闇が深い… 絵の統一感を守る守護神「作画監督」の仕事/『アニメーターの仕事がわかる本』⑤

アニメ

公開日:2020/4/27

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

原画における「一原」と「二原」の違い

にしー先生:実際に原画を描く作業だけど、最近だと「第一原画」と「第二原画」の2つのパートに分かれることがほとんど。現場では「一原」と「二原」って呼ばれているよ。

もちい:「一原」と「二原」? なんですかそれは?

にしー先生:「一原」は絵コンテからレイアウト(配置図)を起こして、ラフな動きを描くところまで。一原は演出のチェックを通った後に、作画監督と総作画監督の修正が入る。その修正を反映する形で一原の清書をするのが二原だね。

もちい:それって、両方とも同じ人が担当するんでしょうか。それとも一原と二原で人が変わる?

にしー先生:2010年くらいまでは1人の原画マンがどっちもやっていたんだけど、今は分業が進んでそれぞれ別の人がやるようになっちゃった。

もちい:ほほう。これもまた独特なシステムですね。

にしー先生:あと、一原を担当した人は中割りの指定もしないといけない。
「原画と原画の間に何枚の動画を入れるか」「どのタイミングで絵を動かすか」みたいなことを「タイムシート」という用紙に書き込んで、次のパートの人たちに指示を出すの。

もちい:なるほどー。

にしー先生:さらに、二原は完成してから再び作画監督に回して細かい修正を入れてもらう。動画マンの使う素材は、何重ものチェックを通した原画(第一原画と第二原画)、作画監督修正、タイムシートの3点セットになるね。

もちい:うわー、同じ絵に何度もチェックと修正が入るんですね。その作画監督っていう人も大変そうだなぁ。

にしー先生:ふふふ、それはもうすっごく大変ですよ……。作画監督のお仕事についても、ちゃんと説明するからね~。

もちい:(なんか今、不穏な笑いが出たような……)

「作画監督」は絵の統一感を守る守護神

にしー先生:テレビアニメ1話あたりに参加する原画マンは、だいたい20~30人。これだけの人数で足並みを揃えて描くっていうのは、けっこう大変なことだよね。

もちい:改めて聞くとすごい人数……。
だって、「クラスメイト全員でドラえもんを描いてみましょう」みたいなことじゃないですか!
たとえお手本があったとしても、絶対に絵柄がバラバラになっちゃいますよう。

にしー先生:まあ、それをどうにか似せていくのがアニメーターの技術ではあるんだけど。やっぱり集団で描く以上、ある程度は絵柄のズレとかクオリティの差とかが出ちゃうわけですよ。キャラクターの演技もブレたりするし。

もちい:プロであってもそこはなかなか難しい、と。

にしー先生:でも、1話の中でキャラクターの顔とか演技がコロコロ変わると「お前、さっきと顔つきが違うけど、何か心境の変化があったのか……?」「この子、こんなにニコーって笑うキャラだっけ?」みたいなことになっちゃうし。

もちい:そ、それは心配で本編に集中できません。

にしー先生:そういう現象を防ぐためにも、どこかで全体の絵を統一する人が必要になるんだよね。……で、それこそがさっき出てきた「作画監督」っていうポジションなんです!

もちい:ああっ、なるほど! 繋がりました。

にしー先生:これは原画からさらに経験を積んだ人がつけるポジション。レイアウトや原画に修正を入れることで、1話あたりの作画を統一するのが主な仕事だよ。担当話に原画として参加することもあるかなー。その話数の責任者とも言える立場だから、それなりに実力が必要になる。

もちい:重大なポジション……!
あの、ちょっと気になってたんですけど、「修正」って原画に直接描き込むものではないんですよね。別の用紙に書くんですか?

にしー先生:そうそう。原画の上にもう1枚紙を重ねて、その上から修正の線を描き込むの。ちょっと描き足したり直したりするのを「部分修正」、そうじゃなくて絵を丸ごと描き直しちゃうのは「全修正」って言うよ。

もちい:「全修正」!? それはかなり重い作業なのでは。

にしー先生:そうなんです……。原画の仕事をやるのと変わらないときもあるし、あまりにひどいケース以外はやりたくない。気持ち的には「あーもう、どうしようもないから自分で描くしかない!!」って感じ。

もちい:ううっ、苦労がしのばれます。ちなみにその修正は、上がってきたカット全部に入れるんですか?

にしー先生:それが理想だけど、時間的になかなか難しいかなー。元の原画の人が上手であれば、キャラクターの顔が大きく出るところとか、大事なシーンとかを優先して入れるだけでいい。「ここは直さなくても品質にはそんなに影響しないな」っていうポイントを見極めるのも、必要な技術の1つかもしれないね。

もちい:ほうほう。抜くところは抜いて、入れるところでビシッと入れる、と。

責任とプレッシャーの狭間で

にしー先生:ただ、あまりにスケジュールが逼迫していたり、クオリティが低い原画が多かったりで、十分な修正を入れる時間がないってケースもあって。最悪、作画監督の手がまったく入らないことも……。

もちい:それは、その……。ネットとかで「作画崩壊」(クオリティが著しく低下した状態で放映されること)と呼ばれちゃったりするやつ?

にしー先生:です!! しかもそういうときでもクレジットには作画監督の名前が出る。だからネットなんかで「この話数の作画監督、〇〇じゃん」とか石を投げられたりして……。

もちい:いや、ちょっと待ってください。なんだかどんどん暗い話題になってきてませんか?
動画や原画の話のときって、もうちょっと雰囲気が明るかったですよね?

にしー先生:ふふふ。気づいてしまったようだね、アニメーション制作現場の闇に。

もちい:にしー先生がダークサイドに堕ちた目を!?

にしー先生:もちろん動画にも原画にも大変なことはあるよ。ただこの作画監督は、そこに至るまでの工程で積み重ねられた色んなあれこれを背負わなければならない立場なんだ。それこそ、お尻が詰まりに詰まったスケジュールとか、どうにかして引き上げなきゃいけないクオリティとか!

もちい:あああ、なんとなく事情が見えてきました。えーっと、作画監督って全体を統一する人なんですよね。1話につき1人が担当ってことですか?

にしー先生:昔は1人だったんだけど、これもスケジュールとかの関係で回らなくなってきちゃってねー。だから最近の現場では、1話あたりに何人も作画監督がいるのも珍しくないの。
エンディングのクレジットに作画監督が何人いるかで、その現場の追い詰められ具合がわかるよ。

もちい:くっ、話をそらしたつもりだったのに被弾してしまった……。じゃあ、何人くらいに収まっているのが健全な現場なんでしょうか?

にしー先生:一番いいのは1人、2~3人ならまあまあ順調、そこから増えていくと危険が上がっていって、10人近くなってくるともう、めっちゃヤバい。

もちい:じゅ、10人って。これまたすごい。

にしー先生:負担が大きい仕事だしねぇ。ただそのぶん腕のいい作画監督だと「拘束費」っていうお金を出してもらえることもあるし。あ、これについてはまた別のところで説明するから!

もちい:良かった、ちょっと救いが出てきた。

にしー先生:昔は作画監督って業界でも花形だったし、「○○の○話の作画監督やりました」というのは名刺代わりになったのに、今は人数も増えて、立場としてはずっと軽くなっちゃった。
ただ「アニメーターになった以上はやっておきたい仕事」であることには変わりないから、頑張って目指さないといけない。ここにたどり着かない限りは生活も苦しいし、アニメーターとして名前を売っていくのも難しいしね~。

もちい:なるほど。キャリア的な観点からも重要なポジションになるんですね。

にしー先生:そういうこと!

<第6回に続く>