「妻とのセックスがつまらない」『中高年のための性生活の知恵』⑥

恋愛・結婚

公開日:2019/7/10


「セックスを避けられるようになって…もう愛されていないのかもしれない」そうした寂しさをひっそりと抱えている中高年の男性や女性は多いようです。男性は、中高年期の女性の心と体の変化を知らない。女性は、中高年期の男性の心と体の変化を知らない。そのことが、寂しさの根っこに存在しています。気持ちのすれ違いは、お互いの心と体の変化を知ることで解決するはず。中高年期ならではの豊かで穏やかな性を楽しみ、愛で満たされた毎日となるように――。

男性がセックスを断る理由(金子和子)

■「女じゃなくて母親に思えて無理」の裏にある本音

 セックスレスは女性側が拒否することで生じるばかりではなく、女性からのセックスの要求を男性が断って起こるケースもあります。そこにはどんな理由があるのでしょうか。

よく聞くのは、
「もう身内だからその気になれないんだよね」
「女というよりも母親に思えてしまう……」
という理由です。

 実際、異性というよりも「家族の一員」という意識が強くなり、妻のことを異性として見られなくなる、という夫はまったくいないわけではないでしょう。

 しかし、その言葉に乗じている男性が、かなりの数いるのではないかとわたしは思います。

 カウンセリングを重ねていると、その裏側に「男としてドキドキさせてほしい」という本音があることが分かるからです。

「新しい刺激が欲しい」というのは、人間なら自然なことです。

 結婚して子どもが生まれてからは、妻を誘っても「疲れているから」と拒否されることが増えてきて、そのうち「夫婦なんてそんなもの」と気後れして、だんだん誘えなくなった……という男性は少なくないでしょう。

「刺激」というのは、妻が女性らしさを保つことも当然ながら含みますが、そうしたセクシュアルなものばかりではないことを、ここでは特に強調したいと思います。つまり、「男性として求められている」「男性として扱われている」ということが、男性の自信となり、男性らしさを保つ刺激になっているということです。

 女性が「いつまでも女として扱ってほしい」「きれいだと言われるときれいになれる」と求める気持ちと変わりません。

 妻から「男性」として接してもらえないと、当たり前ですが「男性としての機能」を発揮するモチベーションも落ちてしまうということです。

 加えて働き盛りの忙しい時期になれば、妻や子どもたちとのコミュニケーションも減り、たまに家にいるときには邪魔にされたりするケースも。家庭内での居心地が悪くなってくると、男性はリラックスができなくなってきます。

 精神的にリラックスをしていないと、男性は精神的にも機能的にもセックスをする意欲が湧いてこないため、セックスレスに……というケースもよく見られます。

 男性として扱われていない。

 家庭内でリラックスできる時間も場所もない。

 主にこの2点が、男性がセックスを拒否する二大要因となっているのですが、男性自身がこのことにはっきりと気が付いておらず、先に述べたような「妻が母親に思えて無理」という言葉にすり替わっていることが非常に多いといえます。

■処方箋は「男性らしく扱う」+「リラックス」

 男性が拒否するケースの処方箋が見えてきたところで、セックスレスを解決した好例をご紹介しましょう。妻の変化をきっかけにセックスができなくなった夫のケースを紹介しましょう。

 40代男性のKさんは「奥さんに対して性欲が持てなくなった」というご相談でお一人でわたしのところへいらっしゃいました。Kさんの妻は、結婚したころはKさんいわく「スタイルが良くてとてもきれいだった」とのことでした。ところが、妻は出産をきっかけに体重が増加し始め、中高年になった今では「結婚当時とは別人に思えるほど太ってしまった」と言います。それから、妻のことは変わらず大好きだけれども、いざというときにできなくなってしまった、ということでした。

 わたしはすぐに、解決は難しくないと感じました。なぜなら、二人の関係性は変わらず良好だったからです。夫婦間のセックスは、性欲を満たすだけのものでなく、ベースは関係性にあります。そこが保たれていること、そして原因が非常にクリアであったことから、妻が夫を「刺激している要素」に気が付けばすぐにセックスは復活しますし、実際、そうなりました。

 Kさんは帰宅後、それとなく自分の希望を妻に伝えました。すると、セックスレスに同じく悩んでいた妻は即座に反応し、ダイエットを成功させて昔の見た目を取り戻したそうです。そして無事、Kさんも性欲を取り戻すことができました。

「なんだ、結局見た目なんだ」

そう思われるかもしれません。しかし、もし見た目が良いことだけがKさんの性欲を引きおこすとしたら、別に他の女性を探せばいいだけです。Kさんは見た目に爽やかで経済的にも余裕があったので、新しい相手を探すことは難しくなかったことでしょう。しかし、Kさんは妻が大好きで、妻に対して再び性欲を持って、セックスというコミュニケーションを復活させたい、という希望をお持ちでした。だからこそ、悩みが深かったのです。

そしてK夫妻の関係性が良いからこそ、妻は見た目を変えようと努力しました。

 その裏には「いつまでも妻として、女として愛されたい」という女性らしい感情があります。「夫のためにいつまでもきれいでいよう」とする妻は、性的な刺激を保つ姿勢と意識を持つパートナーです。夫からすると、その姿は「自分を男性として扱ってくれている」と映るのではないでしょうか。

 夫から拒まれているという妻は、一度自分自身を振り返ってみるのが、セックスレスを解決する良いきっかけになるかもしれません。

「わたしは出会ったころのような見た目を保つ努力をしているだろうか」

「付き合い始めのように優しく笑いかけているだろうか」

 そう自問自答をしてみるのもよいでしょう。「どうせ若い子にはかなわないから無駄」と思うかもしれません。しかし、繰り返しますが、ただ性欲を満たすだけが夫婦間のセックスではありません。いつまでも相手を大切に思い合う関係性が、セックスのベースです。

■「妻とのセックスがつまらない」

 男性がセックスを拒否する理由には、ED、つまり勃起障害という身体的な原因があることも。中高年になると増えてきますが、自分の不全を恥じてパートナーに伝えておらず、妻はなぜ避けられているのか分からない──といったケースも珍しくありません。勃起障害については、198ページから詳しく取り上げていますので参考にしてください。

 また、妻がセックスを拒否する理由に「夫とのセックスが楽しくない、つまらない」というものがありましたが、夫側にも同じ理由を挙げる人はまれにいます。

 まれ、というのは、中高年世代は「セックスは男がリードするもの」という強い思い込みがあるため「妻が無反応」なのは、自分のテクニックが足りないから、自分がちゃんとリードできていないからだと、自分の責任として考えている夫が多いからでしょう。そして、自分がリードしなければと思っている男性と同じ数くらい「素晴らしいテクニックでわたしを喜ばせて」という女性もいます。

 それでお互いに満足しているならば問題はありませんが、もしセックスレスや一方的な満足だけを満たすものになっているならば、考えを変える必要があるでしょう。

 自分ばかりが話していて、相手がうなずきもしなければ笑いもしない……ノーリアクションの会話はつまらないと思います。セックスもコミュニケーションの一つと先ほどお伝えしたように、ただ体を投げ出しているだけの相手に対してはつまらないと感じるのが普通ではないでしょうか。

 先に、セックスに対する希望をすり合わせる重要性をお伝えしました。

「今日はどんな気分?」

 と聞いてみたり、そのハードルが高そうでしたらそっと相手の体に触れて、反応をよく観察し、喜んでいたら続ける──などから始めてみるのも、夫にとって性欲を目覚めさせる「刺激」につながるかもしれません。

<第7回「性欲よりも『女性として見られたい』に続く>