「マンガ図書館Z」に期待することは? 海賊版対策から利便性の高いサービスになるか

社会

2018/9/6

文=まつもとあつし

(記者発表会でプレゼンに臨むマンガ家の赤松健氏)

海賊版からのファイルでもOK。実証実験の狙いとは?

 電子マンガのあり方を変えるかも知れない実証実験が8月から始まっている。マンガ家の赤松健氏が2010年にはじめた「マンガ図書館Z」(開始当時の名称は「Jコミ」)が、電子書籍流通大手のメディアドゥの子会社となってはじめたものだ。

 マンガ図書館Zでは、これまでも絶版となった作品をマンガ家からのデータ提供をうけて広告付きで公開し、その収益を分配するといった取り組みを行ってきた。今回の実証実験ではこれをさらに拡張し、出版社は限定されるものの絶版になっていない作品も対象となり、ユーザーによるデータのアップロードを可能とした。しかも「海賊版サイトからダウンロードしたデータでもOK」としたところにインパクトがある。

 実証実験に参加する出版社は、任侠マンガ『静かなるドン』を長期連載した『週刊漫画サンデー』(2013年に休刊)などで知られる実業之日本社。漫画だけでなく文芸書なども対象となる。

マンガ図書館Z実証実験のデータアップロードページ。文芸書のアップロードも可能だが、データは画像形式に限定されている

 データをアップロードしたユーザーが「報酬を受け取る」という選択肢も用意されている。この実証実験においては、マンガ家(作者)に80%、出版社とデータを提供したユーザーにそれぞれ10%の収益分配を行うという。

 2011年には旧「Jコミ」においてマンガ家の新條まゆ氏の読み切り作品が52万円の広告収入をあげたことも発表されており、閲覧数によってはユーザーにもある程度のボリューム感がある収益がもたらされることが期待される。出版社にとっても電子化のコストを掛けずに、電子書籍のラインナップを増やすことができる。違法に海賊版サイトにアップロードされたデータを、ユーザーのマンガ図書館Zへの投稿によってある意味「公式化」することで、海賊版サイトに対するカウンターともなるというわけだ。

ユーザーの利便性をどう実現するか?

 現在は停止している海賊版サイト「漫画村」に注目が集まった直後ということもあり、マンガ図書館Zの実証実験も「海賊版対抗」と見做されがちだが、本質的にはユーザーの利便性が電子書籍において未だ十分に実現されていないことが根底にある。

 たしかに、マンガを中心に紙と同時に電子版が刊行される作品も増え、電子書籍の売り上げも増加傾向にある。しかし、旧作や文芸・実用書に目を移すと電子化されていなかったり、すでに絶版となっていたり入手困難なケースも珍しくない。さらに、SpotifyやNetflixのように音楽や映画では定額制の普及が進んでいるのに対し、マンガ・書籍の分野では決め手となるようなサービスが未だ登場していない。電子化タイトルが十分ではなく、都度課金モデルにとどまっていることが、違法な海賊版サイトの「支持」につながってしまっているというのが実態だ。

 今回、マンガ図書館Zの実証実験に参加した実業之日本社がアップロード可能作品としてラインナップしたのは「現在刊行していない作品」9000点近くにのぼる。2014年の著作権法改正によって、出版社の出版権は電子書籍にも拡張されることになったが、これだけの作品点数を電子化するには、出版社に多大な手間とコストが掛かることになり、その一方で期待できる売上も限定的なものだ。ユーザーと収益を分け合ってでも、データのアップロード=電子書籍の展開タイトルの拡充というメリットをうけられるのは出版社にとって合理的であると言えるだろう。広告モデルで成人向け作品を除いては無料で読み放題となっているマンガ図書館Zの取り扱いタイトルが拡充されれば、海賊版サイト利用に対しての一定の抑止力にもなるはずだ。

 とはいえ、本丸は「現在刊行されているタイトル」の電子化や、定額制への移行をどう進めていくか、という点であることは、他のコンテンツカテゴリーの動向を見ても間違い無い。あるいは逆に、電子書籍を定額制に移行させないままでも現在の産業規模を維持できるようなビジネスモデルが確立できなければ、海賊版は「ユーザーの支持」を背景に、姿形を変えて再び現れるし、海賊版の有無にかかわらず「ユーザーニーズに応えられない」出版市場や産業規模もさらに縮小してしまうことになるだろう。

 今回、マンガ図書館Zを運営するJコミックテラスにはメディアドゥに加え、講談社も出資を行うことが発表されている。講談社はこの実証実験にはまだ名乗りをあげていないが、人気タイトルを数多く抱える大手出版社が、マンガ図書館Zのような新しい取り組みに積極的に参加することにも期待したい。