ウマの足は人間で例えると1本指で立っているようなもの!?/『カメの甲羅はあばら骨』④

スポーツ・科学

公開日:2020/1/28

もし人間の骨格の一部が動物のものだったら…

「えっ! カメの甲羅って人間のあばらなの? 」
「フラミンゴの逆に曲がった膝の部分は人間でいう足首!? 」

図鑑や動物園の解説でなんとなく知ってはいるけど、いまいちピンとこない動物の体のしくみ。そんな動物の体の構造を、私たちヒトのからだを無理やり変形させることで、わかりやすくしてみました。

『カメの甲羅はあばら骨 ~人体で表す動物図鑑~』(川崎悟司/SBクリエイティブ)

ウマ 哺乳類(陸上)

 ウマの足は数千万年にわたる進化によって、中指にあたる第3指だけを残してたった1本指になってしまっています。またヒトでいうところの手のひらと足の裏は極端に伸びていて、足全体も長くなっています。この特徴は、走ることはもちろん、サバンナやステップといった開けた環境で暮らすのに適しているといわれています。

走ることだけを追求した足

 ヒトの腕はものをつかんで投げたり、食べ物を口へ運んだりとさまざまな用途で使われますが、蹄行性のウマの前足・後足は、より速く走るためだけにあります。この機能面の違いがあることから、ウマの足とヒトの手足の形態は異なる点が多くあります。

 ヒトには5本の指がありますが、ウマは中指にあたる第3指のみの1本指です。他の4本の指を失くすことによって、軽量化につながりました。また手首、足首より先端の骨が長く伸びることによって、足は長くなり、歩幅も大きくなりました。【図①】

 ヒトの前腕(肘から手首までの部分)には橈骨(とうこつ)と尺骨(しゃっこつ)という2本の骨がありますが、この2本の骨をクロスするように動かすと手首が回転するしくみになっていて、より複雑な手の動きができるようになっています。【図②】

 一方、ヒトの腕にあたるウマの前足では、橈骨と尺骨はほとんど融合して、1本の骨となっているため手首を回すことができません。【図③】ウマの足はヒトの手にくらべると、ずいぶん動きが制限されているように感じますが、地面を力強く蹴って走るだけのウマにとっては、複雑な動きは必要ありません。もしも、ウマの足がヒトのように橈骨と尺骨がクロスする構造をしていたら、かえって手首、足首をひねる危険があるため、このような骨格になったと考えられています。

環境の変化により消えていく指

 長くなった1本指で地面を蹴り、開けた草原を疾走する。これがウマの進化の最終段階です。このような姿に進化する前の大昔のウマの仲間はどのような姿をしていたのでしょうか。

 最初に現れたウマの仲間の化石は北アメリカとヨーロッパで発見されており、ヒラコテリウムと名付けられました。今からおおよそ5000万年前に生息した動物です。現在のウマとくらべて、体は小さく、前脚には4本、後脚には3本の指がまだ残っていました。ヒラコテリウムの臼歯は今のウマよりも、ずいぶん低く、柔らかい木の葉などを食べていました。今のウマが食べる草原の草は硬い石英の微粒子が含まれているため、臼歯が発達していないヒラコテリウムがそれを食べると、すぐに歯が擦り減ってしまいます。柔らかい木の葉しか食べられないヒラコテリウムは木の多い環境を好んだため、今のウマのように開けた草原で速く走る必要もなかったのでしょう。

 2000万年前あたりになると、気候変動で森林から草原へと変わる地域が多くなり、ヒッパリオンとよばれる草原に適応したウマの仲間が現れました。別名「三指馬(さんしば)」とよばれたこのウマは、3本の指を残していますが、両端の指は縮小していて、地面に届いておらず、実質1本指で立っていたようです。やがて両側の指の骨は縮小してなくなり、現在の1本指のウマとなりました。

続きは本書でお楽しみください。