成功ビジネスのすごい仕組みをビジュアルで学べる! カネ編/『ビジネスモデル2.0図鑑』③

ビジネス

公開日:2019/7/21

 うまくいっているビジネスモデルにはどんな共通点があるのか? 「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」と4カテゴリーに分けた全100事例を図解。すべてを同じフォーマットで比べながら、各企業の「すごい仕組み」を学べる一冊です。第3回目も「カネ」カテゴリーから2社を紹介します。

『ビジネスモデル2.0図鑑』(近藤哲朗/KADOKAWA)

【カネ】Spotify ~アーティスト、レーベル、ユーザー全員がハッピーに~

 スウェーデン発の「Spotify(スポティファイ)」。月間1億6000万人以上のユーザーが利用する世界最大級の音楽ストリーミングサービスだ。Spotifyの登場には、ある背景があった。2006年の創業当時、音楽の違法ダウンロードや海賊版の流通が社会問題として挙げられていた。これらの最大の問題はアーティストへ収益が分配されない点にある。共同創業者の1人であるダニエル・エク氏は、この問題に対して、アーティストやレーベルに対価が支払われる仕組みを設計した。

 実際、Spotifyがリリースされた2008年から3年後の2011年には、スウェーデン国内における楽曲の著作権問題が約25%減少したという実積がある。成功要因のひとつは、そのビジネスモデルにある。収益源はユーザーからの月額課金と広告の主に2つだが、特にユニークなのが広告モデル。Spotifyは独自の広告配信システムや広告メニューを保有しており、これまでにNetflixやBOSEなど大手広告主からの出稿実積もある。月額課金に加えて、広告からの売上も立てることでサービス利用料無料でもアーティストやレーベルにきちんと報酬を支払うことができる。Apple MusicやLINE Musicなどの競合他社は月額課金を前提として、無料トライアル期間を設けているが、Spotifyでは一部の機能に制限はあるものの期間無制限かつ無料でフル再生や楽曲選択が可能(PC/タブレット)。アーティスト・レーベル・ユーザーの全員がハッピーになる仕組みをつくり上げたことに感動する。

 広告モデルに加え、課金売上の部分も強み。980円の月額課金はプレミアムプランという位置づけで用意されていて、ユーザーはより高音質の曲を聴けたり、広告がなくなったり、オフライン再生が可能になったりする。ユーザーの44%がプレミアムプラン登録ユーザーであり、売上の9割がこのプレミアム課金からだ。

 楽曲の著作権問題やレーベル・アーティストからの批判などの報道が目立つ同サービスだが、積極的なテクノロジー企業のM&Aや2018年にIPOを実施するなど動きをどんどん加速させている。さらなる音楽体験向上のためにどんな打ち手を用いるのか楽しみだ。

【カネ】ポリポリ ~“炎上”することなくネット上で議論ができる~

 テクノロジーによりさまざまな業界で変革が起きている中、テクノロジーがまだ足を踏み入れていない領域がある。政治の世界だ。イノベーションが起きていない、この市場に可能性を感じたのが、「ポリポリ」というアプリが生まれたきっかけだ。

「ポリポリ」は、政治家とネット上で健全なコミュニケーションを促すアプリ。テクノロジーの力によって、ネットでは炎上しがちな政治に関する議論を健全化させ、市民と政治家の関わり方に革命を起こそうとしている。このビジネスのすごいポイントは3つ。

 1つめは、誹謗中傷が起こりやすい政治への議論を健全に行える仕組みをつくっていること。アプリ内での発言を、市民同士で評価できるようになっている。図解にもあるように、市民間での発言の評価が信頼スコア取得へのひとつの要素となる。そのため、特定の誰かへの批判ではなく、建設的な議論が行われる仕組みができ上がっているのだ。

 2つめは、市民と政治家のコミュニケーションを直接的に行うことができる点。市民はポリポリから提供されるアンケートに答えたり、政治家に質問をしたりすることで自らの意見を発信できる。政治家はアプリ内で市民から受ける質問に直接答えることもできる。アプリという市民に馴染みのあるツールを使用し、若い市民にも今までは取っつきにくかった政治に興味を持ってもらうことができる。

 3つめは、「Polin」というポリポリが発行する通貨と同様に扱えるトークンを、市民・政治家・企業に購入、また使用してもらうことにより、独自の経済圏を生み出す可能性があること(Polinの配布は2018年9月から開始予定)。ポリポリ内の情報交換はすべてPolinを介して行われるようになるため、ポリポリはPolinの発行益によって利益を得ることができる。Polinが発行されていないため、まだサービス自体に利益はないが、2018年7月にはNOW株式会社から資金調達するなど、サービス拡大に向け全速で進んでいる。

<第4回に続く>

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●プロフィール
近藤哲朗
株式会社そろそろ代表取締役。1987年生まれ。千葉大学大学院工学研究科修了後、面白法人カヤックに入社。ディレクターとして、Webサイトやアプリの制作に携わる。2014年、面白法人カヤックで出会ったメンバーと、社会課題の解決を目的とした事業や組織を応援するため、株式会社そろそろを創業。その一環で、noteで「#ビジネスモデル図解シリーズ」「#ビジネスワード図解シリーズ」を発表したところ、NewsPicksで合計20,000Pickを超えるなど、大きな話題を集める。現在は約50人体制の有志組織「ビジネス図解研究所」を運営し、「ビジネス×図解の追求」をコンセプトに、大企業やNPO法人向けにビジネス図解のコンサルティングを行う。

Twitter:@tetsurokondoh(チャーリー)
note:https://note.mu/tck