「セックスするまでの心の準備は男女で違う」『中高年のための性生活の知恵』⑧

恋愛・結婚

公開日:2019/7/12

セックスの満足感は男性の方が高い(荒木乳根子)

■女性はセックスで承認欲求が満たされる

 セックスレスの実態について触れてきましたが、次に、セックスがある夫婦のケースについて見ていきましょう。わたしたちは、セックスによる肉体的満足感と精神的満足感について調査を行いました。結果は次のグラフの通りでした。


 セックスには、オーガズム・射精などの肉体的満足感だけでなく、幸福感・満足感などの精神的満足感がありますが、その両方とも「いつも得られる」「だいたい得られる」男性が約8割いるのに対し、女性は6割強です。逆に「あまり得られない」「得られない」は男性が約1割に対して、女性は約3割もいました。

 その結果から、精神的にも、肉体的にも女性よりも男性の方がセックスに対する満足度が高いことが分かりました。

 この差は一体どこから生まれるのでしょうか?

■セックスへ至ることができる心の準備は男女で違う

 先にも触れましたが、多くの男性は、女性と同じくセックスは妻とのコミュニケーションだと思っているほか、自分の愛情表現として捉えています。ただ、女性と男性ではセックスへ至るための心の準備に違いがあるようです。

 例えば、夫婦でけんかしたときのことを考えてみましょう。「こんな人とセックスなんてできない」と思いがちな妻に対し、夫の方は「仲直りしよう」と即愛情を示すためにセックスに至ることができます。

 この男女の違いについて、医学博士であり性の研究者であった奈良林祥先生は、「性欲のもとであるアンドロゲン(男性ホルモン)の保有量が男性の3分の2くらいしかない女性は、性ホルモンの足りなさを精神的なもの、心の動きで補わなければならない」(『女、50歳からのHOW TO SEX』)と解説しています。

 つまり女性は心が整わないとセックスを受け入れられないし、気持ちを乱すものがあるために集中できないと、セックスによる満足感を得るのも難しいということです。

 このように男女間でセックスの位置付けには違いがあります。この辺りに、夫婦のすれ違いが潜んでいそうな気がします。

 さらに、夫は自分とのセックスで妻が満足していると思っている傾向が強いといえます。しかし、実際には、上のグラフの結果のように、10人に3人の妻は肉体的にも精神的にも不満足であるというのが真実です。

 残酷なようですが、男性が「良かったか? 良かったか?」と聞くから仕方なく、「良かったよ」と答えている妻は確実にいるということです。

 あるアンケートに回答してくださった中高年女性の次のような声は、そのことを実感させてくれます。

 夫が思っていること、妻が思っていることに、大きな違いがあると感じています。夫は自分が満たされると、妻も満たされると誤解しているということです。

 わが家は舅、小姑と同居しています。まず、そのストレスがあります。

 また、寝室もプライバシーがそれほど守られていない状態です。ですので、夜の就寝時に求められると、ありがた迷惑だと感じるときもあるのです。

 しかも自分の満足が妻の満足だと思い込んでいる。この自己満足には内心あきれています。しかし、古い考えなのかもしれませんが、夫に従うのが夫婦だという固定観念があり、拒むこともできません。

 30年以上夫婦でいることもあり、「仕方がない」と諦めています。

 この女性の声を見ても分かりますが、特に性交渉に関して、男性は自分が満足すると、妻も満足したと思ってしまう傾向があります。自分に自信があるからこそ、妻に「いいか? いいか?」と確認することもできるのでしょう。

 同時に、「いいか? いいか?」と聞くのは、男性が自分の気分を高めるための一つのツールかもしれません。「俺の女だ」「俺が喜ばせてやってる」と、支配欲や征服欲のようなものを満たしつつ、高ぶりが欲しいという男性としての思いです。

 ですから、女性はある意味、聞き流してもいいのかもしれません。いちいち真摯に反応する必要はないのです。

 でも、男性の深層心理をよみとけば、「俺が妻を守らなくちゃいけない」と思っていることにもなります。今の若い男性たちは、結婚すると自分の妻のことを「俺のヨメ」と言いますが、この言葉にも、「俺の女だ」という意識が表れている気がします。草食系だといわれている若い世代でも、やはり男なのだなと感じます。

■満足感を得る第一歩は「動作で伝える」こと

 では、男女の満足度の違いをどう改善していけばよいのでしょうか。

 性的な発言は、タブーの時代に生まれ育った現代の中高年女性にとって、直接的に言葉で「○○してほしい」と言うのは抵抗があることでしょう。しかし、例えば次のように伝えると、うまくいくようです。

・自分が触れてほしいところに相手の手を優しくとって、持っていく
・自分が触れてほしいところへ触れてくれたとき、してほしいことをしてくれたとき、いつもよりもオーバーに喜びを表現する
・本当に良かったときにだけ「今の、すごく良かった」と伝える
といった具合です。これぐらいだとはしたない印象にもならないので、グッとハードルが下がるというものです。

 コツは、言葉を使わないで伝えること、そして「不満」「イマイチ」のときと、「今のは良かった!」「うれしい」というときの反応にメリハリをつけるということですね。

 ただし、注意したい点があります。行為が終わった後に、「次はこうしてね」と告げると、男性は「なんだ、本当は良くなかったんだ……」と傷ついてしまいがち。次に挑もうというモチベーションが下がってしまい、逆効果になってしまうかもしれません。セックスの最中に前述の要領で伝えましょう。

 いつもと違う喜びもセックスの最中に伝えるからこそ、男性はうれしくなって「よし、もっと満足させてあげよう」と思うわけです。

 行為の後に告げるのは満足が得られたときの「今日は良かった。うれしかった!」というプラスのフィードバック。男性は次も、と頑張る気になります。タイミングにはくれぐれも注意してください。

■女性を本当に満足させるために

 お互いの真の満足感を得るための男性へのアドバイスとしては、先にもお伝えしたように、女性というものは「いいか?」と聞いても「良くなかった」とは決して答えないということを覚えておいてほしいということです。

 自分が高ぶるために感想を聞きながら行為をしたいというのであれば、もっとゆったりとした雰囲気の中で相手に触りながら「一番感じるのはどこ? こうやったらどんな感じ?」というように聞いてみると良いでしょう。女性もフィードバックしやすく、本当に良い場所を探ってあげやすくなります。

 よく女性から「迷惑だった」「すごく嫌だった」と聞くのは、パートナーが週刊誌などで仕入れたセックスのハウツーを試そうとしてくることについてです。

 聞いた中には、あまり反応が良くないと「この記事の女はこんなに喜んでいるのに、お前は不感症なんじゃないか」と暴言を吐く夫までいました。そういう男性ほど、目の前の女性の様子をまったく見ていないことが多いようです。

 満足のいくセックスに必要なのは知識やテクニックではなく、思いやりのある観察です。マニュアル頼みにするのではなく、目の前の女性の反応から学んでいくことが大切であると思うのです。反応を観察する、表情をよく見るほか、「こうやったらどう?」「ここをどうしてほしい?」「これは痛い? それとも感じる?」と具体的に聞いていくのも良い方法でしょう。

 加えて、女性は「見られる自分を気にする存在」だということも覚えておくとよいでしょう。

フランスの哲学者、シモーヌ・ド・ボーヴォワールの著作『老い』の中に、「客体(対象)としての女性が幼少期から彼女の肉体のイメージ全体と自己を同一視するのに対し、男の子は彼のペニスに第二の自我を見いだす」とあります。

 つまり、女性は肉体のイメージ全体に、「自分がどう見られるか」に、自己愛があると考えられるわけです。

セックスの際、男性は「挿入し射精すること」「支配すること」が喜びかもしれませんが、どういうことで満足感を得るかも男女で違いがあります。

 女性ももちろんオーガズムが得られれば、深い満足感を覚えます。しかし、「きれいだね」「体が素敵だね」と褒められたり、コミュニケーションによって心を満足させることでも喜びを得たいのが女性です。

 ぜひ、男性は相手の女性に対して「好きだよ」「あなたに触っていると気持ちがいいよ」など、女性が喜びそうな優しい言葉を掛けてあげてください。

■前戯の前の「言葉の前戯」

 本項の最後にお伝えしたいのが、セックスに至るまでの前段階についてです。

「さあ、始めよう」といきなりセックスを始めてはいないでしょうか。

 さっきまで「おいお茶!」「風呂沸かしてくれ!」と上からものを言っていたり、テレビを見てゲラゲラ笑ったりしていた夫が、夜になるといきなりベッドにごそごそ入ってきて触り始める──これでは妻はとてもではないけれど受け入れる心と体の準備ができません。

 女性は心も体も潤うまでに時間がかかる生き物です。

 二人でベッドに入って、言葉や軽いスキンシップなどによるコミュニケーションの時間をぜひとっていただきたいと思います。

「今日は大変だったよな、ありがとう」「いつも助かっているよ」というように、日常の妻をねぎらう言葉を掛けてあげると、女性の心は解けていきます。
その上で「この肌触りがいいんだよな」「抱きしめているとホッとする」などと話し掛けながらスキンシップをとっていく──すると、その後のセックスの反応も、お互いに温かいものに変わるはずです。

 前戯の前の「言葉の前戯」ともいえる、こうしたコミュニケーションが、妻の心を潤わせるのです。言葉やスキンシップによる準備の時間があれば、女性も自然と「また抱き合いたい」という、性に対する前向きな気持ちになってきます。

<第9回「セックスをつまらなくさせる『女性らしさ』の呪縛」に続く>