毎月70万以上も親の預金が使い込まれていた! 家族の財産を守るには…/『プロが教える 相続でモメないための本』⑥

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公開日:2020/1/25

相続争いは他人事と思っていませんか。「遺産が少ない」「家族はみんな仲がいい」「信頼している税理士がいる」1つでも当てはまる方、あなたは相続争いの当事者になりやすいタイプです。
3000件の相続を手がけたプロが教える、相続をスムーズに進めるためのノウハウを数多く掲載! 事前に学んで、相続争いを回避しましょう。

『プロが教える 相続でモメないための本』(江幡吉昭/アスコム)

毎月70万以上の現金が消えていたが証拠はないとつっぱねる長女

 母親の四十九日を終えた後、3姉妹は悲しみに暮れながら、母親の暮らした実家を片付けはじめた。

 このとき、けっきょく遺言らしきものは見つからなかった。

 地元ではそれなりの会社を経営してきた一族なので、次女の奈津美と三女の秋絵は、基礎控除の4800万円(3000万円+600万円×3人)を優に超える財産が残っていると考えていた。

 なぜなら、一次相続(父の死亡時)で母が億を超える現預金を相続したことを姉妹は知っていたからだ。

 ところが、母の財産をいくら調べても自宅以外の目立った遺産は見つからない。不審に感じた奈津美と秋絵は、父の会社の会計を見てもらっていた税理士に相談を持ちかけた。

 税理士から、とにかく預金通帳を探すように指示されたふたりは、実家を隅から隅まで探しまった。

 しかし預金通帳はどこにもない。

「いくらなんでも通帳がない、なんてことある?」

 秋絵は奈津美に問いかける。

「年金の振り込み用口座だって必要なんだから、通帳がないわけないでしょ」

 しかし、探しても探しても、ついに通帳は見つからなかった。

 長女に問いただすとキャッシュカードはあったけど通帳は見たことがないと言う。

 挙げ句の果てに「お母さんは預金なんてしてなかったんじゃない?」と投げやりに答えてくる始末だった。

 ここから、冒頭の「争族」に発展したのである。

 長女の使い込みを確信したふたりの妹は、訴訟も考えて弁護士に相談した。

 しかし、長女が母の財産を使い込んだという確固たる証拠をつかむことはできないまま、裁判を起こすための金銭的な負担や、世間体などを考えたふたりは、けっきょく泣き寝入りするしかなかった――。

同居の家族は「やりたい放題」になるのが現実

 今回の事例のように、同居の親族が金融機関から生活費をおろしてくる際に現金を着服する例は枚挙にいとまがありません。

 他の親族が離れて住んでいる場合、このような実態は、親が亡くなるまで把握できません。ひどいケースだと、認知症になった親を銀行へ連れ出し、改印までしてお金を引き出す例もありました。

 しかもほとんどの場合、使い込みが発覚したところで後の祭りです。

 よほど強力な使い込みの証拠が出てこない限り裁判で勝つのは難しいでしょう。

 肝心の親が他界した後だと、まさに「死人に口なし」です。

「親の承諾なく(勝手に預金を引き出した)」という点を主張立証するため、「当時の親は事実上の認知症だった」と主張する手もありますが、これも診断書などがなければ正確に立証することは難しくなります。

「まだら認知症」という症状もありえますので、「お金の引き出し当時、その瞬間に本当に認知症状態だったのか」ということは、明確な証拠がないと認定されにくいという面もあります。

 このようなケースで有効なのは成年後見制度です。意思能力があるうちに任意後見制度を利用すれば、親を被後見人とし、子供が後見人になることで、こうしたトラブルを回避する方法です。

 うまく使えば便利な制度ですが、この成年後見制度も万能ではありません。これを利用すると、被後見人(親)の財産は守られる一方、自宅の処分や相続税対策がやりづらくなるデメリットもあります。

 今回の事例では、孫に対して毎年110万円ずつ現金を暦年贈与して相続対策をしていましたが、成年後見制度を利用するとそれもできなくなるでしょう。

 このように、親の同居人の不正が疑われる場合、できるだけ早く相続の専門家に相談するべきです。家族の希望に応じて方針を決め、相続の準備を少しずつ進めておけば、不要なトラブルを防止できます。

 今回のように判断能力が鈍った家族の財産を守る方法として、最近注目されているのが家族信託です。これも万人が利用できるわけではありませんが、かなり有効な解決策となり得るので、以下にご紹介いたします。

争族を避ける対策③
家族信託を利用する

 信託とは、財産を管理してくれる人と契約を結ぶことで、自身の生前の財産の管理はもちろん、自身の死後も財産を適切に相続人に渡したり、配分したりする仕組みです。

 信託には、信託銀行や信託会社など営利企業にゆだねる「商事信託」と、家族や信頼できる人に任せる「民事信託」があります。商事信託をすると信託額に応じた手数料を取られますが、民事信託は家族が受託しますので手数料がそれほどかかりません。このため、近年は財産管理の新たな選択肢として「民事信託」、その中でも家族を受託者とする「家族信託」が注目されています。

 家族信託は、生前の財産管理と死亡後の財産管理を両方行えることが一番のメリットです。

 一般に、人が亡くなると、いったん資産が凍結されてしまい、一定期間さまざまな不便が生じます。しかし家族信託を利用すれば、亡くなった後に財産を誰に帰属させるのかを指定することで、資産が未分割状態で放置されることなく、指定された人に引き継がせることも大きなメリットです。

 ただ、この制度を利用するためには、やはり「信託財産を任せられる受託者(信用できる人)がいるかどうか」がポイントとなるでしょう。

 まだ始まったばかりの制度ですから、信託実務に精通した専門家が少ないこともデメリットではあります。

 逆に言えば、実務を任せられる専門家と信用できる家族さえいれば、かなり有効な手段であることは確かです。

 状況によっては家族信託ではできないこと(遺言も併用しないと解決できないこと)もありますから、家族信託を検討される際には、ぜひ弁護士等の専門家に相談してください。

争族を避けるポイント

①家族信託の活用を検討してみる
②家族信託なら生前に死後の財産管理を委託できる
③家族信託なら特定の家族に財産を使い込まれることを予防できる
④家族信託なら費用(信託自体の手数料)があまりかからない

<第7回に続く>

この記事で紹介した書籍ほか

プロが教える  相続でモメないための本

著:
出版社:
アスコム
発売日:
ISBN:
9784776210672