ビジネスマンに必須の教養が一気につかめる!【連載】第3回『隷従への道』

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更新日:2018/9/20

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ハイエクが感じたイギリスの危機とは?

 ハイエクが『隷従への道』を書いたのは、第二次大戦の終結間近の1944年。当時のイギリスでは「社会主義的な計画経済」が大ブームだった。

 アメリカは1930年代、ケインズ理論の実践(というか社会実験)ともいえる「ニューディール政策」を実施した。その内容はご存じの通り、政府による市場経済への介入つまり一種の計画経済だ。それまで「市場は自由放任」というアダム・スミス以来の常識にとらわれていた経済学者たちは、このやり方に驚き、感心した。しかもケインズはイギリス人。イギリスでは計画経済に対する評価が、一気に高まった。

 だがハイエクは、そこに「全体主義」の危険性を感じていた。

 全体主義とは「個人の思想や生活は、国家全体の利益に従うべき」という考え方だ。全体主義では、国家の要求が、すべての個人の好みや望みに優先する。そのため国家は、あらゆる手段を使って、個人から選択の自由を奪う。これがもし計画経済からくるものならば、計画経済はイギリスにとって、万能薬どころか“毒”だ。それが示す道は「希望への道」などではなく、自由を圧殺する「隷従への道」だ。

計画社会は必ず「独裁」につながる

 ハイエクは、計画経済の弊害を訴える。

 たとえば世間には「独占の弊害をなくすためには、計画経済が必要」という意見があるが、これも疑わしいと彼は見る。確かに、技術革新の成果として大企業の独占が進んだ場合、それは産業支配を助長する由々しき事態だが、それならば独占は、まず「資本主義が高度に発達した国」で起こらないとおかしい。

 だが真っ先に独占が現れたのは、産業の未熟なアメリカとドイツだった。ということは、現実の独占は、産業発展の帰結ではなく、国家の手助けという「計画的な意図」をもったものが多いことになる。そもそも民間だけで起こった独占ならば、政府が「独占禁止法」という強制力を発動すれば、再び競争環境は復活する。

 また彼は、「ごく少数の計画者」による経済運営も危惧する。社会主義国でいえば、共産党のトップにあたる人たちのことだ。仮に彼らが、金正恩みたいな理不尽な独裁者ではなく、高潔な理想主義者であったとしても、すべての人の価値観をカバーできる計画など立てられるわけがない。

 ということは、現実の計画経済では、「何だこれ? こんなの一体誰の得になるんだよ!」と叫びだしたくなるようなストレスフルな計画を、多くの国民が強制されることになる。そうこうするうちに、気がつけばかつての理想主義者たちは、いつの間にか「絶大な権力を握る危険な連中」となり、「俺たちのやり方に文句をつけるな!」という心の狭い姿勢を取り始める。

 一途な理想主義者ほど、狂信者への変貌は早い。こうして計画経済は、最終的に誰にとっても理不尽で耐え難い世界を完成させる。ハイエクが求める計画は、そうした「全知全能の独裁者」を必要とせず、相互調整を行う方法である。

 その他にもハイエクは、計画経済と民主主義は相いれないことも指摘する。

 何百万人もの幸福や福祉は、「たった1つのモノサシ」では測れない。計画経済はそれを無理やりやろうとするため、必然的に多様な意見は無視する。専門家を重視し、議会と多数決は軽視され、細かい利害調整はなされなくなる。それは民主主義ではない。

 当然の帰結として、計画社会は必ず「独裁」につながるのだ。

〈プロフィール〉
蔭山克秀●早稲田大学政治経済学部経済学科卒。代々木ゼミナール公民科講師として、「現代社会」「政治・経済」「倫理」を指導。最新時事や重要用語を網羅したビジュアルな板書と、「政治」「経済」の複雑なメカニズムに関する本格的かつ易しい説明により、「先生の授業だけは別次元」という至高の評価を受けている。