藤本さきこの本喰族!! せかせかした心を立ち止まらせてくれる「お話」 『パパの電話を待ちながら』ジャンニ・ロダーリ /連載第9回

文芸・カルチャー

2019/9/22

 私にとって本は、食べて吸収し細胞にするもの。

 食べることと同じくらいを作っていく。

 食物が肉体のエネルギーを作るなら、書物は魂のエネルギーをつくる。

 ひとつだけ違うことは、魂には「お腹いっぱい」という感覚がないこと。

 お腹いっぱいにするために読むのではないのだ。

 この連載「本喰族」では、読んだ本の中から頭に残っている「言葉」から次の本をリレー形式で検索し、魂がピンときた本をどんどん喰っていきたいと思います♡

『パパの電話を待ちながら』ジャンニ・ロダーリ

 仕事で世界中を忙しく飛び回っているパパは、毎晩、家に必ず電話をかける。

 娘が眠る前に「お話」を聞かせてあげるために。

 電話だから、ひとつの話がとても短い。

 本の中には、パパが娘に、毎晩聞かせてあげた「お話」がずらっと並ぶ。

 キラキラのキャンディーショップみたいな夢の一冊!

 チョコレートでできている道、流れ星、魔法のステッキ、アイスクリームの家、空飛ぶ回転木馬……。小さい頃ならその言葉を聞くだけでときめく話が次から次へと続く。

 子どもの頃、「こうだったらいいのにな」と誰でも想像したようなこと。

 私はよく、蛇口からコーラが出たらいいのに、と思っていた。そんな感じ。

 作者ジャンニ・ロダーリは、国際アンデルセン賞を受賞した人で、グリム、アンデルセン、宮沢賢治といった童話作家だそう。

 私が幼い頃、枕の下にいつも置いていた本がある。

 それは童話の全集で、その中から寝る前に一つか二つ選んで、繰り返し読んだ。

 ベッドに入ってから朝起きるまでの時間は、私にとって、これから始まる長い自由時間のように感じ、「今日はどれを読もうかな」と枕の下から本を出す瞬間はこの上ない至福だった。

 でも今。

 この本を読みながら、焦っている自分がいることに、気がついてしまった。

 一つ一つの「お話」が、ゆっくりすぎて、穏やかすぎて、幸せすぎて、夢すぎて、焦るのだ。

「毎日を味わって暮らしたい。そんな余裕がある暮らしをしたい」といつも思っているのに、久しぶりにお伽話のような本を読んでいたら、「これを読んで一体何が得られるのだろう……」と心が焦っているのだ。

 私は何をせかせかしているのだろうか。

 あまりにも心がうるさいので、途中で一度、本を閉じた。

 一気に読んでしまう類の本ではない。書いてある文字に価値があるというより、「お話」から存分に想像を広げることに価値がある。自分で味つけをしていく本なのだ。

「お話」の中にあったような、“流れ星を作る魔女”が発明した機械で、流れ星の様々な色、輝き、大きさを想像したり、“とんがりのない国”で警官の剣先の柔らかさや丸さを思い描いたり、“図書館に住む猫” が食べたいろんな本のことをゆっくり思い描きたい。

「お話」をのんびり読んで、ただただ想像してワクワクする、ドキドキする、そんなゆとりのある暮らしがしたい。

 この本が私を立ち止まらせてくれた。

 次は、「図書館」で美味しそうな本を探します!

文=藤本さきこ

第10回に続く