問題がなかなか解決しないときは“問い方”を見直してみよう/『哲学シンキング』②

ビジネス

公開日:2020/3/19

今後5年10年のビジネスは“問題解決型”の能力より、“課題発見型”の能力が重視される時代になる――。次の課題を見極める力を高め、世界のトップ人材に求められる新時代型の能力を身につけるための思考メソッド「哲学シンキング」を紹介します。

『「課題発見」の究極ツール 哲学シンキング 「1つの問い」が「100の成果」に直結する』(吉田幸司/マガジンハウス)

「問い方」を変えるだけで世界がひらける

 哲学のもっとも重要な技法の1つは、「問い方」を変えてみるということです。悩みや問題に直面したとき、ほとんどのひとはそれをどうやったら解決できるだろうか、と「答え」を追求するでしょう。

 たとえば、「ほんとうのわたしは、何をしたいんだろう?」という疑問を抱いたひとがいるとします。

 これもしたい、あれもしたいと、いろいろなやりたいことがあって、ほんとうに何をしたいかわからない場合。

 あるいは、これもしたくない、あれもしたくないと、これといってやりたいことがなくて、ほんとうに何をしたいかわからない場合。

 いずれの場合でも、なんらかの「解」を求めようとしがちです。

 でも、そもそも「ほんとうのわたし」なんて存在しないとしたらどうでしょうか。

「ほんとうのわたしは、何をしたいんだろう」と、いくら自己分析してみても答えは見つかるわけがありません。たしかに、

 A「これをしたいわたし」

 B「あれをしたいわたし」

 C「これもあれもしたくないわたし」

 ABC、どれも等しく「わたし」です。

 ここまでは、リアルに実感できる「わたし」です。

 では、この世界のどこかにわたしがまだ知らない「ほんとうのわたし」という存在がいるのでしょうか? ん? どこに?

 この場合、そもそも問いの前提、あるいは問いの立て方(問い方)じたいが間違っていそうです。

「ほんとうのわたしは、何をしたいんだろうか」と問うよりも、

「そもそもほんとうのわたしなんて存在するのか」と問うほうが、

 どこか肩の荷が下りて、気負わず柔軟な発想ができる人もいるはずです。

 だって「ほんとうのわたし」が存在しないのに探しまわっても、ただ徒労に終わるだけですよね。

 ビジネスにおけるモノづくりだってそうです。

 新しい自転車を開発するプロジェクトがあったとします。

 たとえば「“これまでにない斬新で画期的な自転車”のアイデアを出してくれ」と言われても、そう簡単には出せるものではないでしょう。

 いまある自転車のデザインをちょっとカッコよく変えたくらいでは、画期的とはいえませんからね。

 でも、「“自転車”にまつわる問いを、なんでもいいから出してくれ」と言われたらどうでしょうか。

「そもそも自転車とは何か」「なぜ、自転車は足だけでこぐのだろうか」「腹筋や背筋も使って、こいだらいけないのか」「自転車は、移動する手段の乗り物なのだろうか」……。

 こういった問いをひたすらあげて突きつめていくなかで、全身の力を最大限に使ってこぐ自転車をつくったってかまわないことに気づくかもしれません。

 あるいは、移動手段ではなく、スポーツや娯楽のために使うのはどうでしょうか。

 そうやって、まったく新しい自転車ができたこともあります。

全身を使ってこぐ自転車「FAZOM」

 写真は「FAZOM(ファゾム)」といって、ボートをこぐように、全身の屈伸運動を通して動かす自転車です。ぼくといっしょに哲学の会社を創業したメンバーの吉辰桜男(よしたつさくらお)が、自身の事業として開発・販売しています。

 これまでのペダルを回す駆動方式に「問い」を立て、人間に最大限の力を発揮させるには、フレームが人間の動きを制限してはならないというコンセプトのもと、つくられました。

 また、たんに便利でラクな自転車ではなく、「全身のエネルギーを速度に変える」という体験と思想を軸に、独自の顧客を創出し、ロサンゼルスなどの一部地域で販売されています。

 新しい市場をつくる製品を生み出し、独自の立ち位置を獲得するためにも、既存のモノに対して、問いを立てること、そしてその問いを深く洞察し、軸をつくりあげることはきわめて有効なのです。

 これらに共通するのは、「問いの答え」を求める前に、問いの前提や問い方を見直してみることで、思わぬ視点を得られたり、グルグル空回りしていた思考を前に進めたりできるということ。

 つまり、ものごとの「そもそも」を問うことで、新しい気づきがあったり、答えが見つかったりします。

<第3回に続く>