第39回『捨てろ!石垣童貞!』/森田哲矢(さらば青春の光)連載

2018/8/15

記録的な猛暑を更新し続けている2018年、夏。

 

太陽は女性達に、今年も新作水着を買う大義名分をプレゼントし、花火大会はあと一歩という男女に、付き合うきっかけをプレゼントしてくれます。

 

海と女は好きですか?

 

そう問いかけたくなる、そんな夏が僕にもありました。
あれは、僕が初めて石垣島に行った2年前の34歳の夏の話です。
なぜ石垣島に行ったかというと、僕の中学時代に仲の良かった同級生の、まなぶという男が石垣島で働いていたからです。

 

まなぶは、生まれ育った大阪のボロ団地を飛び出し、遠く離れたこの地であらゆる事業を手がける社長になっていました。
決して頭が良かったわけではない、むしろまあまあバカだった男が、数年前からこの地に移り住み、石垣島を楽しむ為の色々な事業に手を出しては、なぜか全てで成功を収めていました。
そんなまなぶから、

 

「石垣島遊びに来るか? 飛行機のチケット送ったるし。泊まるとこも心配せんでええし、なんやったら財布持ってこんでも楽しめるようにしとくで」

 

と連絡が来たのです。
まさか同級生に神様になっている奴がいたなんて知りませんでした。
持つべきものは金持ちの同級生なんだと、この時初めて気づきました。
当時から面倒見が良く、周りからの人望も厚かった男が、金まで手に入れたとなれば、もう全身全霊で媚びるしかありません。

 

というわけで、僕は一人で2泊3日の石垣島旅行へ行くことになりました。
目的は同級生との久々の再会ですが、サブタイトルはもちろんSEXです。
南国の地で何かを期待しないわけがありません。
僕は世に言う、

 

『開放感が半端じゃない南国の地では、女性も開放的になり、すぐに体を許す』

 

という古くからの言い伝えを、身をもって体験したかったのです。
ちなみに、僕と南国の地には、一つの因縁があります。
実は僕は高校2年の時に留年し、トータル4年間かけて高校を卒業しました。
そして、いわゆる2回目の修学旅行が沖縄だったのですが、同じ部屋の奴がタバコを持っていたのが先生にばれ、連帯責任で僕も停学になってしまったのです。
旅行中の停学ほどきついものはありませんでした。
どの観光スポットに行っても、僕らだけバスの中で待機させられるという苦痛を味わいました。
修学旅行で停学になるダブリは目も当てられません。
あの時の忌々しい出来事を清算できるのは、沖縄でのSEX以外に方法がありません。
僕は、青春時代の苦い記憶を払拭するべく、並々ならぬ決意で沖縄県石垣島へと向かったのです。

 

仕事の都合で夜に到着した僕に、まなぶが早速地元で有名な高級焼肉店に連れて行ってくれました。
同級生の優しさと、美味しい焼肉に舌鼓を打つ僕。
久しぶりのまなぶとの再会に、中学時代の思い出話で盛り上がります。
しかし、悠長に時間を使っている暇は僕にはありません。
僕に許された夜は今日を含め二夜しかないのです。
そして、その後まなぶが自身が経営するキャバクラに連れて行ってくれました。
石垣島のキャバクラは、都会のキャバクラと違って、そんなに敷居が高いものではなく、メンタル童貞の僕でもそこまで緊張せずに楽しめる空間でした。
その理由はというと、そこで働くほとんどの女性がリゾートバイトで来ているからです。

 

「昨日石垣に着いて今日から働いてます」
という子がいたり、
「今回は2週間だけ働く予定です」
という子もいたり、
「ダイビングが趣味なんで、夜はここで働いて昼はダイビングしてます」
など、キャバ嬢と言うよりは、旅行がてらお小遣いを稼いで短期の間、石垣島の海や景色を楽しみたいという女性がほとんどなのです。

 

ということは、間違いなく開放的な気分になっているに違いない。
そう確信した僕が、キャバ嬢達を烏龍茶で口説いていると、途中から僕の隣に座った女の子が僕に言いました。
「あれ? 芸人さんですよね? 私テレビで観たことありますよ!」
千載一遇のチャンスが到来しました。

 

南国の開放感+テレビで観たことある芸人=SEX

 

最強の方程式が完成しました。
キャバ嬢「お金の額が増えていくネタ知ってますよ! あれめっちゃ面白いですよね!」

 

南国の開放感+テレビで観たことある芸人+お金の額が増えていくネタ=SEX

 

新たな最強方程式完成。
東京で出会っていたら間違いなく相手にされないようなキャバ嬢でも、この島でならひょっとするのではないか?
そんな期待が膨らみます。

 

キャバ嬢「旅行で来てるんですか?」
僕「いえ、SEXしに来ました」

 

虚を突かれたのか、思わず吹き出すキャバ嬢。
キャバ嬢「やだー! 笑っちゃった!」
東京の合コンならすぐさま屋敷に激怒されているであろう台詞でも、この島での短期決戦の場合、これぐらいストレートなほうが有効的だと判断しました。
僕「石垣島に来てどれぐらいなん?」
キャバ嬢「まだ1週間ぐらいです」
僕「石垣島で何すんの?」
キャバ嬢「何しよっかなー、って感じです。そういえばまだ石垣バージンも捨ててないし」

 

ん? 石垣バージン?
聞き慣れない言葉に一瞬戸惑いましたが、すぐに言葉の意味を理解しました。

 

『石垣バージン』

 

誰が考えたのか知りませんが、なんて素晴らしい言葉なんでしょうか?
せっかく石垣島に来たのだから、バージンで帰るのはもったいない。
むしろ、本当のバージン喪失の時よりも良い思い出になる可能性も秘めている、そう女子達に思わせるような、不思議な力を持った言葉です。

 

『旅のバージンはかき捨て』

 

この島のおじいがよく言うことわざです。
『石垣バージン』が持つ言葉の強さが強烈な追い風になりました。

 

南国の開放感+テレビで観たことある芸人+お金が増えていくネタ+石垣バージン=SEX

 

最強方程式が、どんどん厚みを増していきます。
僕「石垣バージンってやっぱ捨てたいもんなん?」
キャバ嬢「まあいい人がいたらって感じですかね」
僕「まあオレも石垣童貞やしな」
キャバ嬢「ほんとだ! じゃあ私と一緒ですね!」

 

絶妙な空気感が漂う店内。
キャバ嬢「明日は何するんですか?」
僕「明日はとりあえず昼は海行こうかなと思ってねん」
キャバ嬢「え、いいなぁ」
僕「一緒に海行く?」
キャバ嬢「え、行きたーい!」

 

僕の釣り竿に綺麗な熱帯魚がヒットしました。
すると、その会話を聞いていたまなぶから最高のパスが飛んできました。

 

ま「明日オレの会社がやってるシュノーケリングツアーの枠まだ空いてるから、あれやったら二人で行ってくるか?」
キャバ嬢「え!? いいんですか!? めっちゃ行きたいです!」

 

彼こそが“島人の宝”だとこの時僕は確信しました。

 

南国の開放感+テレビで観たことある芸人+お金が増えていくネタ+石垣バージン+石垣童貞+シュノーケリングツアー=SEXの二乗

 

最強方程式、ようやく完成。

 

僕「じゃあ朝イチでビーチでちょっと遊んでから、昼からシュノーケリング行こか?」
キャバ嬢「そうしよ!」
ま「夜は旨い沖縄料理屋ご馳走したるわ」
キャ僕「やったー!」

 

どこまでも神様のまなぶ。
僕達は明日の集合時間を決め、キャバクラを後にしました。
最高のスタートダッシュを切った初日の夜。
明日のことを考えると胸が高鳴ります。
さらに、今回の旅行でまなぶが用意してくれた寝床がとんでもなかったのです。
なんと、まなぶが経営しているキャバクラのキャバ嬢達が寝泊まりしている寮の部屋が空いているということで、そこに僕が泊めてもらうことになったのです。

 

どこまでも童貞をムラムラさせる島、石垣島。
ま「一応女子寮やからデリヘル呼んだりとかいらんことだけはすんなよ」
僕「分かりました」

 

なぜか同級生に敬語を使い、部屋に入る僕。
さすが女子寮だけあって、清潔感もあり、広々とした快適な部屋。
旅の疲れを落とすべく、今日はもう寝ようと思っていると、廊下から仕事を終えたであろうキャバ嬢達の声が聞こえてきました。

 

もしかしたらさっきの子もこの中におるんかな?
これ下手したら明日のデートの前にフライングでいけたりするパターンもあんのか?
否が応でもムラムラしてくる僕。
次から次へと沢山のキャバ嬢達が帰宅してくる音が廊下から聞こえてきます。
まなぶの言いつけを忘れ、無意識に石垣島のデリヘルを検索している僕。
石垣島に一軒だけあった風俗店。

 

『海と女は好きですか?』

 

という南国ならではの店名。

同時にさらりと冒頭の伏線回収。

 

しかし、まなぶの言いつけを思い出し、グッと我慢し、電気を消してベッドに入りました。
しかし、キャバ嬢達の声が聞こえなくなったものの、そこから30分経っても、1時間経っても中々寝つけません。
大丈夫や、明日のこの時間には既にSEXしてるんやから今日は落ち着いて寝よう。
そう自分に言い聞かせる夜中の3時。
すると、向かいの部屋のドアがバタンッと鳴る音が聞こえました。
僕はその音にすぐさま反応し、気がつくとベッドから飛び起きて、僕は自分の部屋のドアを開けていました。
しかし、そこには誰もいませんでした。

 

オレは何をやってるんだ?

 

という気持ちに苛まれ、ベッドに戻り目を閉じる僕。
すると、また向かいの部屋のドアがバタンッと鳴りました。
またもや反射的にベッドから飛び起き、部屋のドアを開ける僕。
しかし、また誰もいません。
コンビニでも行ったのではないかと、なんとなく寮の外まで出てみる僕。
なんとなく、とか書いてますが、冷静に考えて、やってることはだいぶヤバイです。
そして例えキャバ嬢と鉢合わせしたところで、特に何があるわけでもありません。
再びベッドに入る僕。
程なくして鳴る向かいのドア。
最後のチャンスとばかりにドアを開ける僕。
毎年正月にやってる『芸能人格付けチェック』の浜田さんばりの勢いでドアを開けていたと思います。
しかし何回開けようと、そこにはGACKTすらいません。
ほらやっぱコンビニ行って今戻ってきたんちゃうん?
だからなんやねん。
見えない敵との暗闇での攻防。
ハブ対マングースを遥かに凌ぐ不毛な攻防。

 

結局、向かいの部屋のキャバ嬢のドア術に翻弄され、ムラムラを増幅させられた僕は、居ても立ってもいられなくなり、気がつくと当たり前のようにら自慰行為に興じていました。

 

デリヘルはあかんけどこれはセーフやんな?

 

と自分の中で勝手にルールを設立した時にはもう終わっていました。
出すものを出してスッキリした僕は、さっきまでの寝つきの悪さが嘘のように、そのまま眠りにつきました。

 

そして翌日、ビーチで石垣バージンキャバ嬢と待ち合わせをする僕。
程なくして、向こうの方から笑顔で手を振りながらこちらに歩いてくるキャバ嬢。
その姿に心躍る僕。

 

キャバ嬢「おはよう。昨日はちゃんと寝れた?」
一夜明けて自然とタメ口になっている感じに嬉しくなる僕。
僕「疲れてたからすぐ寝てもうたわ」

 

青い空、白い砂浜、キモい嘘

 

キャバ嬢「じゃあとりあえず水着に着替えてくるね」
そう言って更衣室の方に消えていくキャバ嬢。
水着というワードに敏感に反応する石垣童貞。
今日一日彼女を独り占めできる喜びと、石垣童貞を捨てることへの若干の寂しさを感じながら待っていると、とうとう水着に着替えた彼女が戻ってきました。

 

水着に着替え、少し照れくさそうに小走りでこっちに向かってくる彼女。
その仕草に胸がときめく僕。
一夏の思い出が始まろうとしていたその時でした。
彼女の水着姿を見て、僕は驚愕しました。

 

彼女の背中に、どでかい昇り龍のタトゥーがあったのです。

 

僕は一瞬目を疑いました。
しかし、何度見ても彼女の背中には、ゴリゴリの昇り龍のタトゥーがあしらわれていました。
南国によく合うオレンジ色のビキニ、それをしっかりと着こなす抜群のプロポーション、しかしそんなことよりも、背中に昇り龍のタトゥー。

 

青い空、白い砂浜、昇り龍のタトゥー。

 

ワンポイントのハートのタトゥーや、安室ちゃんが入れていたようなトライバルのタトゥーならまだしも、背中の昇り龍は流石に童貞でも手を出すことを躊躇います。

 

え? 絶対そっち系やん?
確かに見ようによっちゃなんか修羅場をくぐってきた雰囲気もあるよな?
もしかして石垣島におるのも、どっかの組から逃げてきたみたいなことなんか?

 

色々な猜疑心が頭の中を駆け巡ります。
コンプライアンスがどんどん厳しくなる芸能界において、昇り龍のタトゥーが入った女性に手を出すのは、あまりにもリスキーです。

 

朝イチで突きつけられるゲームオーバー。
しかし、ここから一日中彼女とは一緒です。

 

ビーチを嬉しそうに走る昇り龍。
海に入り気持ち良さそうにする昇り龍。
一休みしてかき氷を食べる昇り龍。

 

何をしてても昇り龍が目に入ってきます。
そして昼から参加したシュノーケリングツアー。
なぜこんな白い体のクソチビ出っ歯が、昇り龍の女を連れてるんだ?
という他のツアー参加者達の不思議そうな目。
綺麗な熱帯魚を見るシュノーケリングツアーの筈が、熱帯魚よりも遥かに色鮮やかな昇り龍に目が行きます。
途中から合流したまなぶも、昇り龍を見てびっくりすると同時に、僕への哀れみの目を向けていました。
そんなこんなで、ようやく地獄の昇り龍ツアーが終了しました。
ここからなんとか他の女の子に乗り換えれないものか?
と足掻こうとした下衆でしたが、この後も夜ご飯を食べる約束をしていたことを思い出しました。

 

石垣島最後の夜、詰み。

 

落ち込んでいる僕に、追い打ちをかけるような出来事が降りかかってきました。
夜ご飯を食べるべく向かった沖縄料理屋で、まなぶの別の友達2人も合流してご飯を食べることになりました。
若い女子と男前でガッチリした体型の男性でした。
どこからどう見てもカップルに見える2人でしたが、聞けば東京の新宿2丁目のゲイバーで知り合った飲み友達とのこと。
そう、男性のほうは、男性にしか興味のないタイプの方だったのです。

 

あまりそういう方と喋る機会もないので、みんな興味津々に質問したりと、思いのほか会話は弾みました。
これはこれでなんだかんだ楽しいなと思っていた矢先のことでした。

 

僕「どこに泊まってるんですか?」
男「あっ、僕まなぶさんのキャバクラの女子寮に泊めてもらってます」

 

嫌な予感がしました。
もうそこで止めておけばいいものを、全くブレーキは効きませんでした。
僕「ちなみに昨日って何時ぐらいに部屋に帰ってきました?」
男「昨日ですか?昨日は3時ぐらいです」
僕「あのー、もしかして何回か出たり入ったりしてました?」
男「昨日は帰ってきてから一回コンビニに行きましたけど?」
心臓の鼓動が早くなるのが分かりました。
僕「もしかしてなんですが、泊まってるのって、廊下の一番手前の部屋ですか?」
男「そうですよ」

 

僕の向かいの部屋でした。
つまり僕は、この男のドアの開け閉めにムラムラさせられた挙句、自慰行為に及んだのです。
その事実を知った瞬間、シーサーのような険しい顔で彼を睨みつけていました。

 

オレは一体この島に何をしにきたんだ?
そんな思いに苛まれながらも、もう何もかもがどうでもよくなり、昨日の一部始終を全員の前でカミングアウトしました。
まなぶは怒るどころか、更に哀れみの目を僕に向け、向かいの部屋に泊まっている男は、
「えー、なんか嬉しいですー」
と、言っていました。
もはやこの目の前の男で、石垣童貞を捨ててもいいかもなとすら思いました。
ご飯が終わり、店を出る間際に、まなぶが僕に2万円を手渡してきました。

 

ま「これでデリヘル呼びや」
同級生からのガチの2万円のサプライズ。
昨日まで「いらんことするなよ」と言っていたにもかかわらず、呼んでいいという許しをくれ、しかも現金まで手渡そうとしてきています。
この島に来てから、何から何まで面倒を見てもらい、至れり尽くせりのもてなしを受け、最後の最後に同級生に同情までされている。
こんな情けない34歳が他にいるでしょうか?
強烈な自己嫌悪に襲われた僕は、一つの答えを出しました。

 

「あざーす!!!!!!!」

 

どこまで行ってもクズはクズ。
政治家よりも腐りきったゲス献金を甘んじて受け入れるクズ中のクズ。

 

僕は同級生から貰った2万円を握りしめ、スキップで女子寮まで帰り、『海と女は好きですか?』にそっこうで電話しました。
そんなこんなで、結局僕の石垣デビューは、

 

1オナニー、1手コキ、0SEX

 

というほろ苦い成績で幕を閉じました。

 

海と女は好きですか?
その質問に対する僕の本当の答えは、今のところまだ出ていません。

 

一つ言えるとすれば、龍と男よりは好きです。