本当に賢い人ほど「やさしい言葉」を使っている? /Mr.マリックの『超魔術の裏技術』⑤

ビジネス

公開日:2019/9/13

ハンドパワーの正体は「プレゼン力」だった!?
Mr.マリックが実演販売員時代から長年培ってきたコミュニケーションの裏技術をみっちり伝授。これを身につければ誰の心でも誘導できるようになる。
あなたの人間関係やビジネス、キャリアが激変すること間違いなし!

『超魔術の裏技術』(Mr.マリック/ワニブックス)

対話 告白 接客 に使える超魔術【1対1のコミュニケーション】

■大人と子供の思考回路

 日本人と外国人とどちらに接するかによってコミュニケーション方法を変えるべき、というお話をしてきました。ここからは日本人に絞っていきます。

 私は男女比や年齢層に応じて、ステージ構成やコミュニケーション方法を変えています。一概には言えませんが、年齢層が高い=人生経験が豊富と考えていいでしょう。あらゆる経験をしてきていて知識も豊富ですから、ちょっとやそっとじゃ驚いてくれません。ハンカチや鳩を出すマジックには興味を持ってくれませんし、造花などの作り物やいかにも仕掛けがありそうな箱を持って行った時点で、苦笑いされてしまいます。あらゆるものを見飽きてしまっているんですね。

 人生経験が豊富であると同時に先入観が強いのも特徴です。「超能力なんて絶対に存在しないことは知っているよ。御託はいいから、早く面白いことをやってごらんなさい」という目で私を見てくるわけです。子供たちは違います。素直に受け止め、驚いてくれます。ここでひとつ、私のショーを事例に出してみましょう。ハンカチがスマホを貫通するというマジックです。

【子供とのやり取り】

 子供たちにハンカチとスマホを見せます。
「はい。では今からこのハンカチが、このスマホを通り抜けますよ! よく見ててくださいね……ではいきます!」
 実演します。
「わー、すごい! すごい!」
「ハンドパワーです」

【大人とのやり取り】
「どなたか、スマホをお借りできませんか……ありがとうございます。いい色ですねー」
 大人たちは愛想笑いしてくれます。私はお借りしたスマホを指でコンコンと弾きます。
「うーん、硬いですね。ここに何かが通り抜けるなんて、絶対にあり得ないですよね?」
 そりゃそうだ、という心の声をもらいます。大人たちは軽く頷きながら、静かに笑って見守っています。
「では今から、このハンカチがこのスマホを通り抜けます」
 やれるもんならやってみろ、という顔でみんな見守っています。
「壊してしまったら弁償しますから……」
 借主を見て呟き、軽く笑いを入れ、構えます。みんな前のめりになって見つめます。
「では……………いきます……!」
 実演します。
「……おお!」
「ハンドパワーです」

 いかがでしょうか。マジック内容は同じですが、話法も雰囲気づくりも全然違いますね。子供に対してはストレートに、鮮やかにいけばいい。大人に対しては言葉を尽くさなければなりません。

 子供は通り抜けるところを見逃さないように、真剣に見つめています。スマホだろうが、木の板であろうが、何であっても変わりません。マジックと超能力の区別もついていないし、マリックがやるんだから通り抜けるはず、と信じてくれているのです。私がもしも失敗したら、大人はニヤリとするでしょうけど、子供たちは泣いたり怒ったりすることもあるのです。

 大人は疑い深く見ています。暴いてやろう、と必死にタネを探しています。ですから私はあらかじめ用意してきたスマホではなく、見物客の一人から私物を借ります。これでスマホにタネを仕込むことはできない、ということを周知します。

 次にスマホを指で弾きます。みんな当たり前に知っていることですが、改めてスマホが硬い代物であることを念押しします。そして、硬いスマホに物が貫通するなど物理的に不可能であるという、当たり前のことを再確認します。

 タネがないこと(もちろんありますが)をさんざん見せて、常識的な確認作業をして、やっと世界観に入ってきてくれるのです。

■「小学4年生」という境界線

 子供というけど、ずいぶんざっくりしているな、とお思いではないですか?
 そうです。子供といっても6歳の子と12歳の子では全く意味が変わってきます。マジックを見せた時の反応も全く違うものです。子供はどこで大人の見方に切り替わるか?

 私はその境界線をこんな風に定義しています。
 サンタクロースを信じている子と、いないことを知っている子です。信じている子たちは、マジックを魔法だと信じています。サンタクロースの正体が両親やおじいちゃんおばあちゃんだと気づいている子たちは、マジックをマジックとして捉えます。

 私の経験上、10歳、つまり小学4年生がその分かれ目です。もちろん個人差はあります。1年生でも、ませた子であれば信じてはいない。しかし、私の経験によるおおよその統計上では、4年生です。4年生はサンタクロースがいないことを完全に知っています。

 3年生と4年生。たった1年ですが、子供たちは驚くほど成長します。この1年間で考え方が一気に大人に近づくのです。女の子たちの初潮や、男の子たちがエッチな本に興味を持つのも、ちょうどこの境界線のあたりなのです。

 だからこうも言えます。マジックは小学4年生以上の人たちを、3年生以下の時代へ引き戻すためのものだと。ディズニーランドでは大人たちも童心に返りますね。私もそんな魔法のひと時を提供したいと思っているのです。

 4年生以上になると、私がマジックを披露している際、思わず手を伸ばしてくるのです。トランプを触って確かめようとしたり、箱をひっくり返してみたり。タネがあるはずだ、とわかっているんですね。そしてそれを推理して暴こうとする。手を伸ばすか伸ばさないかの違いだけで、思考回路は大人と同じなんです。

 この小学4年生を境界線として、気を付けていただきたいことがあります。それは話の仕方です。

 3年生以下の子供に話す際は、うんと目線を下げて、わかりやすい言葉を選んで話してあげてください。

 4年生以上~大人に話す際は、4年生にわかるように話をしてください。4年生に対して、3年生以下を相手にするように話すと、幼稚になってしまいます。かといって大人に対する話し方を4年生にしても難しすぎる。たとえば「今から空中浮遊をやってみます」というと、4年生には難しいかもしれません。「今から人が浮き上がります!」と言い換えればいい。これなら1年生でも大人でもわかりますから。

 私はテレビでも小学4年生にわかるように話をしていました。何が言いたいかというと、わかりやすく話すことの重要性です。

 話の理解度というのは、人それぞれ違います。大人でも話が通じにくい人もいれば、中学生でも理解度の高い子もいます。しかし話す側からは、相手がどのくらい理解してくれているかはわかりませんよね。うんうんと頷いているからといって、本当にわかってくれているかどうか。
 だったらどうすればいいか? こちらができるだけ、わかりやすく話すしかありません。その基準が小学4年生という境界線なのです。

空中浮遊×
人が浮き上がる〇
貫通×
通り抜ける〇

 42ページに戻ってみてください。スマホの例を出しましたが、私は「貫通」という言葉を使っていません。「通り抜ける」がベストだからです。

 4年生にわかる言葉であれば、当然大人もわかります。基準を常に4年生に合わせておけば、理解度の低い人に通じない、という心配がぐっと減ります。

 やたら難しい言葉を使いたがる人がいますよね。横文字を連発したり。知らないほうが悪い、とでも言わんばかりに。年配者や専門知識のない人などを置いてきぼりにするような、話し方をする人たちがいます。

 専門用語でしか伝わらない部分は当然、その用語を知っている者同士において、使うべきです。しかし、専門外の方も混ざっている中では、できるだけやさしい日本語を用いるべきです。

 賢い人ほど、やさしい言葉で、難しい世界をわかりやすく説明できます。難しい言葉や横文字をやたら使う人は、自分のレベルの低さを披露しているだけです。恥ずかしいからやめたほうがいい。

 わかりやすく話すことは、相手を馬鹿にすることではありません。思いやりです。


【次回に続く!】