「本を作ることがゴールではない」出版変革期の“編集者”は何をすればよいのか?

ビジネス

2018/10/26

 9月20日に筆者も理事を務めるNPO法人日本独立作家同盟は、ピースオブケイクの加藤貞顕氏らを招いて、トークイベントを開催した。いわゆる「出版不況」が指摘される中、変化が迫られる編集者の役割を語るというものだ。これは、同NPOが11月に開催する合宿小説創作イベント「NovelJam秋」(www.noveljam.org/)の開催と連動したイベントとなっている。

 大学卒業後、アスキー、ダイヤモンド社に編集者として勤務し、累計発行部数が280万部を超えた『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』)などのヒット作を世に送り出した後、加藤氏は2011年に株式会社ピースオブケイクを設立。その頃ダ・ヴィンチニュースに私が寄稿した記事でも2回お話を伺っている。

まつもとあつしの電子書籍最前線Part1(前編)ダイヤモンド社の電子書籍作り | ダ・ヴィンチニュース(2011年9月5日)

「まつもとあつしのそれゆけ! 電子書籍」 【第17回】cakes(ケイクス)でコンテンツのネット購買をとことん考えた | ダ・ヴィンチニュース(2012年9月7日)

 それから6年あまりが経ち、電子雑誌メディアcakesに加え、誰もがコラムなどを投稿できるnoteも加わり、世間の注目をあつめる記事が投稿されるようになっている。ピースオブケイク自体にも、8月に日本経済新聞社が資本提携することが発表され業界からの関心も高まっている。

 加藤氏が一貫して取り組んできたのは、ネットで文字コンテンツを買ってもらうための仕掛け作りと、読者に支持され結果として「売れる」コンテンツを生み出すための仕組み作りだ。編集者というと「著者を見つけ、原稿を集め、校正を行い本を出す」というイメージが根強いが、加藤氏の取り組みは「単に本を出すだけでは売れない」時代(加藤氏によれば雑誌・本をあわせるとピーク時から1兆円程度市場規模が縮小している)にあって、より本質的なものだ。

 縮小する市場の中での「椅子取りゲーム」は虚しい、と加藤氏。目指しているのは「椅子」そのものを増やすことだ。たしかに電子書籍市場そのものはコミックを中心に拡大は続いている。しかし流通プラットフォームが「他者」に握られてしまっているのは厳しいとも指摘する。そこでできる販促手段は価格を下げることくらいしかないからだ。さらに言えば、「電子書籍」はウェブから切り離されたクローズなパッケージで、メディア・パッケージとしての将来性に疑問を感じたのだという。そういった思索を経て生まれたのが、cakesやnoteというわけだ。ウェブ上で広く読まれることはもちろん、そこで収益が上がることも重視した、と加藤氏は話す。

 そんな中、「編集者」はどんな役割を担っていくべきなのだろうか? 加藤氏は「本を作ることがゴールではない。それ以上に伝えること、コンテンツを売ること、その結果クリエイティブが継続できることがゴールだ」と強調する。それは伝えること・売ることをゴールに置いてコンテンツの企画を考えることなのだ。特にネットで小説の面白さを伝え、売るといった際には、特定の層に深く「刺さる」内容を著者に生み出してもらう必要がある。そこでまず編集者の手腕が問われるというわけだ。

 本は静的なコンテンツであるのに対して、Twitterに象徴されるようにネットでは情報が動的な存在として、常に移り変わっていく。そんな場(市場)に、ターゲット(読者)に響くような様々なコンテンツを届けていく。それはファンを集め、彼らと継続的なコミュニケーションを図ることだ。そして、必ずしも著者がコミュニケーションに長けていたり、自分が「何」を伝えればファンに刺さるメッセージとなるのか自覚的であったりするわけでもない。著者と併走し、メッセージやそれを届ける手段を吟味するスキルとセンスが編集者には求められる。

 加藤氏は「もしドラ」や堀江貴文氏の「ゼロ」の例を挙げながら、そういった現在の編集者に求められる要件を来場者からの質問に答えながら紹介していった。またイベントでは、前回の「NovelJam」に編集者として参加した谷口恵子氏を招いて、実際に創作を行った際、チームを組んだ著者とのコミュニケーションや、完成した電子書籍のPRをどのように図っていったかを聞いている。

 NovelJam秋の参加者申し込みは既に締め切られているが、11月の開催に向けて観覧などのリワードを用意したクラウドファンディングも実施中だ(https://motion-gallery.net/projects/noveljam2018)。新しい環境の中で生まれる作品とクリエイターに注目しておいてほしい。

文=まつもとあつし