「念のためのお守り」とりあえず卵子は凍結したけど…/『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』⑧

暮らし

公開日:2020/2/3

女の生き方に正解なし! 恋愛、結婚、キャリア、子作り、不倫…。どっちの道を進んでも、どっちも案外つらいもの。A子とB美、どっちが幸せ? 生き抜くためのヒントが見つかる、女たちのリアルな本音対決!

『すべてを手に入れたってしあわせなわけじゃない』(鈴木涼美/マガジンハウス)

「恋愛が嫌いなわけじゃないし、男いらないとか割り切ってないし、子供作らない、みたいな生き方に決めたつもりもサラサラないけど、どのタイミングでみんな仕事とかちょっと抑えて結婚とかに熱意を出し始めてたの? っていう感じだよ。気づいたら、別に結婚する相手もいない、結婚願望もイマイチ育ってない、周りの女友達どころか、男友達すら結婚しちゃってる、ってほんと取り残された」

 結婚願望は相変わらず子宮の奥に眠ったままだが、別に結婚がしたくないわけでも、子供なんかいらないと決めているわけでもない。単に、まだそれについて真剣に考えるのは後にしたい、というのが本音らしい。

 そんな彼女も別になんの知識も焦燥感もないかといえば別で、高齢出産の年齢となってようやく何かしらの行動を起こそうと、昨年、独身でもできるプログラムがある医院で、卵子の凍結をしてみた。不妊治療を手がけるクリニックは、結婚して妊娠を望んでいる人にのみ門戸を開いている場合も多く、なるべく費用を抑える、といった選択肢はそもそも彼女にはなかった。

 初期費用が20万円ほど、数回の採卵とその保存費用などで、合計すると150万円程度かかった上に、毎年保存費用は別途一つの採卵につき数万円かかる。彼女に支払えない額ではなかったが、何より、仕事をしながらやるには何度も通院する凍結は手間がかかった。かけた時間と費用は「念のためのお守り」と考えていた当初のノリではもったいないものである。

「しかも、そんなに意味ないっていう人も多いじゃん、たかだかタマゴ数個残しといたって、体外受精うまくいくかなんてわかんないんだし、ていうかそもそも受精ってなったら相手いないとできないしね。自然妊娠ならシングルマザーでもできるけど、この歳で、自然妊娠結構難しくない? 会社入って、落ち着くまで仕事に集中してたら30代になってるし、そこから本当にやりたい仕事見つけてそのための努力してたら35歳なんてすぐじゃない? ほんと、女の身体って社会性なくない? いろいろ仕事するのに向いてない。どうせなら、高校生とか暇な時に子供産む方がいい気がする」

 結婚をしない決断も子供を産まない決断もしない彼女は、とりあえず卵子凍結によって決断時期に若干の猶予を持たせたつもりではあるものの、結婚や出産については、まだまだ現実味を持って考えてはいない。30歳頃起業してなんとか35歳頃に出産、と考えていたのは20代前半の話だ。そこからなんの決断もしないうちに、いろいろと取り上げられた気分になるのは、やっぱりそもそも大学進学や企業就職のタイミングとシステムが、女の身体に見合ってないからなのかも、とちょっと思う。

続きは本書でお楽しみください。