと、もし自分が保科さんの立場だったら相当悔しいだろうなという思いが込み上げてきた僕は、ここで立ち止まるわけにはいきませんでした。
なんとか保科さんだけでも良い思いをして帰ってほしい、保科さんを手ぶらで帰すわけにはいかない、そんな思いから、むちゃくちゃな提案を女子達にふっかけてみました。

 

森「よし、もうこうなったら誰か一人保科さんとセックスしよか? 保科さんに悲しい思いをさせたわけやし」

 

保科国際空港に本当の意味で女子を着陸させたい、という思いから出たクソ提案でした。
いわゆる生贄を差し出せ、というヤクザよりも怖い提案に全力で引く女子達。

 

「いいよいいよ森田くん、そんなんでSEXしてもオレが惨めになるだけじゃん」

 

という言葉は一切発せず、ただただ黙ってこの狂った生贄制度に賛成の意を見せる保科さん。
やはりこの人も僕と意気投合するべくしてした根っからのクズです。
「ほし神様に生贄を捧げるのがこの村に古くから伝わるしきたりなんじゃ!」と叫ぶ、いかれた村長を見るような目で僕を睨みつけてくる女子達。
流石にこの提案には納得してくれない女子達に、妥協案をぶつける僕。

 

森「よし、分かった! 流石にセックスはハードル高いから、手コキにしよか?」

 

いかれた村長の手コキという妥協案。
相変わらず睨みつけてくる村娘たち。
しかし、またもや引いたものの、セックスよりはマシだという心理が働いたのか、先程よりは引きかたが若干緩んでいるように見えました。
一度高い値段を見せといてそこからのお値引き、という通販のような手口で徐々にこちらの土俵に引き込んでいく村長。

 

いつしか僕の使命は、
「保科さんを手ぶらで帰すわけにはいかない」から
「保科さんを手コキで帰さないといけない」
に変わっていました。
そして僕は、これならばという一手を打ち込みました。

 

森「よし、じゃあこうしよう。王様ゲームやんねんけど、何回やろうが王様は絶対に保科さん。命令は王様に手コキ。でもそれは男側も全員参加する。これでどう?」

 

日本全国のどの村にも存在しない、いよいよわけのわからない祭りを提案する村長。
これには男の村人達からも非難の声が飛んできました。
しかし、何かを得る為には何かを犠牲にしなければいけません。
女性に手コキをさせる為には、男性もそれなりのリスクを背負わないといけないのです。
その旨を柴山と屋敷に説得する村長。
一番最初の提案よりだいぶハードルが下がったように感じたのか、なぜかすでに覚悟を決めている村娘達。
その一部始終を、

 

「いや、オレの為にそこまでしてもらうのは本当に申し訳ないよ!」

 

などとは一切言わず、本当にただ黙って方向性が決まるのを待っているほし神様。
一番のクズは間違いなくこの人だと思いました。
背中に刺さるクズからの「早く王様ゲームやろうよ!」の視線を感じながら、僕はとんでもないモンスターを招いてしまったことを少しだけ後悔しました。

 

そして始まった最も危険な王様ゲーム。
屋敷が持っている王様ゲームのアプリを駆使し、王様である保科さんを除いた男女7人が順番に画面の中の札を引いていきます。

 

森「じゃあ王冠マークが書かれた札を引いた人がそのまま王様に手コキすることにしよか?」

 

普段は何でも命令できる王冠マークが、この瞬間だけは奴隷と化します。
こうして、前代未聞の奴隷ゲームが開幕しました。

 

屋「あっ、こうしません? 保科さんは目隠しして、誰が王冠マーク引いたかは分からんようにしません?」
まだできたてホヤホヤの奴隷ゲームに新たなルールを追加しようとする屋敷。
女「それがいい! そうしよ!」
女子達の感覚もかなり麻痺してきました。
ただ黙って言われるがままにタオルで目隠しをする保科。

 

この人って今どういう気持ちでこのゲームに参加してんねやろ?

 

という思いを胸に、全員が恐る恐る札を引いて行きます。
保科さんにバレてはいけないので何を引いてもリアクションはできません。
全員が引き終わり、屋敷が音頭を取ります。

 

屋「奴隷だーれだ?」

 

固唾を呑む7人。
長い沈黙が流れます。
誰も手を挙げない状況に痺れを切らした屋敷が、ジェスチャーで一人一人に指を指し確認していきます。

 

女A「私じゃないよ?」
女B「私も違うよ?」
森「オレも違うで?」
各々が手を横に振りながら、自分ではないという意思をサイレントで伝えます。
すると、泣きそうな顔でゆっくりと手を挙げる一人の男がいました。

 

柴山でした。

 

その瞬間、必死で爆笑をこらえる僕たち。
体中の嫌悪感が全て顔面に集まったかのような柴山の顔を見て、腹がちぎれそうになりました。
早速屋敷が仕切ります。

 

屋「保科さん、決まりました! ズボン下ろしてください!」

 

何の躊躇もなくパンツを脱ぎ床に寝っ転がる保科。
やはりロックミュージシャンの性なのか、その辺の羞恥心は皆無です。

 

女「ちょっとマジでやだー!」

 

保科のチンコをがっつり目の当たりにしてはいるものの、自分が手コキをしなくて済んだ安堵感からか、さほど嫌ではなさそうな
女子達。
覚悟を決めたのか、目の前の缶チューハイをグビッと一口飲み、両手で自らの頬を叩く柴山。
そして、鉄球がついたような重い足取りで、がっつりイチモツを出している保科の元へ向かう奴隷柴山。
こんなに切ないビーチフラッグは見たことがありません。
合コンだと思って来てみたら、到着して10分も経たないうちに、まさか見ず知らずのミュージシャンの手コキをすることになろうとは。
この男の人生を考えたら涙が出そうなぐらい面白かったです。
そしてとうとう保科の元へ到着し、震える手で保科のチンコを柴山が握りました。

 

保「あっ、なんかあったかい」

 

保科の率直な感想に、全員が笑いを堪えるのに必死でした。

 

一体この保科という男はなんなのか?

 

合コンで女子に逃げられ、
次に行きついた場所で逃げられた筈の女子と再開し、
数回しか会ったことのない芸人に、言われるがままにチンコを出し、
ゴリゴリの男に手コキをされ、
ニヤニヤしながら「あったかい」とほざいているこの男のメンタルは一体どうなっているんだ?
そんなことを考えていると、柴山が人差し指を立て、「もう一回王様ゲームをやり直させてくれ!」のジェスチャーをしてきました。
そんなことは絶対に嫌でしたが、僕らに彼の要求を断る非情さは持ち合わせていませんでした。
と言うかもうこれ以上男の手コキなんて見たくなかったので、とりあえず柴山の要求を呑んであげることにしました。

 

こうして地獄の第2ラウンドのゴングが鳴りました。
再び恐る恐る札を引く7人。

 

屋「奴隷だーれだ?」

 

またも訪れる長い沈黙。
先ほど同様、痺れを切らした屋敷がサイレントで確認していきます。

 

女A「私じゃないよ?」
女B「私も違うよ?」
森「オレも違うで?」

 

先ほどと全く同じ流れに「まさか?」と思った全員が彼の方を見ました。

 

手を挙げる柴山。

 

その瞬間、異様に盛り上がる他6人。
まさかの柴山2連チャン。
チンコセレクション2年連続受賞の快挙。

 

お笑い用語に『天丼』という言葉がありますが、手コキの『天丼』がこの世で一番面白いことを僕はこの時初めて知りました。

 

再び缶チューハイをグイッと飲み、両手で頬を叩く柴山。
全てがデジャヴを見ているかのようでした。
そして保科の元へ向かい、2度目の手コキ。

 

「あっ、なんかさっきよりあったかい」

 

温度の感想という天丼もさることながら、柴山の手コキにより、明らかにさっきよりも膨らみを見せる保科のイチモツ。
女子にしてもらってると思いこんでいるのか?
いや違う、柴山だと分かっていても結局この男なら勃つんじゃないか?
そう僕たちに思わせるほどクレイジーな男、保科。
どちらにせよ、数々の激戦を繰り広げてきた森田家での宅飲み史上、一番クソみたいな回だと僕は確信しました。

 

ミュージシャンのチンコを握るおっさんと、それにより勃起するミュージシャン。

 

史上最悪の音を奏でるおっさん同士のセッション。
それを見てなぜか異様に盛り上がる観客席の6人。
会場全体がトランス状態のフジボッキフェスティバル。
超満員のZepp五反田が物凄い熱気を帯びてきました。
そしてステージの上から再びアンコールを要求してくる、握る側のおっさん。
トランス状態ゆえに、平気でアンコールを受け入れる6人の観客たち。
そして3回目の奴隷ゲーム。

 

屋「奴隷だーれだ?」
三たびの沈黙。

 

女A「私じゃないよ?」
女B「私も違うよ?」
森「オレも違うで?」

 

おいおい、嘘だろ?
女C「違うよ?」

 

まさか?
女D「違う」

 

そんなことが本当に?
屋「僕も違います」

 

てことは……?

 

思いっきり拳を机に叩きつける柴山。
モッシュ&ダイブでのたうち回る観客席の6人。

 

まさかまさかの柴山3連チャン。
読者の皆さん、これは嘘でも何でもなく、紛れも無い事実です。
悪夢の柴山3連チャンのあの光景は、今でもしっかりとこの目に焼き付いています。

 

「なになにー?」
何も知らない保科がニヤニヤしながらこちらの様子を伺ってきます。
3曲目を奏でるべく、通い慣れた花道を歩く柴山。
『手コーキー・イン・ザ・UK』という地獄のロックナンバーのイントロが流れ出します。
『手コーキー・イン・ザ・UK』は伝説のバンド、セックス・ピストルズの名曲をオマージュしたノーセックス・ピストルズによる3曲目のシングルです。
イントロが流れている間、なんとも言えない表情でゆっくりとマイクに近づくボーカルのシバ・ヴィシャス。
イントロが盛り上がってきて、Aメロの歌い出しに入るべく、とうとうシバがマイクを握ったその時でした。

 

保「あっ、今回の人はなんかちょっと手が湿ってる」

 

まさかのツインボーカルでした。
シバが歌うと見せかけて、「あっ、今回の人はなんかちょっと手が湿ってる」というAメロの歌詞を歌う保科。
湿っているのは柴山が恐らく拳を強く握りしめた時の手汗でしょう。
客席6人のボルテージが最高潮に達したその瞬間でした。

 

「ちくしょー! なんでオレばっかりなんだよ!!!」

 

とうとう我慢出来ずに大声で叫ぶシバ・ヴィシャス。
恐らく今のがサビの部分です。
シバの心の叫びが伝わり、涙を流しのたうち回る観客席。

 

「えっ? 今までの全部柴山さんなんすか?」
全ての事実を知ったもう一人のボーカル保科の絶望感に、さらにのたうち回る観客席。

 

アイドルを抱きたくてこの業界に入った筈なのに、アイドルなど一切抱けず、気がつけばよく分からないバンドマンの手コキを3回していた柴山。
この世に神様なんて存在しないんだということを、身をもって証明してくれた柴山。

 

柴山3部作、ここに完結。

 

ここから引き続き奴隷ゲームをしても、もうこれ以上の奇跡は起こらないと判断した僕たちは、ここで奴隷ゲームをやめることにしました。
伝説のフジボッキフェスティバル、閉幕。
さっきまでの余韻に浸り、ぐったりとする8人。
もう今日はこれ以上何をしても無駄だと、諦めムードの僕たちでしたが、最後に本当の奇跡が待ち受けていました。

 

森「最後にもう一回だけ聞くけど、やっぱ誰も保科さんと一緒には帰られへんの?」

 

と、僕が何の気なしに女子達に最終確認したその時でした。
「わたし帰れます」
女性陣の中で今まで一番おとなしかった女の子が、急にこう言い放ったのです。

 

え!!!???
全員が耳を疑いました。
森「いや、あれやで? 別に強制じゃないねんで? もしかして一緒に帰らなオレらにしばかれるとか思ってる?」
女「思ってないですよ。私実はバンドマンが好きなんです」
屋「いや一緒に帰るっていうのは、その、そういうことをするっていう意味やで?」
女「はい」

 

凄いことが起こりました。
これだけゲスいフェスを見た後に、まさか一緒に帰れる女子が現れるとは。
しかもそれが一番おとなしそうに見えた子が志願してきたのだから、びっくりどころの騒ぎではありません。
この状況がいまいちピンと来ない方は、もう一度カーリング女子日本代表チームを思い出してみてください。
エロそうに見えるあの子でもない、リーダーシップがあるあの子でもない、常に笑顔を絶やさないあの子でもない、一番おとなしいあの子が、一緒に帰ってSEXすると言い出したのです。

 

ね?びっくりでしょ?
しかも、「バンドマンが好き」という理由だけで。
まさかまさかの大逆転劇でした。
最後にこんなシークレットトラックが入っていようとは夢にも思いませんでした。
会場が本当の意味で盛り上がった瞬間でしたが、柴山だけは、

 

「じゃあ最初から帰ってくれよ? オレ3回も手コキする必要あった?」

 

の顔をしていました。
そして奇跡を起こした当の本人である保科さんは、満面の笑みで僕ら全員に、

 

「ありがとう」

 

と言って、パンツを穿き、音速で帰る準備を始めていました。
一度は女子に逃げられ、
しかしすぐさま偶然の再会を果たし、
男に3度も手コキされたにもかかわらず、
最後は一度逃した女の子をお持ち帰り。

 

どんな方程式やねん。

 

まさにロックンロール以外の言葉では説明がつかないような出来事でした。
名もなきロックンローラーが目の前で起こした奇跡。
僕の目には保科さんが『BECK』の主人公に見えました。
この人なら本当に音楽で世界を変えれるんじゃないかと、心の底から思いました。
こうして保科さんとバンドマン好き女子は、本当に一緒に帰っていきました。

 

保科さんの後に続けとばかりに、残った女子に奇跡を期待した僕達でしたが、童貞芸人好き女子もアイドルのマネージャー好き女子もおらず、みんなそそくさと帰っていきました。
女子達が帰った後も、さっきまでのフジボッキを思い出してまだ笑い転げてる屋敷と、洗面所でこれでもかというぐらい手を洗う柴山の後ろ姿を見て、いつか絶対この3人でバンドをやろうと、心に誓った夜でした。