【第13回】ちゃんもも◎『刺激を求める脳』/真理子#5

文芸・カルチャー

2018/9/6

 それにしても社長ってば、私の顔を見て「少し休んだ方がいいんじゃないか」なんて言っていたけど、失礼しちゃうわね。誰のおかげで未だに芸能プロダクションの社長でいられると思っているのよ。

 そんな暇はないの。

 確かに、幼くしてすべてを失った私を見つけて拾ってくれた恩は感じているけれど、私を含めて数人しかいなかった事務所をここまで大きくしたのは誰だと思っているのよ。

 まだ19になったばかりの私を夜な夜な薄暗い会員制のお店に連れて行って、顔見知りに会えばいつの間にか私を置き去りにしてね。その後どうなるかなんて目に見えていたはずなのに。

 当時の私にはそれを受け入れる以外の選択肢が無かったこと、よくわかっていたでしょう? そのおかげで今があるということを忘れてしまったのかしら。

 私だって迷惑を掛けたことぐらいはあるけれども、休めだなんてひどすぎるわよ。

 でも、そのおかげで思っていたよりも早くあなたに会いに行くことができる。

 まず、どうしようかしら。いきなり会いに行っても都合が合わなかったらいけないから、お手紙でも書いていこうかな? あなた、自分勝手に私の気持ちを勘違いしてしまっているかもしれないし、あなたをどれだけ愛しているか、手紙に書いておかなくちゃ。

 あと、ちゃんと私が来たということを証明するためになにか手土産を添えないといけないわね。なにがいいかしら。手紙を書き終える前までに考えておかないと。

 あなたが一番喜んでくれる日は……。どうせなら今週の金曜日、8月31日の初美座がいいわね。あなたにとって記念日になる日がいいよね。あなたのお芝居なんてまだまだ観られたものではないけれど、千秋楽のお祝いも兼ねてその日にしましょう。

 なんだったらあなたのマンションの鍵が届くのを待ってからでもいいのだけれど、それからではあなたを待たせすぎてしまうから。

 フフフ。あなたのことならなんでもわかるし、あなたに関係するものならなんだって手に入るのよ?

 当然でしょ? だってあなたと私は一心同体。どうしたって離れられない運命なのよ。

 はじめてあなたを受け入れた瞬間にわかったの。あなたが私の運命の人だってこと。身体の芯からこみ上げるなんとも言えないあの感じ、あなたにもあったでしょう?

 だって、私たちは元々ふたりでひとつだったんだから。前世でひとつだった魂が、二つに分かれてあなたと私になったの。私たちが現世で出会うこと自体がとても珍しいことなんだから、もっと喜ばないといけないのよ。

 お洋服は、あなたが大好きな私の胸がよく見える、胸元がうんと開けたドレスにしようかしら。

 あなた、びっくりしてみんなの前でも私の胸に顔を埋めてしまうかもしれないわね。

 そうすれば思い出すでしょう? 私たちが出会って結ばれた日のことを、その日どれだけ愛し合ったかを。

 それがいいわ。そうしましょう。さっそく準備をしなくちゃ。

 それまで私、待ちきれるのかな?

 それにしてもお土産、何にしようかしら?

写真モデル=シイナナルミ
撮影=飯岡拓也
スタイリング=TENTEN