「白井悠介のなんとかなるさ」③声優になるって、決めていたから

小説・エッセイ

公開日:2020/4/20


 学生時代のぼくは、勉強が大嫌いな子どもでした。優秀でおとなしい兄や弟とは違って、ぼくはとにかくヤンチャで、静かに机に向かうことができなかったんです。中学生の頃は数学と英語が苦手で、赤点を取ってしまうこともありました。それでも勉強しなかったのはなぜか……。

 そうなんです。

「高校なんていっぱいあるし、どこに通ったっていいじゃん!」

 そう思っていたんです。よく言えば楽観的、悪く言えばなんにも考えていなかったんですよね。

 高校に進学してからも、ぼくの勉強嫌いは加速する一方。そんなぼくを見て、両親はさぞ不安だったことでしょう。でも、当時のぼくは「勉強する必要なんてない」とすら思っていたのです。

 だって、声優になることを決意していたから。

 きっかけは、兄が一足先に声優の専門学校に進学したことでした。

 もともと兄もぼくも幼い頃からアニメやゲームが大好き。キャラクターに声を吹き込む声優に憧れるのも、自然なことです。でも、ぼくには「声優を目指す」なんて選択肢はありませんでした。だって、田舎に住む少年にとって、声優なんて夢のまた夢みたいな職業。現実味がなかったんです。

 それなのに、まさか兄が本気で声優を目指すだなんて……! その事実はとても衝撃的で、同時に、「声優って、目指してもいいんだ」と視界が拓けたことを覚えています。

 それは高校2年生の頃。誰もが進路に悩む時期です。でも、ぼくの心は決まっていました。兄と同じように、声優になる。

 そうと決まれば、勉強なんてもっとしなくなります(笑)。声優になるためには、数学も英語もいらないはず――台本は必要だから漢字さえ読めればいいんでしょ!?

 そんな考えで、ぼくは日夜ゲーセンに入り浸る日々を送るのでした(笑)。

 もちろん経験を積んだ今では、仮に声優になれたとしても、勉強はしておいた方がいいと考えています。でも、その頃のぼくは「絶対に声優になれる!」と思い込んでいて、それ以外のことは考えられなかったんです(笑)。

 ここだけの話、声優を志した頃のぼくには、秘密の習慣がありました。

 それは、自分の声を携帯電話に録音し、繰り返し聴くこと。プロの声優になりきって、好きなアニメやマンガのセリフを朗読していたんです。そして、その声がめちゃくちゃよかった……!

 そう、自画自賛です(笑)。

 聴けば聴くほど、「あれ? 本当にプロの声優になれるんじゃない?」と、謎の自信は増すばかり。だからこそ、ぼくには声優以外の道は見えていなかったのです。いや~、思い込みって怖いですよね。

 それでもこうしてプロになれたんだから、当時の自分を褒めてあげたい。

 ただ、万が一、あのときの録音データが出てきたらどうしよう……。恥ずかしくて誰にも聴かせられない……。

 頼むからお母さん、あのとき使ってた携帯電話は捨てといて!


今週の一言:ぼくの声、めちゃくちゃ聴き心地よくない?

構成協力=五十嵐 大 写真=干川 修 スタイリング=小林かおる ヘアメイク=川口愉里恵

第4回につづく

しらい・ゆうすけ
1月18日、長野県生まれ。2011年に声優デビュー。2015年に出演した『美男高校地球防衛部LOVE!』で注目を集め、以降、『アイドルマスター SideM』『アイドリッシュセブン』『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』などの話題作への出演が相次ぐ。「理想の緑」をブランドアイコンとする、オリジナルアパレルブランド【MIDORI】も立ち上げたほか、YouTuberとしての活動もスタートし、「しらいむチャンネル」で自由気ままな動画も投稿中。
公式Twitter:@shirai_universe
公式YouTubeチャンネル:しらいむチャンネル
MIDORI公式サイト:アパレルブランド