「放火してやる、腕を折ってやる」夫の浮気が原因で嫉妬に狂った女/『ざんねんな万葉集』⑤

文芸・カルチャー

2020/1/29

日本人は1,300年前からダメダメで美しかった…!
新元号「令和」の出典となったことであらためて注目を集めた万葉集。その収録歌数は、日本最大の4,516首!
中にはイマイチな歌もあって、カスな奴らが身勝手なイタい歌を詠んでいたりするのです。そんな万葉集から特にざんねんな51首を選抜。愛すべきダメ人間たちの歌に、思わずクスッと笑ってしまうはず!

『ざんねんな万葉集』(岡本梨奈:著、雪路凹子:イラスト/飛鳥新社)

放火してやる 腕を折ってやる

 あそこに小屋があるの、見えますか? そうそう、あの小汚くてセンスのかけらもない、忌々(いまいま)しい貧弱な建物です。

 大人の女性たるもの、もっときれいにしておくべきだと、私は思うのですけど……。住んでる人の品性が知れるわね。

 きっと、小屋の中も汚く散らかっていて、お布団も破れているのでしょう。

 そして私の夫は今ごろ、そんな汚いお布団の上で、女の汚い手を握っているのでしょう。

 ちょっと私、今からあの小汚い小屋に、行ってきますわ。あなた、少し離れていたほうが、よろしいかと思いますわよ。

嫉妬が女を狂わせる
犯罪者にはならないように、冷静に…

三二七〇 作者未詳(女)

原文

刺将焼 小屋之四忌屋尓
掻将
破薦乎敷而 所挌将
鬼之四忌手乎

和歌

さし焼かむ 小屋(をや)の醜屋(しこや)に
かき棄てむ
破(や)れ薦(ごも)を敷きて 打ち折らむ
醜(しこ)の醜手(しこて)を

現代訳

火をつけよう 汚い貧しい小屋に 棄てよう 破れた布団を敷いて 折ってしまいたい 汚らわしい手を

解説

 この歌には続きがあります。「(醜の醜手を)さし交(か)へて 寝(ぬ)らむ君故(ゆゑ) あかねさす 昼はしみらに ぬばたまの 夜はすがらに この床(とこ)の ひしと鳴るまで 嘆きつるかも(〈汚らわしい手を〉交えて 今頃寝ているであろうあなたのせいで 昼は一日中 夜は一晩中 この床が ぴしっと鳴るくらい ため息をついたよ)」

 夫が愛人の家に行って、今頃あんなことやそんなことやイチャイチャしているであろうことを妄想している女性が、激しく嫉妬して詠んだ歌です。和歌中に三度使われている「醜」は、汚いものをあざけりののしっていう語。愛人の家も手も、何もかも、妻にとっては汚らわしくてたまらないのです(そりゃ、そうでしょうね)。

 本当に実行すれば、放火罪や傷害罪、器物損壊罪に問われます。嫉妬の感情は、人をここまで狂わせてしまうものなのです。

 ちなみに、この女性は、この後(三二七一)に「こんな忌々(いまいま)しい男に惚れこんでいるのも、他の誰のせいでもなく、自分の心のせいなのもわかっているのよね……」という歌も詠んでいます。

用語

「さし」「かき」「うち」:接頭語。

「焼かむ」「棄てむ」「折らむ」の「む」:意志の助動詞。

<第6回に続く>