男も女も経験する?「賢者タイム」/『生き恥ダイアリー』⑤

エンタメ

2019/9/25

生き恥ダイアリー

著:
出版社:
日本文芸社
発売日:
『生き恥ダイアリー』(カレー沢薫/日本文芸社)

語るは恥だが役に立つ! 淑女たちよ、下ネタは男のもののみに非ず…。
奇抜だけれども知っていればいつか役立つ(かもしれない)、カレー沢薫の珠玉のコラムが開幕!

「最近『賢者タイム』という単語をよく見かけます」
 担当からそう言われて度肝(どきも)を抜かれた。「そんなの室町時代からある言葉じゃないか」と。

 ごめん嘘だ。
 嘘だが、前からある言葉なのは確かであり、少なくとも旬ワードじゃない。

 だが、よく考えたらこの「賢者タイム」と言う言葉は、おそらくネット発祥である。よってネト廃ひきこもり野郎の私にはお馴染みでも、ネットを使うのは出会い系かHPで「嬢」の顔を確認する時だけと思われる担当には、聞きなれない言葉だったのだろう。

 おそらくゴラク読者は「担当側」の方が多いと思うので、「賢者タイム」について説明させてもらおう。

 賢者タイムとは、射精後、今までの興奮が嘘のように消え失せ、冷静になった状態のことを指す。

 急に青年実業家のようにクールかつクレバー、さらに俗世から解き放たれたような気分になるため「賢者」という言葉が使われているのだろう。

 だが担当曰(いわ)く、「賢者」は過大評価すぎるそうだ。
 何故なら、終わった後というのは「とっとと帰りたい、こいつと別れて一人で吉野家でも行きたい」としか考えておらず、全然賢くない、と言うのだ。

 確かに、使用済みオナホにしか見えなくなった女相手にどうでもいいピロートークをするよりは、吉牛に行った方が有意義だと判断できるのは相当クレバーといえるが、賢者以前にそれはクソ野郎である。

 では「賢者タイム」なんて自惚(うぬぼ)れもいいところで、「クソ野郎タイム」が正しいかというと、そうとも言い切れない。

 何故なら担当は、この賢者タイムを「セックス後」だと考えている。これがゴラク脳、あっち側の人間の発想だ。

 違うのだ。元々「賢者タイム」は「オナニー後」を表現した言葉なのである。
 セックスなら終わったあと、急に相手がうざったくなるクソ野郎タイムに入るかもしれないが、オナニーの場合、元々一人なため、「咳をしても一人」ならぬ「射精しても一人」という、自由律俳句の世界に入っていくのである。その寂(さ)びた気持ちは「賢者」と言ってもいいのではないか。

 実際は「終わったら帰れよ」と、さっきまでのおかずが表示されたブラウザを落としているだけかもしれないが、セックスよりオナニー後の方が何かと「深く」なるのは確かである。
 しかし実際は、賢くなる必要があるのは「セックス後」の方だろう。

 オナニー後なら、終わった後、下半身裸に靴下着用、頭にプレゼント企画で当てたAV女優の使用済みパンツをかぶったまま、誰に気を使うことなく吉牛に行ってもいいのである。

 だがセックスの場合、本当に終了後、女をとっとと帰して吉牛に行ってしまったら、次に性欲が帰ってきた時、もうその女はヤらせてくれない可能性がある。

 よって内心では、どれだけ「オナホがしゃべるな」と思っていても、次のためにオナホの機嫌を取っておく小賢しさが必要である。

 そう考えると、「風俗」は合理的システムだ。相手がいるからオナニーのような虚しさもないし、終わった後相手の機嫌を取る必要もない。それこそ「終わったら帰れよ」と言っていいし、嬢もその方がありがたいだろう。ウィンウィンである。

 まるで、風俗をヘビーユーズしているだけのゴラク編集部がアッ○ル社のブレイン集団か、というぐらいクレバーに見えてくるが、多分気のせいだ。

 では、女にも賢者タイムがあるかのかどうかというと、ある。
 しかし、男のように物理的に何か出たりするわけではないので、そこまで急激な落差はなく、一度イッて引いても、また短時間で持ち直すことが可能である。

 しかし、イクと「下がる」ことには変わりなく、挿入前にイクと「今日はもうこれで終わりにしないか」という気分になるし、その後の持ち直しに失敗すると「さっさと入れてとっととイッてくれ」としか思えなくなる。

 男は少なくともセックスが終わるまでは賢者にならないが、女はセックスが始まる前から「菩薩(ぼさつ)モード」な場合があるのである。

 だからといって、「よっしゃー! ちゃっちゃと終わらせてくれやー!」と大の字M字開脚になったら男が気分を害すのもわかっているので、「最後まで高いモチベーションで完走します」という演技をしなければならない。

 こう考えると、セックスというのは機嫌の取りあいであり、終わった後も取り続けなければいけない、まさに「家に帰るまでがセックスです」だ。実に面倒である。

 その点オナニーなら気も金も使わず全て自分の采配で行うことができ、終わったあと賢人にまでなれる。

 意識高い系が大好きな「合理的」とか「コスパ」という観点で見ると、どう考えてもセックスよりオナニーの方がすぐれているのだ。

「まだセックスで消耗してるの?」
 そういう時代が来ているのかもしれない。


【次回に続く!】

この記事で紹介した書籍ほか

生き恥ダイアリー

著:
出版社:
日本文芸社
発売日:
ISBN:
9784537262032