藤本さきこの本喰族!! 社会現象を巻き起こした名著『若きウェルテルの悩み 』ゲーテ /連載第5回

文芸・カルチャー

2019/6/25

 私にとって本は、食べて吸収し細胞にするもの。

 食べることと同じくらいを作っていく。

 食物が肉体のエネルギーを作るなら、書物は魂のエネルギーをつくる。

 ひとつだけ違うことは、魂には「お腹いっぱい」という感覚がないこと。

 お腹いっぱいにするために読むのではないのだ。

 この連載「本喰族」では、読んだ本の中から頭に残っている「言葉」から次の本をリレー形式で検索し、魂がピンときた本をどんどん喰っていきたいと思います♡

『若きウェルテルの悩み 』ゲーテ

「もし生涯に、“ウェルテル”が、自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」という、ゲーテの言葉が有名な、ゲーテの代表作にもなった1冊。

 ゲーテ自身の恋の体験を作品化した小説だそう。

 絵描きだったウェルテルは、ある小さな村に逗留する。
 そこでロッテという娘に出会い、恋をする。
 しかし、ロッテには誰もが認める婚約者がいた。
 ウェルテルは実らぬ恋に絶望し、ピストル自殺した。

 死を選ぶまでの心の動き、葛藤を繊細に大胆に表現した作品。

 読んでいて一度も笑顔になることがなかった。
 むしろ「うわぁ……」と気分が悪くなる作品。

 文章はさすがゲーテ。
 その表現は甘美で、雄大で、清らかに心の中に染み込んでくる。
 それなのに、なぜだろう。この気持ち悪さは「感情」の繊細な吐露のせい?
 いや……、違う。

「感情」から派生する次の「思考」の破滅具合に嫌気がさすのだ。
「何も、そんな風に考えなくても……」と、思わず声をかけたくなってしまうような、病的な思考。

 1774年、当時のヨーロッパではここまで心理的な抒情が吐露された小説は前例がなく、出版と同時にセンセーションを巻き起こした。
 この本が出版されてからは、「ウェルテル熱」という社会現象が起こり、共感した若い人々がこぞってウェルテルの服装をして、自殺を論じ、考え、決行した。
 キリスト教で禁じられている「自殺」をラストに掲げたのも、革命的だったらしい。

 驚くことに、あのナポレオンが陣中に携えて7回も読んだそう!

 しかし、若者の模倣自殺とナポレオンの決起とは、真逆の要素を持つような気がする。
 当時のヨーロッパでは「感情」という「見えない何か」を、ここまで言葉を尽くして表現した作品が出版されたことで、自分自身の「見えない何か」に光が当たったのだろう。

そして明らかになった「感情」というものすごいエネルギーを、手に入れたのではないだろうか。豊かな感受性は、ものすごいエネルギーを持つ。

 そのエネルギーをどう使うか、は自分次第。
 破滅にも、繁栄にも、自由自在に使える。

 破滅的なウェルテルの生涯もこんなにも美しく、愛への喜びに満ちているならば、結局その思考は「好み」ってことになるのだろうか。

 どんな人生も、【感じる】ことこそが、「喜び」なのかもしれない。
 そうなるとやはり、「もし生涯に、“ウェルテル”が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」というゲーテの言葉は、その通りだ。

 ウェルテルが盛んに「私の魂がロッテを求めている!」というので、キーワード「魂」で美味しそうな本を探します。

文=藤本さきこ

第6回に続く