死体の髪をむしる老婆 生き延びるための罪は許されるのか――芥川龍之介「羅生門」

文芸・カルチャー

2018/9/9

『羅生門・鼻 (新潮文庫)』(芥川龍之介/新潮社)

 物語の舞台は平安京。日暮れどき、ひとりの身分の低い男が、都の正門である羅生門の下で雨宿りをしていた。その頃京では災害が頻発し、人々は飢饉に苦しんでいた。羅生門は荒れ果て、引き取り手のない死人が放棄される始末。生活のあてのない彼は、いっそのこと盗賊になってしまおうかと悩んでいた。

 男が夜を越すために門の上へ登る途中、人の気配がした。恐る恐る覗いてみると、猿のようなひとりの老婆が、女の死体の髪の毛を引き抜いていた。これを見て憎悪に駆られた男は老婆の前へ歩み寄り、どうしてそんなことをするのかと問い詰めた。

 老婆は「奪った髪でかつらを作って売るための行為だ」と説明し、さらに続けて、「死人の髪をむしるのは悪い行為だろう。だが生きるためには仕方のないことだ。この女は生前、干した蛇を魚の干物だと偽って売り歩いていた。それも生きるための行為だ。だから、この女は私の行為を大目に見てくれるだろう」と語る。

 老婆の話を聞いた男は、老婆の着物の襟を掴みながら、噛みつくように言った。「ならば、俺がこの着物を脱がせて盗んでも恨まないな。俺もそうしなければ、死んでしまうのだから」と。

 老婆の着物を剝ぎとった男は、しがみつこうとする老婆を蹴飛ばし、駆け下りていった。男の行方は、誰も知らない。

文=K(稲)