「肌と肌の触れ合いだけが 伝え合えること」『中高年のための性生活の知恵』⑩

恋愛・結婚

2019/7/15

肌と肌の触れ合いだけが伝え合えること(堀口貞夫・雅子)

■人は肌の触れ合いで心がケアされる

 これまで、「性」に対する思い込みにより、セックスを心地よいものではなくしているのではないかということを、荒木先生が解説してくれました。ここでは、
セックスをもっとシンプルに考えてみたいと思います。

「カンガルーケア」という言葉をご存じでしょうか。

 この近年よく行われているお産の現場の医療習慣で、赤ちゃんが生まれるとすぐにお母さんの裸の胸の上に赤ちゃんを寝かせ、肌と肌が触れ合うようにしながら抱っこさせることをいいます。

 もともとは、1979年にコロンビアで生まれたケア方法で、低出生体重児の保育器が不足していた問題を、お母さんの体温で温めてもらうことで解決しようとしたことから誕生しました。

 切迫した環境で誕生したアイデアだったものの、この方法はその後母子の愛着形成や母親の精神的な安定に有効だということで、今では母子の触れ合いとして多くの医療機関が取り入れるようになりました。

 これは、赤ちゃんとお母さんが行う肌の触れ合いですが、生まれたときから大人になるまでこの肌の触れ合いというものは連続しています。小さいころであれば、お母さんが傷口に優しく手を添えて「痛いの、痛いの、飛んでゆけ!」と言ってくれたことで、不思議と痛みが和らいだという経験があるでしょう。

 また、緊張した友人の肩をたたいて励ましたり、スポーツの試合前に円陣を組んで気合を入れたりするのもよくある光景です。

 以前、わたしが緊急の帝王切開の際に麻酔を担当していたとき、動揺していた妊婦さんに「大丈夫ですよ、安心してくださいね」とそっと肩に手を当てたことがありました。するとその妊婦さんの表情がスッと変わり、安心した様子になったことは、今でも印象的なシーンとして覚えています。

 信頼で結ばれた関係性がある間で交わす肌と肌との触れ合いは、大変有効な癒やしにつながるコミュニケーションなのです。

 医師と患者さんでさえ、肌と肌が触れ合うことで安心感を与えられるのです。

 これが親密な関係性であればより大きな安心感を与えられるでしょう。

 肌と肌との触れ合いは、心を通わせていることが大切です。思春期などには、好きな人とちょっと手が触れ合っただけでドキドキし、幸せな気持ちになった思い出があるのではないでしょうか。

 セックスがなくても、こうした心が癒える肌のコンタクトさえあれば、セックスレスとは言えないとわたしは考えています。

 けれども、一般的にセックスレスとは、挿入ありきのセックスを前提に考えられています。しかし、挿入がなくても、心と心を通わせたセクシュアル・コンタクトを十分に持てていれば、セックスレスではないわけです。

 セクシュアル・コンタクトとは、キス、ペッティング、オーラルセックス、裸で一緒に寝ることなどが挙げられます。これらは挿入に関係なく、お互いの気持ちが通っていればできる、性的な行為です。

 特に中高年夫婦の場合、夫の男性機能の低下などにより、挿入が困難なカップルもあるでしょう。年を重ねるにつれ、体調や病気、性交痛などで、挿入や射精が難しくなる現実もあります。

 しかし、そんな場合でも、肌と肌との触れ合いなら毎日の生活の中に取り入れられます。それこそ臨終のときまで続けることができるのです。

 日本は、欧米のように日常的にハグをしたり、キスを交わしたりする文化がないため、スキンシップをとることに抵抗があるかもしれません。

 しかし、手をつなぐだけでも、セクシュアル・コンタクトとしての癒やし効果が確かにあります。セックスレスで悩んでいるのであれば、「どうやってセックスを行うか?」を考えるのではなく、まずは1日1回でも、心が安らぐような肌と肌の触れ合う機会を探ってみてはいかがでしょうか。

<つづきは書籍をご覧下さい>