第38回『流れ星降る夜の、名古屋嬢との攻防戦』/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2018/7/15

格差社会と言われてる昨今、とうとうこのダ・ヴィンチ内でも明確な格差が生まれてしまいました。
3年前の2月にスタートしたこの下衆コラム。
時同じくして始まったのが、流れ星の瀧上さんのコラム

 

『肘神様が生まれた街』

 

でした。
故郷の飛騨高山で生まれ育った思い出話や、お笑いについての自身の見解などを展開する、この下衆コラムとは真逆の超クリーンコラムです。

 

その瀧上さんの超クリーンコラムの書籍化がとうとう決定したそうです。

 

同じタイミングでスタートしたにもかかわらず、しっかりと書籍化への準備をしていた働きアリと、やれ合コンだ、やれ風俗だと、欲望のままに女性にうつつを抜かしていたゲスギリス。

 

圧倒的な差をつけられ、僕が追っていた瀧上さんの背中は、もはや肛門ぐらいの小ささにまでなってしまいました。

 

こうなったら僕に残された道はただ一つ。
大先輩である瀧上さんを、このコラムに巻き込んで、瀧上さんもろとも沈んでいただくしかありません。

 

あれはとある名古屋での仕事の時でした。
僕らは名古屋ローカルの深夜の情報番組のゲストに、流れ星さんと共に呼んでもらいました。
その番組は、いわゆる“撮って出し”と言われる手法で収録する30分番組でした。
その日のお昼に収録したものを、ほとんど編集せず、そのままその日の深夜に流すという、テレビ業界ではたまに用いられる手法です。

 

流れ星さんと一緒ということもあり、収録は和気あいあいとした雰囲気で進み、瀧上さんの相方であるちゅうえいさんのお得意のギャグも冴え渡り、良い感じで30分間の収録を終えました。

 

収録を終えて、次の日に名古屋でのお笑いライブを控えていた僕達は、そのまま名古屋駅付近のホテルに宿泊することになりました。
流れ星さんは東京に帰りましたが、僕らは名古屋のスタッフさんと打ち上げも兼ねて、ご飯に行くことになりました。

 

東京から遠く離れた名古屋という土地にテンションが上がる僕。
芸人という生き物は地方に行ったら、必ずと言っていいほどムラムラするヤバイ性癖を抱えています。
そして、地方に行った芸人は、スタッフさんとの打ち上げの後半ぐらいから、テーブルの下で現地の風俗情報を漁り出します。
そして、突如として睡魔が襲ってきたふりをし、「昨日あんま寝てないんすよ~」などとほざきながら、早めに打ち上げを終わらせようとするのです。

 

芸人に限らず全ての男性がなぜかソワソワする“地方”という響き。
しかも風俗のメッカと言っても過言ではない名古屋。
それに加え、ホテルに帰るまでの道中で、次から次へと胡散臭いキャッチの方々が寄ってきます。
これでムラムラしない筈がありません。

 

「お兄さんお兄さん、今日は抜きとかないですか?」

 

女子がしかめっ面するには十分なほどの品のない誘い文句。

 

「ないわけないです。抜きとかあります」

 

それに対し即答で自らのムラムラを明かす僕。

 

「うちの店マジで可愛い子しかいなんですけどどうすか?」

 

嘘以外の何物でもない言葉を平然と言ってくるキャッチ。

 

「じゃあ行きます」

 

こんなに胡散臭い誘い文句にも、チ◯コが喋ったんじゃないかと錯覚するほどの即答。
これが地方の魔力です。

 

「マジで嘘じゃないっすよ! おれタクヤって言うんで!」

 

なぜ名前を明かしてきたのかは分かりませんが、郷に入っては郷に従えと言わんばかりに、タクヤが紹介する店に決める僕。
ホテル名と部屋番号をタクヤに告げ、部屋で名古屋嬢の到着を待つ僕。
そして程なくして部屋にノック音が響きました。
すぐにドアを開けることも出来ますが、「別にがっついてませんよ?」ぐらいの間を取りドアを開ける僕。
女の子から来たLINEを、暇だと思われたくないので、すぐには返さないあの感じです。

 

ドアを開けると、少しギャルっぽい服装の女の子が立っていました。
その瞬間、僕の脳内でタクヤの言葉が再生されました。

 

「うちの店マジで可愛い子しかいないんですけどどうすか?」

 

もう一度女の子を見る僕。
「マジで嘘じゃないっすよ!」

 

あいつマジで嘘ついてるやん?

 

女子の可愛いとタクヤの可愛いだけは本当に信用出来ないと心の底から思いました。
しかし、わざわざ来てくれた目の前の女の子に対して、

 

「チェンジで」

 

と言える勇気もありません。
恐らく多くの日本人男性がこの言葉を言えず、涙を呑んできたのではないでしょうか?
諸外国に対しての外交からも分かるように、日本人とはそういう国民性なのです。

 

とはいえ、“風俗は容姿よりも技術だ”という理念を掲げ、尚且つ鶯谷デッドボール(※第20回『戒めパンティー』参照)まで経験している僕には、それほどの痛手ではありませんでした。

 

嬢「出張ですか?」
僕「まあ、そんなとこです」

 

当たり障りのない会話をし、料金を支払う僕。
金の確認を終えるなり、すぐに自らの服を脱ぎ出す名古屋嬢。

 

嬢「お兄さんも服脱いで」
ムードもへったくれもなく、業務的に始めようとする名古屋嬢。

 

これはハズレだ。

 

始まって5分でその答えに辿り着く僕。
容姿が芳しくないのは百歩譲ってしょうがないとしても、初対面ならではの少しむず痒いトークを楽しみつつ、徐々にエロい空気になっていくのが風俗の醍醐味です。
その行程を怠り、尚且つ愛嬌もクソもないのは目も当てられません。

 

僕も人より容姿は劣っている人間です。
だからこそ、人一倍女性に対しての気遣いや、優しさを重んじてきたという自負があります。
ヤッた、ではない。
ヤらせていただいたんだ、という気持ちを常に持って生きてきました。

 

それらを踏まえた上で、目の前の名古屋嬢の業務的な対応に、僕のしゃちぽこは反り返るどころか、何一つ反応を示さず、ういろうぐらいの柔らかさを維持していました。

 

僕が服を脱ぐと、名古屋嬢が僕の体をまさぐってきました。
まさぐられてる最中も、この愛嬌なき名古屋嬢に数万円を支払ったことを心底後悔していました。
このままでは名古屋という土地自体嫌いになってしまいそうだと思っていた矢先でした。

 

名古屋嬢が僕のしゃちぽこを咥えた瞬間、今まで感じたことのない快感が僕の体を駆け巡りました。
しかし、舌使いが巧みなわけでもなく、他のテクニックが特別突出しているわけでもありません。
それなのにこの全身を駆け巡る快感は一体なんなのか?

 

その快感の正体は、『温度』でした。

 

名古屋嬢の口の中の温度が尋常じゃないぐらい温かかったのです。
要するに、名古屋嬢の口の中の温度と、僕のしゃちぽこの温度に大きな差があった為に、この快感が生まれたのです。

 

言うなれば彼女は、冷たい麺を温かいスープにつけて食べる『つけ麺型風俗嬢』だったのです。

 

これは温かいスープどころやあれへん!
これ味噌カツ揚げる温度ちゃうか!?
これ口から出したらカラッと揚がってたりせんやろな!?

 

僕のしゃちぽこは一瞬にして反り返り、さっきまでの名古屋嬢へのイラつきなどとっくに忘れ、恍惚の表情で口の中の温度を馬鹿みたいに楽しむ僕。
そして気がつくと、所定の時間をかなり残し、僕はフィニッシュしてしまいました。

 

嬢「え? 早すぎない?」
不思議そうに僕を見てくる名古屋嬢。
僕「ごめん、だいぶ溜まってたから」
平然と嘘をつく味噌カツ。

 

しかも、賢者タイムにより、最初の悪い印象が蘇ってきた為、素直に気持ち良かったとは言わない下衆カツ。

 

すると風俗嬢が、
「お店に帰るの早すぎると怒られちゃうから、もうちょっと居ていい?」
と、言い出しました。
そう、本来風俗嬢という職業は、コース時間を目一杯使って顧客を満足させなければいけません。
あまりに早く終わって店へ帰ると、お座なりのプレイをしたのではないか、とお店から怒られる場合があるのです。
この名古屋嬢も、本来ならもうちょっと時間を使う筈だったと思います。
しかし、思いもよらぬ味噌カツ童貞ボーイの出現により、本来のプランが狂ってしまったのです。

 

僕「じゃあ時間もまだだいぶ余ってるし、もう一回してもらったりとかでけへん?」

 

あの味噌カツ体験を一回で終わらすのはもったいないと判断した僕は、名古屋嬢への救済措置と言わんばかりに、ダメ元で2回戦の提案をしてみました。

 

嬢「え? 無理無理。うちの店一回だけだもん」

 

即答でノーを突きつけてくる名古屋嬢。
味噌カツ完売の悲報と、終始イラッとする彼女の喋り方にげんなりする僕。
ふと彼女を見ると、こちらの了解も得ずに、既にタバコを吸っていました。
店のルールがどうであろうとも、ここからは風俗嬢の心意気次第です。
しかし、その心意気をこの名古屋嬢に求めること自体がナンセンスでした。
ピロートークを楽しむ気にもなれず、かと言って「帰ってくれ」とも言えない僕。
名古屋嬢は服を着てテレビを観ようと、リモコンの電源ボタンを押していました。

 

すると、とんでもない光景が僕らの目に飛び込んできました。

 

なんと、テレビの電源を入れた瞬間、画面の中でヘラヘラしている僕が映し出されたのです。
そう、今日の昼に収録した番組が、今まさに放送中だったのです。

 

嬢「え? え? 何これ? え? なんでいるの?」
軽いパニックになる名古屋嬢。

嬢「え? もしかして芸人なの?」
僕「まあ、実はそやねん……」
嬢「へー、そうなんだ。あたし家にテレビないからお笑いとか全く分かんなくて。有名なの?」
僕「東京では結構毎日ぐらいテレビは出てるよ」

 

とりあえず嘘をつく僕。
嬢「へー、凄いじゃん。あたしお笑いなんてナイナイとかで止まってるわ。てか面白いの?」

 

このしんどい会話をあと数十分しないといけないと思うと、ゾッとしました。
このまま2人でこの放送を観ることほどしんどいものはありません。
そう思った僕がチャンネルを変えようとしたその時でした。

 

嬢「え!? ちゅうえいじゃん!! あたしちゅうえいめっちゃ好きなんだけど!!」

 

急にテンションがぶち上がる名古屋嬢。
全然ナイナイで止まっていませんでした。

 

嬢「あたしちゅうえいだけはマジで好きなの! めっちゃ面白くない?」

 

この部屋に入ってきて、彼女の笑顔を初めて見た瞬間でした。
流石は稀代のギャグマシーンちゅうえいさん。
名古屋の風俗嬢にまで面白いと言わしめるその才能は、間違いなく将来のお笑い界を背負って立つ男になるでしょう。

 

かたや、秒でイカされ、2回戦も断られ、挙句存在すら知られていないかった味噌カツ三流芸人。
そんな三流芸人が、ちゅうえいさんでキャッキャしてる名古屋嬢を見て、掟破りの大逆転案を絞り出しました。

 

僕「ちゅうえいさんに会いたい?」
嬢「え? 会いたいに決まってんじゃん?」
僕「実はオレちゅうえいさんとめっちゃ仲良いねやんか?」

 

嘘に嘘を重ねる味噌カツ。
ちゅうえいさんの連絡先すら知りません。

 

嬢「え? マジ!? 会いたい!!」
嬉々として喜ぶ名古屋嬢。
そこにMC味噌カツが、渾身のパンチラインをはめにいきます。

 

僕「じゃあ、2回戦してもらっていい?」

 

ついさっきまで三流芸人だった男の実態は、超一流の下衆カツ芸人だったのです。

 

こいつマジで言ってんのか?
の目を向けてくる名古屋嬢。

 

マジやで?

 

の目で対抗する下衆カツ。
ちゅうえいさんという大先輩の一流芸人を、2回戦にいけるかどうかの駆け引きに使う超一流でらしゃちぽこ野郎。

 

そして本当にまさかでしたが、名古屋嬢は僕の要求を飲んでくれました。
なんと、2枚目の味噌カツを揚げてもらえることになったのです。

 

それもこれも全てちゅうえいさん、いや、肘神様のおかげです。
正直絶対に無理だと思っていましたが、こうなってくると、ちゅうえいさんの凄さにただただ脱帽せざるを得ません。

 

もしかすると彼こそが真の信長なのかもしれません。

 

そんな信長から猿と呼ばれ、農民出身にも関わらず、後に天下統一を成し遂げた豊臣秀吉と、南大阪の団地出身で、猿のような性欲を見せる自分を重ねながら、2枚目の味噌カツを堪能しました。

 

東京に帰り、ちゅうえいさんに事の顛末を一部始終話しました。
僕「というわけなんで、今度その名古屋嬢に会ってもらってもいいですか?」

 

ちゅ「会うわけねえだろ!」

 

肘神様は、お怒りになられていました。

 

結局、書き終わってみれば、瀧上さんを巻き込んで失墜させるどころか、大先輩の名前を使って風俗嬢に2回抜いてもらったというゴミのような話をたらたらと書いただけになってしまいました。

 

書けば書くほど自分の書籍化が遠ざかって行くことに、やっと気づいてきた今日この頃です。