まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍 第6回 電子書籍と相性のいいジャンル(コンテンツ)とは?

更新日:2013/8/14

拡がる書き手と読み手の裾野

ちば :それにしても、このアプリを見ていても、ものすごい量の作品がありますね。いくらマンガに比べて作るスピードが速いといっても、ちょっとびっくりします。

まつもと :各社のライトノベルへの参入が相次いだこともありますが、2011年には1000タイトル近い作品が刊行されていますね。

ちば :1日3冊以上・・・とても読み切れません・・・。

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まつもと :絵心が求められる漫画家と比べると、小説はチャレンジする敷居が低いということもあるのでしょう。ラノベを展開する各社の新人賞には毎回かなりの数の応募があると聞きます。

ユニークなのは、講談社BOXが展開する「BOX AIR」です。




 

iPhoneやiPad向け電子雑誌として刊行されているBOX AIRですが、毎月新作を募集しています。

ちば :毎月! 審査とか大変そう。

まつもと :その審査の模様もニコ生(ニコニコ生放送)で実況されているんです。しかも応募作は物語すべて結末まで書く必要もありません。アニメ化を前提として募集していて、第二話まででOKとなっています。

ちば :すごい! わたしも応募してみようかなあ・・・。

まつもと :実は審査の模様を取材させてもらったこともあるのですが、主婦や社会人、中高生までさまざまな人が応募してきているのも印象的でした。読み手だけでなく、書き手の層もかなり厚くなっていますね。

ラノベを起点に活躍されている作家さんも増えてきています。「図書館戦争」シリーズで知られる有川浩さんや、「マルドゥック・スクランブル」の冲方丁さんなど――個人的には伝統的な文芸賞よりも、ラノベの新人賞の方が世相や、読者が読みたいものと合っているのではないか、とすら思えてしまいます。

賞へのエントリーとまで行かなくとも、ネット上には様々な小説投稿サイトが存在しています。「小説家になろう」というサイトは、同人やいわゆる二次創作作品で人気を集め月間6億ページビューを集めたとも言われています。

ネット発のコンテンツの源泉

ちば :うーん、ただAppStoreで展開している作品を見ていると、書店に並んでいる作品すべてというわけではないですね。

まつもと :先ほどお話しした各社の戦略ももちろんあるのですが、もう一つの問題として、AppleやAmazonで行われている表現規制があります。

ちば :裸はもちろん、水着もダメというアレですね。絵だけじゃなくて文字でもダメなんですか? たしか、物議を醸した都条例は小説は対象外だったような。

まつもと :いわゆる「児童ポルノ」に該当すると見なされて、審査が降りなかったり、ラインナップから削除されてしまうということは起こっています。もともと、日本の作品に登場するキャラクターは、欧米から見るとその設定以上に幼く見えてしまう、という文化的なギャップも原因となっていると思いますね。

ただ、逆に捉えれば、どうしてもグローバルなルールで運営されるこれらの電子書店に対して、国内ではより柔軟な対応も可能であるはずです。それが全てというわけではありませんが、国内勢がもともと携帯電話での人気コンテンツでもあった強みを活かせる領域ではないでしょうか?――って、あれ? ちばさん?

ちば :ふふふ、やっぱこの作品おもしろい! それではまた次回!

まつもと :早々に切り上げられてしまった・・・。

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■ダ・ヴィンチ電子ナビ編集部:d-davinci@mediafactory.co.jp

 

イラスト=みずたまりこ

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