「今妊娠しても高齢出産かよ!」女としての人生について考えるタイミング/『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』⑦

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公開日:2020/2/2

女の生き方に正解なし! 恋愛、結婚、キャリア、子作り、不倫…。どっちの道を進んでも、どっちも案外つらいもの。A子とB美、どっちが幸せ? 生き抜くためのヒントが見つかる、女たちのリアルな本音対決!

『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』(鈴木涼美/マガジンハウス)

【独身生活と結婚願望】
好きでなくなったら別れる、で、なんでいけないの?

B美 とりあえず卵子は凍結したけど、結婚願望がなくて困る

・36歳
・広告代理店
 プランナー
・独身

 個人主義の時代の、しかも庶民の場合、誰かにプロポーズされた時に首を縦に振るか横に振るかの大部分が、その人への愛情や興味によって決まると考えられるが、それとは別に結婚というもの自体への「したい」「したくない」がもちろん存在する。そしてそれもまた「したい」「したくない」の白黒の間に、「今はしたくない」「まだしたくない」「よくわからない」「したいけど勇気がない」などのグレーの部分が幅広く横たわる。

 10代はもちろん、20代半ば以前であると、むしろほとんどの女性がこのグレーの部分にいて、ものすごく愛に燃えているとか妊娠したとか、強い動機付けでもない限り、突然のプロポーズには戸惑い、すぐには答えが出せなかったり、思い悩んだ末に「あなたのことが嫌いなわけじゃないけど」と歯切れ悪く断ったりする。

 ただ、30代になると女の生殖器官の特性も手伝って、グレーは白側にどんどん傾き、「そろそろしたい」「いい加減したい」と白の厚みが増してくる、というのがごく一般的な場合である。ただ、別に29歳と30歳で性格が全く変わるなんていうことはありえなくて、30歳の誕生日に自分の年齢の響きに慄(おのの)き急に意識が変わるものもいれば、まだまだ他のことに興味があり、響きのおどろおどろしさに気付かない人だっている。

 年齢の前後はあれ、働く女がふと人生について考えるタイミングというのは遅かれ早かれ突然やってくるものらしい。そしてそのタイミングが遅ければ遅いほど、もちろん人生の選択肢は知らぬ間に狭まっている。

 彼女が初めて真剣に女としての人生について立ち止まって考えなくては、と意識したのは昨年のことで、今年、彼女は36歳になる。

「去年のお正月に絵馬に描いてある動物見ながら、何気なく干支を順番に口ずさんだら、あ! 私来年が年女っていうことになるなって気付いて。あー24歳の時におじいちゃんと商工会の豆まきで豆まいたのってもうそんな前か、とか一瞬呑気(のんき)な思い出に浸って、ん? てことは、次は36? ってなって急に焦った。その時は誕生日前だから34歳だったんだけど、もう今妊娠しても高齢出産かよ! って衝撃」

 

 彼女のキャリアは結構華々しい。出身こそ地方の公立高校だが、大学在学中にカナダに1年間留学、そのため同級生から1年遅れて卒業したのち、大手広告代理店にさらっと就職した。当初、営業畑に配属されて思うような仕事ができず、またパワハラ上等な上司とぶつかり合うなどトラブルはあったものの、彼女のことを入社当時から目をつけていた良心的な上司も数多くいたせいか、特例的な異動ができ、希望通りマーケティング関連の部署でメキメキ良い仕事をした。

 給料は申し分なく、オーバーワーク気味とはいえやりがいと楽しさのある仕事は、多少の睡眠不足やストレスを吹っ飛ばす程度には入れ込む価値があった。職業柄、出会う人の数も多く、また目に見えて結果がわかるような仕事、名前が残るような仕事も増えた。潤沢な資金と立場上、見た目に気を抜くことも許されないと思った。器用でセンスの良い彼女は「仕事バリバリ」と「美人でおしゃれ」とを、当然がごとく両立してきた。

 普通以上に満足のいきそうなキャリア人生ではあるものの、もともと起業家精神とクリエイティビティに溢れた若干暑苦しい性格の彼女は、「一生同じ会社で働く気は全然ない」と、仕事以外の活動も精力的に進めた。ソムリエ、調理師、フードコーディネート、野菜ソムリエ、栄養関連などなど、特に食品関係の勉強は惜しまず、教室に通ったり本を読んだりしながらいくつか資格もとった。

「今いる企業は、っていうか日本のそこそこ古い大企業は基本は男がつくったものだから、女の役員がいようが女の新入社員が大量に入ろうが、根本的なところはずっと変わらないと思う。実際仕事してると、男の方が向いてるな、とか思うし、優秀な男の人もまあまあいるし、何十年とかけて男が働きやすいようにつくられてきた体制なんてここから何十年かけたところでそう変わらないよ。それでいいんじゃないかな。だから、女じゃないと魅力が出せない仕事やりたいなと思ってて、アートと料理とか、セラピーと料理とか、ファッションと料理とか、恋愛と料理とか、そういうの組み合わせた起業はずっと考えてた。本当は30歳をめどに独立、とか若い頃は考えてたけど、卒業も1年遅れてたし、それなりに仕事楽しくて遅れてるけど」

 ネット企業に勤める友人と組んで起業する計画はそれなりに現実味を帯びてきて、仕事が休みの日や早上がりができた時はミーティングをしたり、スタートアップのセミナーなどにも出席するようになった。当然、今の仕事は今の仕事で入社から特に産休も大きな病気による休職もなく10年以上働き続けてきた彼女のポジションは、女とはいえ結構重い。

「学生時代の彼氏と結構長かったし、そのあと付き合った二人も両方3年とかは付き合ってたし、だからおろそかにしてる、とかそういうつもりなかったけど、結局、仕事・遊び・起業って時間埋めてったから、必然的に恋愛はおろそかにしてたんだろうね。だってそこしか削るとこないじゃん」

 美容に気を抜かず、仕事も手を抜かず、さらに人以上のことをしようとする彼女は、たまたまタイミングが合ってできた彼氏は数人いたし、そもそも結構モテる方ではあったが、というかだからこそ、自分から積極的に出会いや結婚を考えることはしなかった。

<第8回に続く>

この記事で紹介した書籍ほか

すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない

著:
出版社:
マガジンハウス
発売日:
ISBN:
9784838730766