「精神的に病むからやりたくない」という人も… 良くも悪くもアニメの看板!「総作画監督」の仕事/『アニメーターの仕事がわかる本』⑥

アニメ

公開日:2020/4/28

長時間労働で低賃金、パワハラ、作画崩壊とか怖いニュースが多すぎ…一体、どんな働き方をしているの? 社会問題にすら発展したアニメーターの働き方と現実を、人気作画監督・西位輝実の実体験と取材。アニメーターの世界を歩くための、ゆるくてシビアな業界入門書です。

『アニメーターの仕事がわかる本』(西位輝実、餅井アンナ/玄光社)

憧れと重圧の「キャラクターデザイン」

もちい:最後の「キャラクターデザイン」っていうのは、えーっと……キャラクターを作るっていうのとは違う? 漫画とかゲームとかが原作だったりすると、もうキャラクターのビジュアルってできあがってますよね?

にしー先生:そこがちょっとややこしいよねー。
キャラクターデザインというのは、キャラクターそのものを作るんじゃなくて、すでに作られたキャラクターをアニメーションの中で動かしやすい形に作り直すこと。ちょっと名前が似ていて混同されやすいのが「キャラクター原案」なんだけど……聞いたことない?

もちい:あっ、聞いたことあります! よく漫画家とかイラストレーターの人がやってるやつだ。

にしー先生:正解! それがキャラクターの外見そのものを作る仕事。漫画とかゲームとかの原作がある場合、その設定が原案ってことになるね。

もちい:そういう違いだったんですね。理解できました!

にしー先生:だけどほとんどの場合、原案で作られたビジュアルっていうのは「動かす用」のデザインにはなってないんだよね。ディティールが細かすぎたり、前後でクルッと回して見たときに形が繋がってなかったり、目の大きさとかにちょっとブレがあったり。
もともとのデザインをうまくコントロールして、誰でも描きやすいように記号化するっていうのがキャラクターデザインの役割なんだ。

もちい:えーっと、イラストをフィギュアにする、みたいな? 二次元の絵を三次元に起こすようなイメージ?

にしー先生:それにちょっと近いかな。誰が見ても全身がどうなっているのかがわかるようにする。
それだけじゃなく、特徴をつかみやすいデザインに落とし込むのも大事だね。わかりやすい特徴があれば、多少絵柄がバラついてもキャラクターの見分けがつきやすいでしょ? それこそ「ドラえもん」なんかは良いデザインだよねー。

もちい:ああっ、たしかにすごい! 小学生が描いても「ドラえもんかな?」ってラインまでは持っていけますもんね。

にしー先生:そうそう。話がそれたけど、キャラクターデザインというのは、作品全体の空気を自分のものにできる華やかなポジションなんだ。看板として大きく名前も出るし、「アニメーターの憧れ」と言ってもいいかもしれない。

もちい:全話を通して自分の絵柄が動いてるってことですよね。それはやりがいがありそう!

にしー先生:そして、一緒に説明をしておきたいのが「総作画監督」の仕事。なんとなく想像がつくと思うけど、これは「作画監督」のさらに上にあるポジションだよ。

作画監督のさらに上に立つ「総作画監督」

もちい:作画監督は1話単位の責任者でしたよね。じゃあ、総作画監督っていうのは……。

にしー先生:ご想像通り、全12話なら12話分の作画を統一する、テレビシリーズ全体の作画監督です!!

もちい:作画監督だけでもあんなに大変そうだったのに!?

にしー先生:なんでここで説明したかっていうと、総作画監督はキャラクターデザインとセットになることがよくあるから。分かれているケースもあるんだけど、どちらにせよすっごくきつい仕事なんだよね。「精神的に病むからやりたくない」って人もいるくらい。

もちい:えええ。作業の量が多すぎるってことですか?

にしー先生:もちろんボリューム的にもきつすぎるんだけど、寝ないで一生懸命やったのに動画作業のスケジュールが取れなかったり、自分のところで作業を止めちゃったせいで以降のスケジュールが崩れたりして、最終的なクオリティが残念なことになるコースがあって。

もちい:作画監督の話で出てきた闇が、ここにきてさらに深まってるじゃないですかー! ううっ、つらすぎます。

にしー先生:良い意味でも悪い意味でも「看板」なんだよねぇ。名前がバーンと出ちゃうから色々言われることもあるし。

もちい:ひゃあー、プレッシャーもすごそう。

にしー先生:でも逆に、自分で納得するクオリティの作品を世に送り出せたとき、それが視聴者や同業者に評価してもらえたときはすごく嬉しいよ。そこに至るまでの苦労が……その……大きすぎるだけで……。

もちい:そ、それは良いのか悪いのか。

にしー先生:あっはっはー。まあ、大勢のアニメーターの多大な苦労の積み重ねによって、アニメーションの作画は完成させられているわけですよ。
もちろんそれでおしまいじゃなくて、動画に色を着ける「彩色」、絵を実際にアニメーションにする「撮影」や「編集」などのパートを経て、ようやくテレビで放送されるような映像ができあがるの。
視聴者の目に映るのはたったの24分くらいだけど、そこに至るまでがものすごく長い道のりだったでしょ?

もちい:はい、正直びっくりでした! これからはアニメを見る姿勢も変わっちゃいそうだなぁ……。

<第7回に続く>