HOMEMADE家族・KURO処女作『マン・イン・ザ・ミラー 「僕」はマイケル・ジャクソンに殺された』/第17話

エンタメ

2019/4/18

 ヒップホップグループ「HOME MADE 家族」のメンバー、KUROさんが「サミュエル・サトシ」の名で小説家デビュー! ダ・ヴィンチニュースでは、その処女作となる『マン・イン・ザ・ミラー 「僕」はマイケル・ジャクソンに殺された』を40回にわたり全文公開します!

 本作は、マイケル・ジャクソンになりきってパフォーマンスをするエンターテイナー(インパーソネーター)を題材に、KUROさんが取材を重ねて書き上げた渾身のフィクション。この小説のモデルになった人物は、マイケル・ジャクソン本人に「Excellent!」と言わしめた程のクオリティを誇っていた。だが、突き詰めれば突き詰めるほど次第に評価は“自分”にはなく、“マイケル”であるという動かしがたい事実が立ちはだかり、似せれば似せるほど、あくまでも「模倣品」とされ、その狭間で彼は苦しむことになる。マイケルに夢中になることで得た沢山の仲間と心を通わせ合いながらも、すれ違いや悲しい別れなど、主人公を取り巻く環境は激しく変化していく。自己とは? 芸術とは? 友情とは何なのか? そして2009年6月25日、絶対的な存在であったマイケルの死を迎え、インパーソネーターが最後に導き出した答えとは……

第17回

「はい。大丈夫です。その日は仙台から入って渋谷に向かいます。はい。多分、間に合うと思います。引き続きよろしくお願い致します!」

「お! 一斗、また営業入った?」

 二つ折りの携帯を閉じると、目ざとくフレディーが練習を中断して話しかけてきた。オパちゃんは離れた場所で一人で淡々と練習している。

「ちょっと移動が大変だから、またみんなに無理してもらうことになるかもしれないです」
「全然いいよ! てか俺たち、もうそろそろこっちだけでメシ食えるんじゃね!? 俺の計算だと今月はバイトよりも収入が多いぞ」

 さすが経理周りを担当しているフレディーだ。出納帳をつけているだけのことはある。

「いやー、どうですかね…」

 と言いながらも、僕もまんざらではなかった。コングくんがプロデュースした第一回目の『NEVERLAND』は満員御礼で大成功に終わり、それ以来ネット、フリーペーパー、ラジオなどメディアを使った宣伝や著名人の口コミなどでイベントは毎回チケットが飛ぶように売れた。

 コングくんの奇想天外な発想と派手な舞台装置、プロのディレクターによる映像や音楽を駆使した演出からは毎回学ぶことが多く、何よりも客ウケがすこぶるいい。このイベントのおかげで、マイケルをただ踊っているだけでは届かなかったファン層にも最近はリーチし始めた。

 パフォーマンス後の楽屋には多くの関係者が詰めかけるようになり、このごろは名刺もよくもらう。それがきっかけで地方に呼ばれることも少しずつ増え、今もこうして営業が入った。さらに端役だが、最近はミュージックビデオにもマイケル役として呼ばれることがあってプロの現場に顔を出す機会も増えた。稀に芸能人の方から「ファンです」なんて言われると恐縮してしまう。すべては『NEVERLAND』とコングくんのおかげだ。

「ITTO! 女の子、二人連れてきたよ〜」

 僕らが練習する安田ビルまでタチアナが連れてきたのは、背の低い目がクリクリとした若い女の子とスパイラルパーマがよく似合うハーフっぽい女の子だった。

「スミダと言います。よろしくお願いします!」

 背の低い方がペコリと頭を下げると、続いてスパイラルパーマの方が「ドモ。ジュディスです」と言って片言の日本語で挨拶した。

「あれ? 外国の方?」
「ハイ。トウサン、アメリカじん。マザーがにほんじんネ」
「おお!!!」

 なぜか僕とフレディーがそれだけで一緒に驚いた。

「な〜に、今どきハーフだけで驚いてるのよ」

 タチアナが腰に手を当てて呆れている。

「ITTOがダンサーに女の子が欲しいって言うから頑張って探してきたんだからね! ちょっとは感謝しなさいよ」
「あ、ありがとう〜。助かるよ!」

 最近、色んなイベントに呼ばれることが増え、ステージの規模も大きくなりイメージを再現するのにダンサーの数が圧倒的に足りないことが苦痛になってきた。特に女性の存在だ。タチアナもいるにはいるが、僕の彼女になってからは、なんだか調子が狂ってどうもやりにくい。それに彼女はダンサーではないし、立場的になんだか指示しにくい。

「スミダさんは、何歳?」
「下の名前はユーコなんで、ユーコで大丈夫です! 18歳です!」
「18歳!? おお!!!」

 またしても僕とフレディーが、若いというだけで一緒に驚いた。タチアナが僕の脇腹にエルボーを食らわす。一瞬、息ができなくなる。

「ダ、ダンスの経験は?」
「小さいときからダンスをやっていました。高校の頃、全国大会で優勝したこともあります!」
「全国で優勝!? おお、すごい!!!」

 初めてタチアナも一緒になって驚いた。

「え、じゃ、もしかして体柔らかいの??」

 僕がそう聞くと、ユーコは一瞬不思議そうな顔をして「まあ、開脚ぐらいならできます」と答えた。

「え? オパちゃんも体が柔らかいんだよ! ちょっと二人で開脚してみてよ!」

 オパちゃんの腕を無理やり引っ張って僕が連れてくると、オパちゃんは嫌がりもせずに開脚を始めた。ジュディスが不思議そうな顔でポカーンとしている。

「ちょっと何言っているのよ、ITTO!」

 タチアナの声も無視して僕は携帯を取り出して「さ、ほら! 二人でやってみて!」と彼女を促した。

「え、カメラってなんですか?」
「開脚しているところをちょっと撮ってみたいんだ」
「これって、面接ですか?」
「ま、そんなもんかな。ほら、早く!」

 彼女は戸惑いながらもオパちゃんと向き合って両手を取り、一緒に開脚を始めた。

「いいね〜。もっとグッと引っ張ってみようか〜」

 僕は夢中になって色んな角度から動画を撮った。

「おい、一斗…」
「はい?」

 さっきまで一緒にはしゃいでいたフレディーが、急に冷めた口調で話しかけてきた。

「誰も突っ込まねーからあえて言うけど。お前、AV監督みたいだぞ」
「え?」

* * * * * * * *

 二人が加入したことで女性が三人になり、現場が一気に華やかになった。それまでは男だらけの部室のような状態だったが、空気も良くなって清潔感が出てきた。女性とは不思議なものだ。こんなにも僕をやる気にさせてくれるものなのか。

 さらに予定が合うときはコングくんも黒人役で友情出演することが増え、ほぼレギュラーメンバーのようになってきた。仲間にすると、これほど心強い存在はいない。こうして役者が揃い、僕たちMJ-Soulの快進撃が始まった。

 六本木、麻布、中目黒、渋谷、恵比寿、三宿など都内のライブハウスはもちろんのこと、大学の学園祭から地方営業まで、横浜、大阪、福岡、長崎など呼ばれたら全国どこへでも行った。

 特にコングくんが話を持ってくることが増えてきた。彼の営業力と人脈が、僕らをまだ見ぬ世界へとどんどん押し広げていく。なかにはクローズドイベントと言って、結婚式の余興や企業が主催する社員向けのイベント、そして芸能人のプライベートパーティーまであった。これらは守秘義務があったり、一般のお客さんが入れなかったりするのでクローズドと呼ばれるのだが、その分ギャラがいい。

「うひょーー!!! コングくん、もっとこういうイベントやろうぜ!」

 終演後の帰り道にフレディーが明細を見ながらコングくんの肩に腕を回した。

「まあまあ、落ち着いて。これはまだほんの序章に過ぎないから! MJ-Soulは本当のマイケルみたいにいつか東京ドームまで行くんだ!」
「おお! 東京ドーム! さっすが、目標がでかい! 俺なんて最近ようやくバイトを辞めて喜んでたよ!」
「え、フレディーさん、バーテンの仕事辞めたんですか?」

 ユーコとジュディスが駆け寄って、キャッキャッ言っている。

「あたりめーよ。もう眠くてやってらんねーよ!」
「ええ! あたし、20歳過ぎたら飲みに行こうと思ってたのにーーー」
「むしろ俺がバーをオープンしてやるよ! だははは」

 そのとき、一人ちょっと離れて歩いていたオパちゃんが、急に血相を変えてつかつかとフレディーに近寄っていった。

「貴様。何でそんなに羽振りがいいんだ?」
「あ〜?」

 瞬間、オパちゃんがフレディーの胸ぐらを激しく掴んだ。

「ちょっと、やめるっす!!」

 コングくんが、間に割って入った。しかし、オパちゃんがそれをさらに突き飛ばす。ユーコが悲鳴を上げて「キャー」と言うと、ジュディスが「Oh〜!」と英語で言った。

「オパちゃん!!」

 突然の出来事で固まっていた僕が、あわてて止めに入ると、オパちゃんはフレディーから手を離し「最近、金の流れが不透明すぎる。使い込んでいると思われてもしょうがないだろ」と吐き捨てた。

「なんで、そんなことを…」
「てめーーー!! ふざけんなよ!!!!」フレディーが殴りかかろうとした。
「ちょっと、やめて!!」

 ユーコが泣き出して、一瞬の空白ができた。

 オパちゃんは僕の方に向き直ると、とても淋しそうな目で「…このままでいいのか? いっくん」と言い残して、反対方向へと歩いていった。

第18回に続く

サミュエルVOICE
スミダ・ユーコは、実際にマイケルのバックダンサーだったユーコ・スミダ・ジャクソンから。有名な『ブラック・オア・ホワイト』の最後に人の顔がモーフィングで変身していく中の一人だ。ジュディスは、映画『This Is It』でも活躍していた日系のシンガー、ジュディス・ヒルから取っている。